前回(https://mountain-ma.com/docue/2018/09/15/mt-fuji3/)のつづきです。
7時間かけてやっと山頂に立ったぼくと阿部ちゃん。
(阿部ちゃんは、冒険家で、夢を追う男と自ら名乗る阿部雅龍さんという青年。今年の11月から南極でメスナールートからの極点への単独無補給徒歩到達を計画しており、来年は彼の本願である日本人ではじめて南極になった男、白瀬矗のルートを伸ばして極点徒歩到達を目指している。https://www.jinriki-support.com/abe/)山頂でのアウトドアコーヒーを堪能し、さあ、出発というその瞬間、登り途中で荒い呼吸とともに、世紀の大合奏を繰り広げていたお腹ピーピーが、
「調子にのってんじゃねえぞ、コラッ」
とでも言ってるかのように、復活の狼煙をあげてきたのだ。
至福の時はそう長くは続かないものである。
閉山しているからトイレはクローズド。
しかもこれから、90分かけてお鉢巡りをしてから下山なので、到底下山まで我慢はダメよダメダメ禁物だ。
仕方なく、携帯トイレをザックからオモムロに取り出し、ケツを放り出した。(お食事中の方、下品でスミマセン…)
○×△◇○□×××××××△………………………………………ピーーーーーーーーーー
ということでその時の音声はここでは控えるとして、それはそれはもう気持ちいい野糞とはかけ離れた悶絶アウトプットであった。
幸い山頂は人があまりいなかったが、それでも時折とおりかかる。
最初は嬉し恥ずかしイヤよイヤイヤな羞恥心もあるのだが、その悶絶具合にそんなことは途中からどーでもよくなり、ひたすらアウトプットに集中したのだった。
ようやく、大波がおさまり、阿部ちゃんを探すと、ザックをおいて、ニマニマしながら、「大丈夫っすか?ぼくも胃腸弱いんで、その気持ちわかりますよ。」優しく声かけしてくれた。ニマニマしながら。
気を取り直して、悶絶アウトプットポイントを後にしてお鉢巡りをスタート。
そこには、想像よりも美しい景色が眼前に広がっていたのだが、まだアウトプットの余韻が残る中で、純粋に楽しめないまま、時間もないので、ひたすら歩く。
お鉢巡り、結構アップダウンがある。
標高が高いので、登りがかなりきつい、しかもアウトプットの余韻が再び腹の中でセッションを開始する。
ぐはぐは、ふうふう、ぴゅるぴゅる、ひぃーひぃー、ぎゅるぎゅる………
剣ヶ峰近くの最後の登りで、とうとう荒い呼吸と腹痛が渾然一体となったハーモニーが、ぼくの体の中でこだましだした。
「阿部ちゃん、あかんわ、ギブアップ」
2回目となると、慣れたもので、羞恥心は限りなくゼロに近くなった。
数分後には復活し、再びニマニマする阿部ちゃんと合流した。
「いやあ、ぼくも胃腸弱いんでわかりますよ〜、ニマニマ」
と爽やかにニマニマする冒険家を頼もしく感じながら、いよいよ下山。
目標所要時間は3時間。それ以上かかると、日が落ちてくる。
はじめての大砂走り。
登りで大砂走りの下りルートへの分岐を注意深く二人で確認していたのだが、それらしき標識が一箇所のみ。しかもはずれかけていたので、ちょっと不安がある。
阿部ちゃんいわく、御殿場ルートはロストしやすいと聞いているとのこと。
悶絶腹痛戦線からは解放されたものの、今度は、日没とルートを見失わないかをかなり気にしながらの下山となった。
グダグダ言ってる暇はないので、早々に下山開始。
快調に歩を進めていく。少しガスってきて小雨もふってきた。
六合目付近までやっと降ってきたが登りで見つけた標識がない。
ないぞ、おい!
