FAT ASS!

こんにちは。藤岡です。

シアトル界隈のトレイルランニング・コミュニティの新年は、今年もウェスタン・ワシントン・ファット・アス(Western Washinton Fat Ass)というイベントで幕で開けました。

例年、年明けの第一土曜日に、シアトルから車で30分ほどのところにあるタイガー・マウンテン(Tiger Mountain)で開催され、一周25キロのコースを一周または二周します。今年は1月2日に行われ、私の知った顔もたくさん集まりました。

ファット・アス」はアメリカではいろいろな場所で時期を問わず行われているイベントで、走るのが好きな人が一緒に集まって純粋に走るのを楽しむ非公式の行事です。多くのばあい無料で、コースマーキングもなかったり、あっても最低限。エイドステーションもなければ、ゼッケンもなく、レースでもなければ表彰式もありません。

ファット・アスは日本語に訳すと「太った人、尻の大きな人」といったような意味。クリスマス休暇明けでたるんだ体に刺激を入れるのには持ってこいです。

私は25キロの予定で走り始めましたが、途中で道を間違えて、結局10キロ余分に走りました。タイガーマウンテンは標高915メートルほどの高くない山ですが、それでも上の方は結構な積雪。楽しいですなぁ。


トレイルランニングとドーピング

あけましておめでとうございます。藤岡です。

年末以来、アメリカのトレイルランニング界でホットなトピックの一つがドーピング問題。私もこの年末年始、ちょっとこの問題について考えてみました。

発端と反応
発端は私も参加した12月のThe North Face Endurance Challenge Californiaという大会。過去にドーピングが発覚したために二年間の出場停止を受けたことがあるイタリアのエリートランナー、エリッサ・デスコ(Elisa Desco)が、レースの数日前に急遽エントリーリストに追加されたことにはじまります。

エントリーを受けて、アメリカのトレイルランニングで中心的な役割を果たすインターネットメディアiRunFarが、レース直前情報の中で、彼女は優勝候補の一人であることを報じ、合わせて彼女のように過去にドーピングを行った者に対してどのような報道姿勢を取るかを明らかにしました。曰く、過去にドーピングで処分を受けた選手については、常に前科を記事で記すとともに、記事によってこうした選手の活動をサポートすることがないよう当該選手については最低限の報道しか行わない、と。

このニュースに人々は敏感に反応しました。「なぜ大会主催者は選手を締め出さないのか」「いやいや選手は既に出場停止処分は解けているから主催者は拒否できない」「直前だから急に締め出すことはできないとしても、主催者はすくなくとも過去にドーピングを行った選手に対する立場を明確にすることはできないのか」などなど。

結局のところエリッサ・デスコはレース序盤でリタイアしてレースの中心にはなりませんでしたが、その翌週に行われたカリフォルニアのトレイルランニング大会で、今度はランス・アームストロング(Lance Armstrong)が優勝しました。そう、皆さんご存知の、ツール・ド・フランスで7連覇したものの薬物使用で優勝を剥奪された彼です。

続けざまに過去にドーピング歴がある選手が話題になり、こうした選手に対する扱いについて各メディアやランナーの間で話題になりました。Run Clean, Get Dirtyというイニシアティブではエリートランナーたちが薬物に頼らないクリーンなということを次々と誓約する動きがありました。また、大会主催団体の一部でも、たとえば私もよく参加するレースを主催するRainshadow Runningは「一回でもドーピングをやった者はお断り」といったように立ち位置を明確にする動きが見られました。

なぜ今議論に?
以前からアメリカのトレイルランニングコミュニティでは、なぜドーピングテストをレースで実施しないのかという話や、根も葉もない噂話や冗談のレベルで「あの選手はドーピングをやってるに違いない」という話はちょくちょく交わされていたものの、差し迫った問題としては捉えられていませんでした。

ヨーロッパでは薬物テストが実施されているレースもあります。先のエリッサ・デスコがテストにひっかかたのは2009年の山岳レースの世界選手権の時ですし、私の知る範囲ではUTMBでもトップ選手に対してテストが実施されています。これにはトレイルランニングがハードコアな山岳スポーツとして認知されている側面も影響しているように思われます。トップ選手や有名大会は、例えばフランスのL’Equipeという大手のスポーツメディアで、サッカーやF1などと並んで取り上げられることもあります。

一方、アメリカのトレイルランニングのレースで薬物テストが実施されている例は、私が知るかぎりありません。アメリカのトレイルランニングの大会は、もともと地域の人々を中心とした、誰に対しても開かれた家族的なコミュニティがボトムアップで作り上げているケースが多く、大会も概して小規模です。マラソンなどのメジャースポーツに対し、トレイルランニングはサブカルチャ(反主流)的な、ヒッピー的な側面も感じられます。

こうした、価値観を共有する人たちが信頼をベースにコミュニティを作っていくという側面は、アメリカのトレイルランニングに独特の良い雰囲気をつくりだす大きな要因なのですが、ことドーピングに関して言うと無防備だったともいえます。トレイルランニングの人気が上がってきたことで、エリッサ・デスコのように海外から、あるいはランス・アームストロングのように他のスポーツから急にやってきて急に現実をつきつけられたという側面があるかもしれません。

ネックは?
トレイルランニングに限らずどのスポーツでもドーピングテスト実施の一番の障害はコストです。テスト内容にもよりますが、全米アンチ・ドーピング機構(USADA)にテストを依頼すると、血液検査と尿検査を合わせた一人あたりのコストはおよそ200ドルから400ドルと言われています。

とりわけアメリカのトレイルランニングは小規模のレースが多く、大会主催団体がそれほどお金を持っていないため、こうした問題が出てきたからといって、すぐにテストを強化していこうという動きには繋がりにくい現状があります。

解決策は?
過去のドーピングの歴史を見れば明らかなように、選手であれ組織であれドーピングに加担していても自らドーピングをやっているとは言わないでしょうし、たとえドーピングテストで引っかかった後でも、テストが間違っているとか、はめられたとかの弁明をし、自分で意図してやったとは認めたがりません。あるいは知識不足で市販の薬に含まれているというケースもあります。このスポーツにドーピングをやっている人が全くいないと信じるのはあまりにナイーブでしょう。

かといって、大会を主催する団体にさほどお金がないのもまた事実。個々の団体が何の支援もなくテストをやっていくのは難しいでしょう。

アメリカのトレイルランニングの大会の中には米国陸上競技連盟(USATF)の公認大会もあります。USATFはドーピングテストの支援も行っているので、それを利用する手もあります。あるいは国際トレイルランニング協会(I-TRA)のようにトレイルランニングに特化した団体もドーピングテストに対するサポートを提供しています。I-TRAに対してはいろいろ批判も多いのですが、いずれにせよ選手や団体から広く薄くお金を集め、それを資金にスポーツの健全性を保つというのは、理想的ではないかもしれないけれど、一つの解決策なのかもしれません。