Gorge Waterfallsがウェスタン・ステイツのqualifierに。


2017年のウェスタン・ステイツにエントリーする資格が得られるレースのリストが発表されましたが、その中に以前ブログでも紹介した Gorge Waterfalls 100k​が加わりました。(同じ週末に開催される50キロのレースではウェスタン・ステイツのエントリー資格はもらえません。)

ポートランドのすぐそば、コロンビア峡谷沿いのトレイルを、レース名の通りたくさんの滝を眺めながら走ります。高低差を見ると大したことないように見えますが、実際に走るとかなりタフ。

エントリーは10月22日開始、抽選になる可能性もあるようです。レースの日程はまだ発表されていませんが、例年通りだと3月末。私はいまのところ3月中旬に開催されるChuckanut 50k​に出る予定で、例年通りの日程で開催された場合はGorge Waterfallsには出ませんが、応援には行く予定です。

アメリカ北西部のレースの雰囲気を感じたい方にはおすすめです。


世界で最もハードなレース

「世界で最もハード」と言われるレースはいくつかありますが、アメリカやヨーロッパのトレイルランナーに聞いたら、その多くがアメリカ・テネシー州で行われる「バークレイ・マラソンズ/The Barkley Marathons」を挙げるのではないでしょうか。

このバークレイ・マラソンンズのドキュメンタリー・フィルムが、トレイル・ランニング・フィルム・フェスティバルで上映されるということで、観てきました。アメリカ西海岸では初上映だそうです。

トレイル・ランニング・フィルム・フェスティバルはシアトルを皮切りに今秋全米各都市で開催されます。


でもって、このレース・・・ホントにヤバい。

1986年に初開催されてから延べ約1000人が参加していますが、これまでの完走者はたったの14人(うち2人が2度完走)。つまり完走率は1%台。年に一人完走者が出ればいい方という凄まじいレースです。

エントリー方法からして特徴的で、「なぜ私をバークレーマラソンズにエントリーさせなければならないか」について書いた作文によって選考され、数百人のエントリー申し込みの中から40人程が出場権を獲得します。

出場権を得た人はレース受付時に出身地の車のナンバープレートなどを持参し、これらと引き換えにゼッケンを受け取ります。ナンバープレートはスタート地点にずらりとぶら下げられます。

そして肝心のレース概要はというと…

  • コースは(一応)20マイルのコースを5周、全長100マイル。ただし毎年微妙にコースは変わっていて、かつ実際の距離は謎、というか実際はもっと長いらしい。
  • 制限時間は60時間。
  • 累積標高は16500メートル(=エベレストふたつ分)。
  • 5周のうち最初の2周は時計回り、次の2周は反時計回り、最後の1周は、1位の人は自分の好きな方向に、2位以降の人は前の人とは逆周りに走る。ちなみに、3周(60マイル)まわることを「ファン・ラン」と呼ぶ。
  • エイドステーションはなし。ウォーターステーションが二箇所のみ。
  • コースマーキングもなし。スタート前にコースが記された地図を確認し、そこに書かれた内容をもとに自分の地図に情報を書き込む。この地図とコンパスとGPSを頼りに進む。
  • コース上には約10冊の本が置かれており、各ランナーは正しいルートを走った証拠として、それぞれの本のゼッケンと同じページを破って持って帰ってくる必要がある。
  • いつ吹かれるかわからないレースディレクターの法螺貝の音がレーススタート一時間前の合図。夜かもしれないし、朝かもしれない。
  • レースディレクターがタバコに火をつけるのがスタートの合図。
  • リタイアすると、戦死者を弔うのに倣ってトランペットが吹かれる。

予告編を見ただけでもこのレースがいかにきついかがわかる映像ばかり。傷だらけの脚や、疲労や睡眠不足で朦朧とした表情、斜面を登りそこねて滑り落ちる人、転んで頭から血を流す人、コースを見失い命からがらやっとのことでスタート地点へと戻ってくる人、疲れ果て、精根尽き果てて戻ってくる人などなど。参加者が次々とレースから脱落していく様は壮絶です。

そしてレース模様の合間合間に挿入される、レースの創設者かつレース・ディレクターのガリー・キャントレル/Gary Cantrellのユーモアに溢れつつも不敵に語る表情は、山の主にも悪魔にも見えてきます。

こんなレース、私は絶対に出る気になれません。だって、はなから絶対辛いにきまってますから。

ちなみに、丁度この週末、本家バークレイ・マラソンズの簡易版「バークレー・フォール・クラシック」が開催されます。こちらは本家と違ってちゃんとコースマーキングしてあるし、エイドステーションもある50キロのレース。コースも被っているとのことで、本家の雰囲気が味わえます。棘だらけの藪も走るので脚は傷だらけになるようですよ。簡易版の方なら、怖いもの見たさで私も出てみてもいいかなぁ。そして、この簡易版の優勝者はバークレイ・マラソンズの出場権を与えられるとのこと。

勇気のある方、ぜひバークレイ・マラソンズにチャレンジしてみてはいかがでしょう?