もっと下だっけかな。。。。
少し下に降ったが、やはり違う、あの杭のところだ、戻ろう。
(そういえば登りで工具をもった作業員の方々に遭遇していた。きっと彼らが杭から標識の板をとったのだろう、たぶん)
登り返すと、往路でみた風景の記憶と、その杭のところが、見事に合致。
「阿部ちゃん、ここだね、ここ降りよう」
ということで、メインのトレイルを離れて、大砂走りであろう方面へ。
しかし、とにかくわかりにくい。どこでもくだれるっちゃあ下れるが、方向がずれていくと、最悪日没になった際に五合目駐車場までの方向から大いにずれてしまって、ロストする可能性が大だ。
しかも下山もセンサーでの計測と写真撮影をするポイント指定があるのだ。
間違えられない。
時間と戦う正義の下山者のぼくら二人は、エイやっと走りだした。
うひょ〜〜〜
ガスガス足が砂にまみれて新雪をすべっている感じで、走りくだる。
気持ちいい。
が、結構スピードがでるのと、時折サーフェスが硬いところがあって、結構危ないということがわかり、減速しつつ、時間を気にしつつゴイゴイ降る。
あいかわらず曖昧な感じのルートはいつのまにやらブルドーザーが通るルートと合流。
このままブル道をいくのかしら?としばらく踏み固められたブル道を降るのだが、方向的に元の登山道に戻れないのでは? という感覚が阿部ちゃんとぼくで満場一致したので、戻る目印を探した。
あった!
あの紐じゃあないのか!
唯一それらしき物体をみつけたぼくらは、ブル道からトラバースして、そこに一直線に向かった。
正解!
いやきっと正解!
踏み跡があり、よく下をみると同じような紐を貼ったいくつかのポールが何となくルートっぽくなってるではないか!
これに違いない!
よかった!
日没が差し迫る中、暗くなるとヘッデンつけてもガスり気味のこの天気だとまたロストするかもしれないので、急ぐことにした。
ルートはかなりやわらかいパウダースノー状態の砂で、ゴイゴイ小走りに降りていけるのが幸いだった。
もう、ほとんど休憩なしにひたすら走った。
途中ブル道で少しひねった左膝が痛むし、シューズには砂利がドカドカ侵入してくるしで、結構不快指数が赤丸急上昇したのだが、気にぜず降る。ロストしてビバークは避けたいからだ。
しかし、降れども降れども景色は変わらない。
本当に降ってるのかと疑いたくなるくらいだ。
「いやあ、なんだか、ネバーエンディングストーリーっすね!夢の中みたい」
と阿部ちゃんがファンタジィな発言をするので、リマールの映画ネバーエンディングストーリーのテーマを口ずさみつつ、もう二人とも無心で降った。
だんだん照度が落ちてくる中、無心なぼくらの目の前に急に、現実の風景が飛び込んできた。
そう、元の登山道に合流できたのだ!
おわーーーーーー、えがったのう、えがったのう、ぴったし3時間で降りてこれたじゃあないか!
計ったかのような日没直前の時間に駐車場付近の小屋に到着した。
ここまでくれば、絶対安心だ。
と、その時だ。
ぼくら二人の目線の先の雲の中に光る物体が現れたのは。
「阿部ちゃん、UFOだよ!」
ぼくは思わず叫んだ。
フィクションでなく本当にそう見えた。
今回のスマホ撮影担当の阿部ちゃんがすかさず撮影しようとするがカメラにはなぜか映らない。
肉眼では見えてるのに。
しかも2つ目も現れた。
すごいね、すごい、ネバーエンディングストーリーから抜け出したと思ったら、UFOが迎えてくれたぞ!
とコーフン気味のぼくらの前に男性があわられた。
おそらく小屋のおじさんだろう。
おつかれさま、楽しめましたか?
とにっこり、労をねぎらってくれるおじさんに、聞いてみた。
UFOみたいなの見たんですが、あれ、きっとそうですよね?
おじさん。
ああ、それは、残念ながら、駿河湾の向こうの陸の建物のあかりじゃよ。
と薄ら笑いをニマニマ浮かべながら、遠い目でネタバラシをしてくれた。
ああ、やっぱり、そんなことですか。
おじさん、ありがとうございます、と挨拶をかわし、駐車場まで下山するぼくら。
でも、まてよ。
なんで閉山してるのに、小屋のおじさんがいるんだ。
まあ、いるかもしれないけど、あの人は宇宙人だな、きっと、うん。
そう思った方が楽しいし、きっとそうだ、わはは。
と二人で話ながら、無事12時間の1DAY登山を終えたぼくらは、帰宅の途についたのだった。
それにしても疲れた。心地いい達成感とプティ危機一髪から脱出した安堵感。
下山後もアウトドアコーヒーを飲めるスタンバイしとくべきだった。
きっとこのなんとも言えない浮遊感のある心地いい疲れに、ネパールのオーガニックコーヒーが心底沁みたはずだ。
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これからも、仕事に遊びに関係なくコーヒー登山をしていきたいと思います。
いやはや、しかし、濃ゆい登山だったなあ。
(おわり)
※この話は実話です。おおいに主観にまみれた表現ですが、フィクションではありません 笑