高地はつらいよ – Dirty 30 -

こんにちは、藤岡です。

ちょっと前になりますが、6月4日にコロラド州で行われたDirty 30という50キロのレースを走ってきました。

コロラド州はアメリカで最もトレイルランニングが盛んな場所の一つ。州都のデンバーは標高1600メートル前後、そこから西にしばらく行けば4000メートル級の山々が連なるロッキー山脈があります。

シアトルより緯度は低いものの標高が高く雪が遅くまで残るため、コロラドの人にとっては6月に行われるこのDirty 30でやっと本格的なトレイルランニングシーズンが始まります。レースは地元のランナーが圧倒的に多く、ウルトラディスタンスが初めての人から、スーパーエリートまで幅広い層のランナーが集まります。

私はレース前日の夜にシアトルを出発。夜中にデンバーの空港に到着後、レンタカーで一時間半ほど走って会場近くの駐車場に向かい、ちょっと仮眠をとったあとレースというなかなかの強行軍。

私にとってこのレースは、7月に走る可能性のあるHardrock 100の準備という位置づけで、高地を体験しておくのが目的でした。クリス・ヴァーゴ(Chris Vargo)、ジェイソン・シュラブ(Jason Schlarb)、ティモシー・オルソン(Timothy Olson)、ライアン・スミス(Ryan Smith)などワールドクラスのエリートランナーも出場するため上位入賞は難しいレース。初めて走るコースということもあり、具体的なゴール時間は設定せずに望みました。

(ちなみにHardrock 100については近々ブログに書こうと思いますが、私は現在のところウェイティングリストに名前がある段階で、現在出場権を持っている人がキャンセルしないと出場できません。)

今回のレースは一番低いところで標高2200メートル、高いところで2950メートルほど。直前に到着した私は当然高地順応の時間はありませんでしたが、下手に数日前に現地入りするよりは、走る直前に入ったほうが良いと言われているので、まあなんとかなるかなと気楽に構えていました。

スタート!


スタートしてみると、周りはかなりスローなペース。「あれっ?遅いな」と思いながら私はいつもの50キロの感覚で走り始めたら、するすると三番手、クリス・ヴァーゴの後ろまで上がってしまいました。

ところが2〜3キロもしないうちに何だかいつもと違うことに気づきます。出力を上げて脚を回すと、いつもより早く心臓と肺に限界がくる感じ。体がふわっとして、思ったように体が動きません。リズムを整えるためにペースを落として集団内で走っていると、前のめりに転倒。両膝を地面に打ち付けて悶絶。後続に次々抜かれ20番手以下に後退してしまいました。

じんわり出血。


そこからは、心肺に来るのでペースも上げられず、打ち付けた膝も痛い中、我慢のレースとなりました。

それでもじわりじわりと順位を上げていくと、途中でティモシー・オルソンに追いつき、しばらく抜きつ抜かれつしながら走っていました。彼は昨年来オーバー・トレーニング症候群からくる不調に苦しめられているそうで、この日も彼の本来の走りにはまだまだ遠いようでしたが、上りで見せるスピードはさすがで、結局最後は彼に先行されてしまいました。

ティモシー・オルソンと一緒。


アップダウンが多く、岩場があったり、石が転がっていたりしてトリッキーなコース。高地で体が言うことを聞かないせいか、序盤の転倒の後にも更に三度転倒してしまいました。どちらかというと私は走れるコースのほうが得意なので、苦労させられました。

最後まで我慢のレースでしたが、なんとか無事ゴール。マスター(40歳以上)では1位、総合では15位でした。結果は満足できるものではなかったですが、当初のレースの目的だった高地を経験しておくという点では収穫がありました。最初から下手にペースを上げず、じっくり体の反応を見ながらレースをするのが高地では特に大切ですね。

ちなみに、私も高地に苦労しましたが、私以上に苦労したのは応援していただけの妻でした。私がゴールした瞬間には体調不良で座り込んでいて、写真を撮る余裕は全くなかったとのこと。少しして頭痛に苦しみながらも撮ってくれた写真がこちら。高地はつらいよ。


セカンド・ライフ

プロ・スポーツ選手のセカンド・ライフは一筋縄では行かないようだ。

若いころに才能を見出され、学校ではスポーツ一筋。常に競争する世界に身を置き、その中からプロとしてお金を稼げるようになるのはほんの一握り。他の選手と切磋琢磨し、常にプレッシャーと闘う生活。周りの人やファンからチヤホヤされたりもする。

でもそんな生活も長くは続かない。多くの人は競争に負けて若くして引退を余儀なくされ、競争に生き残った人でもいつかは年齢による体力の衰えにより選手生活を終える。競争する世界から離れて目標を失い、周りの取り巻きもいなくなり孤独になり、生活が荒んでいく。

最近話題のあの人の名前を出すまでもない。同じような例は、世界中のあらゆる場所に転がっている。

アメリカでは、こうしたあるスポーツの第一線で活躍した選手が、新たな目標や競争の場としてトレイル・ランニングを選ぶ例が度々見られる。

たとえば先週末のSan Diego 100で優勝したネイト・ジャッカ(Nate Jaqua)。かつてアメリカのMLS(メジャー・リーグ・サッカー)のシアトル・サウンダースなどでディフェンダーとして活躍していた彼は、引退後に始めたトレランでも相当なレベルで、昨年はPine to Palmで優勝、Bighorn 100で2位に入っている。

また、数週間後に迫るWestern States 100にエントリーしているエリック・バーンズ(Eric Byrnes)は、元メジャーリーガーとして10年の選手生活の間に5球団を渡り歩いた経歴を持つ。

そしてこのエリック・バーンズの友人で、Western Statesで彼のペーサーをするのはランス・アームストロング(Lance Armstrong)。ツール・ド・フランスで7連覇(後にドーピングにより剥奪)した彼は、昨年末のトレイルランニング大会で優勝している。

あるいはカイル・ディエズ(Kyle Dietz)。彼は元プロの総合格闘家だ。

そこには山の人だとか、陸上競技から来た人だとかという狭い区別はない。

誰にでも開かれ、誰もが楽しめるアクティビティとしてのトレイル・ランニング。以前別のエントリーで書いたように、開かれているがゆえの脆さもあるが、それがアメリカのトレイルランニング文化を特徴づける一つの側面といえるだろう。