アメリカのハイキング・ブーム

こんにちは、藤岡です。シアトルからUTMBへと向かう機内の映画のラインアップに、「わたしに会うまでの1600キロ」(原題「Wild」)がありました。
南はアメリカとメキシコ国境から、北はアメリカとカナダ国境までアメリカ西海岸を南北に縦走する全長4,260 kmのパシフィック・クレスト・トレイルを舞台にした、実話の本をベースにしたこの映画。生活が荒れた若い女性が、自分探しの旅に出る映画です。ちょうど現在日本でも公開されていますね。あらすじはというと…

砂漠と山道を徒歩で旅することにしたシェリル(リース・ウィザースプーン)。旅をスタートさせる少し前、シェリルは母の死を受け入れられず、薬と男に溺れる日々を送り、結婚生活は崩壊してしまう。シェリルは人生について思い直し、自分自身を取り戻そうと決意。こうして彼女は旅に出たが、寒さが厳しい雪山や極度の暑さが体力を奪っていく砂漠が彼女を苦しめ……。
シネマトゥデイより)

でもって機内での暇つぶしに買った雑誌「BACKPACKER」の9月号の記事にも、パシフィック・クレスト・トレイルについての記事が。なんでもこの映画の影響で、今年だけでもいろいろなニュースがあるようです。

  • 映画の影響でパシフィック・クレスト・トレイル・アソシエーションのウェブサイトへのアクセスが3倍に。(1月20日)
  • ジョン・ミューア・トレイルのヨセミテ区間の渋滞を緩和するため、ハイキングに必要な許可に関する新しいルールが運用開始された。(2月2日)
  • ショーン(Shawn “Pepper” Forry)とジャスティン(Justin “Trauma” Lichter)が、冬季に北から南へ132日でスルー・ハイクを完了し、知られている範囲での最速記録を樹立。(3月1日)
  • アパラチアン・トレイルの「リッジ・ランナー」に倣って、パシフィック・クレスト・トレイルの北側100マイルに試験的に「クレスト・ランナー」が試験的に配置される。スルーハイクをしている人たちへ声を掛けたり、助けたりするのが役割。(3月23日)
  • スルーハイクを計画していた18歳の少年が、たったの12時間で携行していた水を使い果たし、救助される(5月4日)
  • 5月中旬時点で1500人が北からスルーハイクを行っている。昨年比で30%、10年前と比較いて500%の増加。(5月22日)

ちなみにアメリカでは「A Walk in the Woods」という映画がちょうど公開されたばかり。こちらはこちらは年を取った2人の男が、アメリカ東海岸を南北に走るアパラチアン・トレイルを歩くお話。

アメリカは大のハイキング・ブームのようですが、それに比例して事故も増えているようなのでくれぐれも気をつけないといけませんね。


「過激な」ダイエット本とファット・ローディング

名教授のRadical(過激)な新著

運動科学およびスポーツ科学の大家で、ケープタウン大学教授のTim Noakes/ティム・ノークスが1985年に著した「Lore of Running」(邦訳:ランニング事典)は、ランニングを生理学・心理学・トレーニング理論・医学などあらゆる側面から論じた、まさしくランナーと指導者のバイブルと呼ぶにふさわしい分厚い本です。この本の中で彼は、「カーボ・ローディング」の有効性を理論的に論じています。レースの数日前から炭水化物を多めに摂取することでエネルギー源となるグリコーゲンを蓄える食事摂取法は、今ではランナーにはお馴染みの概念ですが、この考え方を広めた一端を担ったのは彼と言っても過言ではないでしょう。

さて、そのティム・ノークスの新著The Real Meal Revolutionを入手しました。「ホントの食事革命」とでも訳しましょうか。いわゆるダイエット・レシピ本で、理論部分をティムが担当し、レシピについては料理家が担当しています。必ずしもアスリートに向けられた本ではなく、だれでも適用可能という触れ込みです。
この本が提唱するダイエットはカーボローディングとは真逆の考え方で、いわゆる糖質制限ダイエットの系譜に属するといってもいいかもしれません。

