<A2~CP1>
29km地点二つ目のエイド、A2。予定より15分遅れ。この時点で太陽サンサン。青空で気温も高く、かなりの日差し。エイドではみんな日陰を探して身を寄せ合うようにテント下で休んでいました。
A2~CP1。ここからです。ここが、魔のロード区間です。標高2000mの山を越えてきた序盤で、10km以上もの舗装路登りです。しかもそのロード含めて標高1300m近く登るというのです。
時間はお昼。青空。天気に恵まれたことはとても良かったけれど、この区間では本当に苦しめられました。制限時間ギリギリの33時間設定で作ったペース配分表には、さらりと『ロード7分/kmペース』と書いてある。地形図をみても高低図を見てもそんなに激しいアップダウンはないものと想像していたけれど、そんな想定一体何を根拠にしたのかと、作った自分に苛立つほどのじわじわアップダウン。しかも照りつける太陽と照り返しで、上から下から苦しめられる。
最初は快調に走っていたけれど、次第に汗でビッショリに。頭がぼーっとしてくる。補給のタイミングを失って慌てて摂るも、軽い脱水で唾液が少なく固形物がうまく飲み込めない。お茶で流し込んでなんとか凌ぎました。けれど、ずいぶんの間ぐっと堪えながら登りは歩いて歩いて、予定よりも30分遅れでCP1へ。関門40分前。良かった、間に合った。
<CP1~CP2>
ここからは武尊山への道。武尊山に挑む権利を得られたんだ。そう思うと、気が引き締まります。 “手小屋沢林道終点” に15時半がデッドライン。このままずっと『林道』なら歩き通しでも間に合うかも!と思いきや、早々に沢混じりのトレイルに。荒れた道のそばで湧き出る水をボトルに汲んでは頭からぶっかける。そうやって熱中症の回復を待ちながら、みんなが除ける沢道を気にせずビシャビシャ突っ込みながら進む。
近くを歩いていたランナーには 「わざわざ水のあるところに入らなくても」 って苦笑いされたけど、沢の傍は泥で沼のようになっていて、足がはまるとシューズが重くなるだけ。それなら濡れるのなんて気にせず沢の道をガンガン登った方がいい。全くといっていいほど走れなかったけど、身体の回復をみながら進みました。とうとう予定のタイムよりも1時間近く過ぎてしまっていました。とにかく、長かった。
やっと、『林道』の終わりらしいところを足切り時間までに通過して、樹林帯を抜けるとそこには、ドーンと沢。沢の左右にコースマーキングのリボン。徒渉なんていう甘いもんじゃない。それはつまり″沢を行け”という印。
これが噂の手小屋沢。沢を詰め上がる。水量はさほど多くないので沢登りっていうほど大げさではないけれど、濡れないように岩を選ぶなんて正直意味がない。時には脛だか膝だかまでは浸る、流れのある沢をザブザブ入る。うっかり足置きを間違えるとつるんと滑る。「うわっ」「やべっ」「あぶねっ」そんな声が飛び交う。コースマーキングがまぎらわしくてロストしたりしながら、必死で登りました。
まもなく避難小屋分岐へ到着すると、いよいよ武尊の急登。すぐに梯子かと思いきや、梯子までが長い。根っこが這うトレイルを幾度も幾度も越える。写真がないので、沢からすぐに急登に見えるけれど、とにかく、まだか、まだか、と思うほど長かった。
そして、いよいよ梯子へ。
ホールドになる足場はしっかりしているけれど、想像以上の岩。登り切って、ホッしているとまた、鎖と梯子。2つあったのかと思っていると、また。さらにその先には連続梯子。スタッフの方に「山頂はもうすぐですかね?」と声をかけると「最後の梯子を追えたらちょっと行って、山頂ですよ」と、確かにそう言ったと思う。
だけれど、たいていそれはトレランの “大会あるある” で、そう簡単には着きません。15時半に山頂を着く予定が、その時点ですでに16時を過ぎていて、16時半には着くかと思いきや、進んでも進んでもまだなお登りがある。
結局、山頂に着いたのは17時前でした。
以前説明会で運営の方が「武尊に最低でも17時ですね」だか「17時半ですね」だか言っていた気がするのを思い出しては、その言葉が頭をぐるぐる。景色が最高なはずの武尊山はすでに夕暮れも過ぎてガスが出て、真っ白で何も見えない。というか、想定タイムにあまりにもかけ離れてしまい、自分の頭の中が真っ白で、景色どころじゃなかっただけかもしれない。
<A2~CP1>
酸素の足りない脳みそで、苦手な計算をしながら平均キロ何分で行けばいいのかと考えます。ハイドレの水が少ない。冷えてきたから温かいものも食べたい。トイレも行きたい。関門計測はエイドを出る時。でも次の関門は19時。
・・・次の関門まで9km。標高差1200m、激下り。関門は2時間後。
2時間で下りるとエイドでは休憩ができない。サポートはいない。そう考えると1時間半で下りたい。ここまで50km走ってきた脚で。考えれば考えるほど、どう考えてもキツイ。山頂では岩に腰かけて補給をしている人がたくさん居て、きっと次の関門は諦めていたのかもしれない。見てみないフリをして、一歩でも先を進みながら何度も何度も計算する。
しかもバカなことにSUNTOの充電コードを忘れ、すでに電池が切れていて速度も高度も測れない。そんな状態でこの岩場で梯子もあるトレイルをロードに毛が生えたくらいのスピードで下りなきゃならないなんて。山頂を少し過ぎたところで同じチームのホヤさんに遭遇。「意外と関門厳しいね」と。ホヤさんですら厳しいなんて。とにかく、とにかくこの状況が悔しくて悔しくてあふれそうな涙を堪えながら、
こんなところで終われない。
いやだ、ぜったいいやだ、帰りたくない
いやだいやだいやだ!
