燃え尽きてはいけない 白山ジオ・レポート4

大会名にもなっている霊峰の山頂を踏む、大会のハイライトである。日の出前からヘッドライトを頼りに、修行僧の古道「加賀禅定道」をたどって一路ピークを目指す。

かつて幻といわれた「百四丈の滝」や山頂付近の雪渓、男心をくすぐる名称の「美女坂」などなど、お楽しみの多いコースだ。なかなかの急登ぶりからして、おそらく美女はツンデレなのだと思う。

グループを組んでひたすら登る。(撮影・田上雅之さん)

グループを組んでひたすら登る。(撮影・田上雅之さん)

残念ながらガスが濃く、滝や眺望は見られず。諦めきれずに展望台まで行くものの、視界は灰のように真っ白。燃え尽きたよ、真っ白にな……。「あしたのジョー」のごとく完全燃焼している場合ではない。心の眼で滝を拝むに留め、先を急ぐ。

滝の代わりに、手の届く範囲で高山植物を楽しむ。白山には固有の植物が多く、「ハクサン〜」という名前の草花が20種類ほどあった(と記憶している)。固有種に名付けられた山の名前としては「ハクサン」が飛び抜けて多い。植物名から、ほかの名だたる山々と比べても、白山が多様な植生を有していることが分かる。

木漏れ日がドラマチックだった。

木漏れ日がドラマチックだった。

そんな貴重な自然を保護するため、4、5日目の山岳区間はタイム計測を実施せずに登山に徹する。そのため、実は燃え尽きるどころか、登っていてもまだエンジンに点火すらしていない状態で登っていたのだ。

ランナーではなく、ハイカーに転身。選手がぞろぞろと列をなして、歩いていく。コース上では、走っていないかをチェックする環境省の職員が、わざわざ稜線で待ち構えている。仕事で登れるのは役得な気もするが、職員的にはどうなのだろう。

まだガスが少ない時間帯。このあとはほぼ視界なしに。

まだガスが少ない時間帯。このあとはほぼ視界なしに。

というのも、この白山ステージは過去に、大雨で滝と化した稜線をたどる年があったり、台風の影響で暴風雨にさらされて低体温症が続出したり、酷暑で水不足だったりと、刺激的なのが特徴なのだ。早朝から待ち構える職員には試練のひとときかもしれない。この日も雨風がやや強め。動いていれば気持ちいいが、2,000m近くでじっとしていると肌寒かっただろう。

天候が急変してトラブルに見舞われることも考慮して、選手は前日までのペースに応じて3、4グループで集団登山する。標高2,500mを超えると、斜面によっては雪がたんまり。中国から参加した選手が大喜びである。雪を見る機会がなかったらしく、かなりのハイテンションで、写真撮影にいそしんでいた。レースを忘れた、和やかなトレッキング。のんびりとしたペースなので、筋肉と内臓の疲労を和らげられる。天候次第とはいえ、肉体的にはリフレッシュできるステージなのだ。

天候不順のせいか、例年よりも雪が多かった。(撮影・田上雅之さん)

天候不順のせいか、例年よりも雪が多かった。(撮影・田上雅之さん)

雪に大喜びする中国人選手

雪に大喜びする中国人選手

行動時間は10時間ほどと比較的長いが、雨風はさして激しくなることもなく、拍子抜け。ガスで視界が悪かったことをのぞけば、多少肌寒さを感じるだけだった。特にハプニングもなく、ゴールである白山室堂ビジターセンターに到着した。

「今年は普通でしたね」「これまでで一番過ごしやすかったかも」

リピーターの選手、スタッフの間ではそんな声も聞かれた。すんなり登り終えてなによりのはずだが、ガスで見通しが悪いくらいではなんだか物足りない。青空に抱かれて走るのも山の楽しみなら、荒れた空模様と格闘するのも山の醍醐味ということか。

そんな人は嵐や逆境を求めるのだろう。荒天にあえて身をおき、命を燃やしたいと考えてしまう。もはや、あしたのジョー症候群である。命を燃やしすぎて、そのうち真っ白な灰にならないように注意が必要である。そんなノーガードの両手ぶらり戦法で打ち合いを望むジョーのような集団が、夏の白山には存在する。