副題は「The radical, sustainable approach to healthy eating」、「健康な食事のための革新的(あるいは過激)で持続可能な方法」といったところでしょうか。

そのルールは、おこめの国から来た私にはなかなかハードルが高い。

  • 脂肪を摂れ。皮付き鶏肉の皮は剥ぐな。霜降り肉を食え。
  • 炭水化物は悪。穀物やパン、パスタなどは一切ダメ
  • 糖分は控えろ。砂糖は使うな。フルーツ食うなら野菜を食え。
  • 野菜を十分に取れ。特に緑黄色野菜。
  • 高タンパク質ダイエットではないので、タンパク質もほどほどに。

理論的には主に以下の理由から炭水化物を極力取らず、脂肪を積極的にとって効率的に脂肪を燃やせる体に変えていくように説いています。

  • 炭水化物を摂取すると、血糖値があがり、インシュリンの分泌を促進し、炭水化物(糖分)を脂肪に変えて、脂肪が体内に蓄積される。この過程で悪玉コレステロールが生成されやすい。一方、脂肪を摂取した場合、インシュリンの分泌を促進せず、悪玉コレステロールの生成を引き起こしにくい。
  • 炭水化物は満腹感を得にくく食べ過ぎてしまう。一方、脂肪は満腹中枢を適切に刺激する。

この本が提唱する考え方に対しては、他の糖質制限ダイエット同様、専門家による反論があります。また比較的新しい考え方なため、本当に良いのか経験的に明らかになっているとは言い切れません。

ファットローディングという考え方

ティム・ノークスが提唱するダイエットを行うかどうかはひとまず置いておいて、脂肪を中心とした食事法はウルトラディスタンス(超長距離)のランニング界でひとつの潮流となりかけています

例えばトラックの100マイルや200キロでアメリカ記録を樹立したZach Bitter/ザック・ビッターは、脂肪を燃焼しやすい体質に変えたことで、より健康になり、記録も伸びるようになったと述べています

また鏑木毅さんもかつて、マラソンの4倍もの距離がある100マイルレースでは、蓄えられる量が限られる糖質に頼るカーボローディングは当てにならず、むしろ脂肪をエネルギーとして有効に使える体質にする方が良いと発言しています

実はティム・ノークスも先述の旧著「Lore of Running」でカーボ・ローディングの重要性を指摘する一方で、まだ研究が不足しているものの理論的には脂肪を効率的に燃やすことが有効なのではないかと説いていました。

下の図1にあるように、エネルギー源となる脂肪が体重の約15%を占めるのに対して、炭水化物はたったの1.3%。比較的強度が強い運動をすると、まず炭水化物が優先的にエネルギーとして利用されますが、新たに補給しない限り、フルマラソンではゴールに到達する前に糖質(グリコーゲン)は枯渇してしまいます。マラソンにおけるいわゆる「30キロの壁」の一因とも考えられています。

図1:人の体が何で出来ているか。83%が水分、脂肪が15.7%、炭水化物が1.3%。体重が50kgの人では、体重のうち脂肪は7.5kg、炭水化物はたったの600g〜700g。
「Lore of Running」101ページより。

また下の図2のとおり、運動強度によって使われるエネルギーは異なり、強度が低いほど脂肪が使われます。短距離走などの無酸素運動ではもっぱら炭水化物がエネルギー源ですが、有酸素運動では強度が低くなるにつれて炭水化物よりも脂肪がエネルギーとして使われる割合が増えていきます。マラソンよりも強度が低いウルトラディスタンスで脂肪を効率的に燃焼することが有効と強調されるひとつの理由です。

図2:運動強度が高い(下軸が右の方に行く)と炭水化物が使われ、VO2maxの80%の強度でほぼ100%が炭水化物。運動強度が低い(下軸が左の方に行く)と脂肪の割合が多くなる
「Lore of Running」120ページより。

実践編?

私の現在の食事はおそらく日本の食卓にならぶ平均的なもので、炭水化物もしっかりとり、肉も魚も野菜もアルコールも適量といった感じです。ファット・ローディングには興味があって試してみたいのは山々ですが、現状体調に大きな問題もなく、急に食事を変えるのも勇気が要ります。

まあ、オフシーズンに入ったら、ちょっと試してみますかね。ということで、本が本当に有効かどうかの実践編はまたいつの日か。