※前回の続き
--100マイルレースに対するトレーニングなり準備なりの正しい方法論なんてまだ出できていない。というかパラメーターが多すぎて、たぶん、万人に当てはまる一意的で明快な正解なんて導き出されない。そこがオリンピック種目になるようなスポーツとはちょっと違う。
だからこんなにもトレイルランニングに惹かれてしまうんだろうな。
でも、これは!っていう要素ならひとつ思い当たる。
◇ ◇ ◇
「100kmを超えたら、本当に苦しくなったら中を見てもいいですよ」
年明け早々にHURTを控えていた、2010年末の忘年ホームパーティで、DMJの仲間たちがお守りをくれた。それは小さな巾着袋だった。
HURT100マイルのコースは、6~7マイル間隔でエイドを設けた全15のセクションに分かれている。
レース当日は第8セクションの中ほどから完全に日が暮れ、第9セクション途中からは未知の距離に突入。夜ということも影響してペースもガクッと落ち、倦怠感が脚だけでなく身体全体にめぐり・・・
だから10番目のエイドを出て第11セクションに向かうとき、ちょうど100kmを超えていたこともあり、巾着袋を取り出し開けてみた。
今振り返れば、100kmを超えるまでの時間はお守りの中身を見ることを楽しみに走ってたんだと思う。
中身がどんなものかは一枚目を見てすぐにわかった。
……心が揺さぶられた。
言葉にすると軽いんだけど、
「一人で走っていたわけじゃないんだ」と強く思えた。
そんなの本当はレース開始前からそうだったんだけど、このお守りを見て、初めてそのことに気がついた。
そのときDMJは僕の他に全5人のメンバーだった。だから残りは4枚。この4枚を、残り4つのエイドを出るごとに一枚づつめくろう。そう決めて遠いハワイの闇夜のジャングルを最後まで走った。みんなからのメッセージを読みたい気持ちがモチベーションとなって、次のエイドまで、またその次のエイドまでと脚を動かし続けることができた。
仲間が、まるで自分のことのように、いやそれ以上に親身になって、ネットのライブアップデートを通じて、喜怒哀楽してくれている。手に汗握って興奮してくれている。100%混じりけのない気持ちで応援してくれている。僕の無事を願ってくれている。
だから文字通り心の底から「自分だけで走ってるんじゃない」という心持ちになれた。自分のすぐとなりや後ろにみんながいて、並走してくれているかのようだった。漫画『JOJO』シリーズに出てくる“スタンド”のように(笑)
もちろん物理的には間違いなく一人で走ってるんだけど、気持ち的には一人ぼっちじゃなかった。心細くなかった。ぜひ応えたいと思った。でもプレッシャーは微塵もなかった。
◇ ◇ ◇
じつはHURTを走る前に、自分なりに決めていた初100マイルのテーマがある。
20マイルまでは「体脂肪」で走る。
40マイルまでは「技術」で走る。
60マイルまでは「気力」で走る。
80マイルまでは「仲間からのエール」で走る。
80マイルから先は「新しい扉を開けて、その向こう側にあるもの」で走る。
あの夜80マイルから先に、未知の扉と形容してもいい何かが実際に存在していたとして、はたしてその扉の向こう側にあったのは、「一人じゃない」という確かな手ごたえのある実感だったように思う。霊感のたぐいはまったくないんだけど、仲間からの「一緒に走ってるから」という混じりけのない応援の気持ちが、手を伸ばせば触れられそうなくらい、しっかりとした質量をもって感じられた。
100マイルもの距離は「自分のため」だけじゃ走れなかった。フルマラソンでもハセツネでもおんたけでも、そんな心持ちになったことは無かった。
自分の100マイルを、自分以上に親身になって心配し、期待してくれる仲間がいるということ。「一人じゃない」ということをレース中に、心の底から、ありありと実感できること。
このことは超長距離を走るためのヒントに、大きな助けになるんじゃないかなと思っています。あの年の夏にあったUTMBの、アクタさんとヤマケン選手のエピソードだって、きっと同じことなんじゃないかと思っています。(※注「ひとりで走ってんじゃねえぞ!」のやり取り)
いよいよ始動したチーム100マイル。あいつの顔を思い浮かべるとなぜだか脚が前に進む、そんな仲間が増えるんだろうなとワクワクしています。
6 comments
あのときisoさんがHURTを走っていたとき、NotePC見ながらみんなで大いに盛り上がっていたこと、昨日のように憶えています。
あのときも感動したし、この記事も感動しました!
さんぽさん
コメントありがとうございます。
あのレースのあと、僕の中で何かが大きく変わりました。たしかあの時、あまりに嬉しくってさんぽさんに電話しちゃいましたよね。
お守りは宝物になりました!
こういう気持ちが100mileレースの醍醐味なんですね。
感動しました。
アッキーさん
コメントありがとうございます。まあだいぶ外向け仕様のきれいごとですが、大事なことだと思ってます。
これとは真逆な、個人的な矜持や意地のようなもの(鏑木毅たれ!)も、同じくらい大事だという気もしています。
僕も”スタンド”みたいな経験あります。
100mileじゃなくて信越五岳の時でしたが・・・。
色んな人に囲まれて守ってもらってるような感じがして、「絶対大丈夫、最後まで行ける」って気になりました。
ちなみに、その中には昔の自分、なんてのも居ました(笑)
こういう感覚、共有できる人が居て嬉しいです♪
small islandさん
コメントありがとうございます。
スタンド経験ありますか!
心強い。霊感とはちょっと違う感覚ですよね~
(僕は霊感ゼロなので、、、)
今年も色々宜しくお願いします。
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