残り3km。
まずいことにだんだんと目の焦点が合わなくなってくる。あわててジェルを流し込んでみるも、チカチカが止まらない。レース前「ゴールでぶっ倒れるのが理想」などとうそぶいてみたけれど、こりゃあ本当にゴールまでたどり着けないかもしれない。その可能性に思い立ったらふいに冷たいものが背筋を流れた。
ラスト2kmは灯台のある観光地を駆け抜ける。ツーリストが声をかけてくれる。でも彼らがどんな顔をしているかわからない。認識できるのはぼやっとした輪郭の、カラフルな服の色だけ。目のピントが合わない分、他の四感だけは集中を切らさないようにする。本当に休ませてくれないな今日は!
単純すぎる事実だけど、脚を動かし続けてさえいればいつかはゴールだ。海岸の砂浜に足を踏み入れ、いよいよゴールゲートが見えてきた。なんとか日没前に帰ってこれた。自分の不注意で、何かを勝ち取るためのレースはできなかった。ただ、負けを回避するための走りを貫くことはできたと思う。出し切りました。
今回の旅は19時間と少し。男子総合32位という結果でした。
レース翌日。残念ながらベッドから起き上がれなくて、表彰式もクロージングミールもアフターパーティも参加できませんでした。だけど、ゴール後の会場や空港やらでいろんな人が話しかけてくれてきたのがいい思い出。
「レース中に元気付けてくれてありがとう」
「君のゴールの写真を撮ったよ、e-mailするよ」
こちらは正直誰が誰だか思い出せないけど、向こうは覚えてくれている。東洋人はこんなときお得です。
自分の何かを試すためだけに走ったんじゃない。走ることで誰かとつながれるから走るのかも。
行きの飛行機からトランジットの空港、島についても日本人をいっさい見かけない今どき珍しい道中だったけど、このことに気づけてたらレース中もう少し楽だったかな。フィンランドやら、ポルトガルやら、キューバやら。世界中のトレイルランナーに声をかけてもらって、やっぱりこの遊びは最高に楽しいな、贅沢だな、と再確認(ちょっとだけ危険だけどね)。
たった一人の旅だったけど、とても幸せな気分で帰国できました。