子供のように自分に駄々を捏ねて突っ走りました。
かっこよくなんて走れない。しかもこんな時なのに下りが遅い。でも不思議と、あそこでああしてれば、こうしてればとか、そういうことはこれっぽっちも考える暇なく、ただただ「いやだいやだ完走しなきゃいやだ」と一生懸命走りました。最初からずっと、自分の最大限の状態でここまで来ているんだから、振り返って後悔するものなどないのです。途中でホヤさんが猛スピードで駆け抜けて行ったけれど、到底ついて行けない。それでも自分の精一杯で走るしかない。きっと間に合う。とにかく前に進むしか、それしかない。
よく、“なるようになるよ”、なんて言うけれど、ハッキリ言って、なるようにならない。それが言えるのは確かな自信がある場合と少なくとも60%くらいの可能性がある場合にしか通用しない。その厳しさが私にとってのこのレースなのだと痛感しました。お気楽なわたしの性格を打ち砕かれる思いでした。
<A3~CP3~A4>
途中でヘッドライトを付けて、A3の武尊牧場スキー場に着いた頃はすでに真っ暗。
18時15分。なんと、1時間20分くらいで下りてこれた。パニックでものすごくギリギリだと思っていたけれど、後からペース配分表を見ると山頂で1時間半もオーバーしていたタイムが15分オーバーまで巻き返していました。
選手が飛び込んでくるA3では、皆続々と 『リタイアはどこですか』 と言っているのが聞こえる。また、スタッフの方が 『川場行きのバスに乗る方~』 というアナウンスをしている。そんな状況の中で、淡々とトイレに行き、お味噌汁におにぎりを入れてオジヤにして食べ、白湯で胃を整えて、これからのレース運びを冷静に考えている自分が居ました。関門20分前にA3を出発。
A3からA4までの区間はほぼ覚えていない。ただ、ものすごく元気だったことだけは覚えているのです(笑)熱中症から完全復活をしたことと、関門に間に合ったことが嬉しくて、それくらいしか理由は思いつかないけれど、エイドに人がたくさんいて安心したというのもあるかもしれない。
A3~CP3はゲレンデ下りの後、ロード下り。生き返ったようにとにかく走った。もしかしたらA4のドロップバッグに間に合わないかも、なんて思っていたけれどなぜかここに来てずいぶんな巻き上げで、予定コースタイムよりも30分も繰り上げでA4に到着。コースはすっかり忘れてしまったけれど、脚が残っていれば走れるコースということなのだと思う。
A4は大きな施設。そして、ドロップバッグを受け取れる場所。人がいっぱいいる。温かい。なんて嬉しいんだろう。エイドに入ると知った顔がいて、握手を交わす。みんなから「よくここまで来たねぇ!」と褒められ、たまらなく嬉しい。なんだか、あまりに限界に近い状態でいるからか、感情が素っ裸みたいな状態で、すぐにあふれ出そうになる。ずっしり重いドロップバッグを広げて、どろんこになったシューズを脱ぎました。
着替えを抱えてトイレでfacebookを見る。みんなからたくさんのコメントが入っていて、胸が熱くなる。ひとりで参加することにとてつもない不安があったけれど、寂しくない。夜なのに、気にかけてくれる仲間がいて、コメントをくれて、応援してくれている。トイレという薄暗くて小さな空間がなんだか落ち着いて、便座に座ってひとりすこしの間、ぼーっとしてみた。
本当はエイドでゆっくりしすぎるのは良くないのかもしれないけれど、予定よりも巻いたことで、たっぷり食べて、落ち着いて荷物の整理をして、寝ずに1時間近く休みました。
ここまで、68km。
やっと半分きた。
<vol.3へつづく>
長いですが後半はほとんど覚えてないので次くらいで完結します(笑)
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[…] 登りの年と決め込んで、スリーピークス、キタタン、富士登山、安達太良山などにチャレンジしました。上州武尊は後方ながらも無事完走。大きな自身に繋がりました。 【あの山の記憶―YNMC120k vol.1 vol.2 vol.3 最後に】 […]