 


くもりのちハレ 白山ジオ・レポート3

白山の空はくもりのち雨、左足首だけが腫れていた。スタート前から炎症が起きていて、走り始めから痛みが出てきた。普段は大会3日目ともなると荷物が軽くなり、身体の調子も上がってくるのだが、これではペースを上げることもままならない。

とはいえ、まだ大会は半ばも迎えていない。この日が終わってようやく走行距離が100kmに達する。足首に負担をかけないようにしつつ、上位で粘ることにした。とりあえず不調を悟られないようにポーカーフェイスを気取る。うまくできている気はしないが。気分が大事なはず。

20代の選手2人と抜きつ抜かれつ。初日、2日目は序盤でスルスルと先頭に立ち、そのまま単独行になっていたので新鮮だった。

キャンプ地ではリラックス。さわやかな福西さん(左)

キャンプ地ではリラックス。さわやかな福西さん(左)

競っていたランナーのひとりは福西佑紀さん。国内外で活躍するオリエンテーリングの強豪Team阿闍梨のメンバーだ。深山の沢水よりもクールで、淡々と走っていく印象だった。彼も脚を痛めているらしく、徐々に遅れがちになる。

もうひとりは国内のアドベンチャーレースで活躍する鹿野颯太さん。前年の白山ジオにも出場して入賞している。今年は1週間ではなく、3日間の部門でエントリー。荷物が軽そうだ。レースのかたわら、医師として勤務しており、その職能を生かして初日に熱中症で倒れた選手の治療に当たっていた。

中盤からずっと鹿野さんと並走していく。20代ながらも落ち着いた雰囲気の鹿野さん。道中でヘビを発見しても動じない。となりで声を出して驚く30代との対比よ。それどころか、鮮やかな模様が気になったようで、トレッキングポールを器用に使ってヘビを捕まえだした。観察したのちに記念撮影まで。意外とお茶目である。並走できたおかげで和やかに進んでいけた。

やにわにヘビを捕まえて観察する鹿野さん。

やにわにヘビを捕まえて観察する鹿野さん。

こうして打ち解け合えることも、ステージレースのよさである。走って、その日のうちにサヨナラではなく、次の日も顔を合わせる。数日にわたって寝食をともにして、同じ空間で過ごすということで生まれる関係性がある。

だからといって、大した話をしてきたわけでもない。なのに親近感を覚えるから不思議だ。

走りながら3週間後のアドベンチャーレースに誘われ、うっかり出場を検討してしまう。不思議である。マウンテンバイクに乗ったことも、カヤックのパドルを漕いだこともないのに。誘う方も、誘われる方も本当に不思議だ。

うっかりを狙い、僕も住んでいる町で開催する大会「修験道トレイル in 上毛町」を勧めてみる。ついでにここでも→ http://universal-field.com/event/kouge-trail/

修験道トレイル in 上毛町のコースである九州自然歩道(村上智一さん撮影)

修験道トレイル in 上毛町のコースである九州自然歩道(村上智一さん撮影)

鹿野さんは3日部門の優勝がかかっていたので、終盤は僕がペーサーとなり、ちょっとペースを上げてスパートをかける。

「ひとりじゃ途中でダレてました」と鹿野さんがポツリ。まったくだ。ひとのためだと割に足の痛みもなく走れるのも不思議だ。調子がよくないときほど、一緒に走り、ペースをつくれるというのはありがたかった。

あまり山場もないまま、ふたりでフィニッシュ。鹿野さんは、思慮深さの塊を削り出して成形したかのように遠慮がちなので、譲ってもなかなか先にゴールしてくれなかった。優勝というハレの舞台なのだからと、半ば強引にトップを譲り、鹿野さんに先にタイム計測を終えてもらう。表情は晴れやか、優勝を祝う。僕はゴールできただけで十分、ハレも足首だけで十分だ。

バンザイスタイルでゴール。

バンザイスタイルでゴール。