昨年UTMB完走のためのアドバイスのようなものを書いてきましたが、いつ何をするかという練習のタイミングについて書いていませんでした。今年はそのあたりについて書いてみます。
ただもう5月の中旬ですので、主に最終調整に関することだけになってしまいます。
まずこの時期にすべきことはUTMBを完走するために必要な要素に関する自己の実力の現状の正確な認識です。それにもとづき6月以降の約2か月半の練習(調整)内容を考えればいいと思います。 具体的には5㎞、10㎞、フルマラソン(これは時期的に難しいかもしれないですね)、そしてハセツネコースの完走タイムの確認です。
まずは5㎞と10㎞を全力で走って10㎞の記録が5㎞の2倍足す1分以内かつタイムが1時間以内ならとりあえず合格です。フルマラソンは10㎞の4.8倍から5倍が標準だと思いますので、その範囲内(5時間以内)であれば問題ありません。そしてフルマラソンの3.5倍でハセツネのコースを走ることができれば、基本的なスピード、持久力、山の歩き方も問題ありません。
係数でいうと10㎞:フル:ハセツネは1:5:17.5です。
練習ではフルの距離を走る機会をつくるのが難しいかもしれませんが、その場合は10㎞の17.5倍以内でハセツネコースを走ることができるかの確認が必要です。なるべく5月中に、遅くても6月中旬までにハセツネのコースを1周してタイムを計っておくことが必要だと思います。フルマラソンは10㎞の5倍ぐらいと考えておけば大体問題ないですが、ハセツネのタイムは個人によって山での持久力や歩き方の実力の違いで大きな差が出ますので測定が必要です。
ここから具体的な練習内容の話になりますが(今回はおおざっぱな説明で次回に詳しい説明をします)、もし10㎞が48分でフルが4時間にもかかわらずハセツネが16時間以上(フルの4倍以上)もかかる場合は、今後は山を長い時間(距離よりも時間が重要なような気がしなます)歩く練習が必要だと思います。それに追加して山の歩き方を改善する必要があります。今よりも早く走るための練習は必要ありません。
スピードも持久力もUTMB完走のためには十分です。ただし今の山の歩き方ではかなりの確率で失敗します。
10㎞のタイムが同じでハセツネが14時間30分ならもうレースまで練習はなにも必要ありません。
10㎞が1時間でハセツネ17時間半の人もまず間違いなく完走できます。
これらの人は特別な練習は必要ありません。現在の力をキープしていけば大丈夫です。
なぜ16時間の人が完走できなくて17時間半の人が完走できるかと疑問に思われる人もいるかと思いますが、フルのタイムの3.5倍以内でハセツネを完走できる人は山の歩き方やペース配分をある程度マスターしているので168㎞をそれほどペースを落とすことなく完走できます。
一方フルの4倍もかかる人は山の歩き方に多分かなり問題があり、足に対する負担が大きく後半、特に123㎞のシャンぺラック以降で歩けなくなったり、大幅な失速をする可能性が高いと思います。
では肝心な山の歩き方の改善をどのような練習をしたらいいかです。
2009年からUTMBを目指す人と一緒に練習をしていて感じるのですが、フルが3時間半以内で完走できる人でUTMBを完走できなかった人の共通点は
①上りが早くて息を切らしてしまい、早歩きやスロージョグができるような平地になった途端にペースが落ちる(ペースを落とす)
②足の置き方が悪い。具体的には1歩で大きく高さを稼ぎ、そのためバランスを崩し筋肉を疲労させる
③前に体重移動をするときに平地を走る時のように後ろ足で地面をけるため足が後ろに流れ(すべり)筋肉の疲労を招く
④下りがぎこちなく、かつどしんどしんと下るため足首や膝にダメージを蓄積する
といったことです。
ですから練習内容は
①ペース配分
②高さを稼がない登り方
③足を後ろにけらない歩き方
④下りを歩幅を狭くしてスムーズに下る歩き方を学ぶことです。
要するに足に対する負担を極力少なくすることで足へのダメージを最小限にして168㎞を歩き続ける力を身に着けることです。
これらのことを1種類の練習で改善、習得のために一番効果があるのは、自分の体重の40%前後の重さの荷物を背負って山を1日歩くこと(ボッカ、歩荷)です(私は山登りを現役でやっていた時には体重の60%で練習していました)。筋力の弱い女性の場合35%ぐらいの重さでもいいかもしれません。この時の足を置いたところが168㎞を歩くときの足を置く場所です。
またその時の姿勢がUTMBを歩いているときのあるべき姿勢です。実際にやってみるとわかりますが、1歩で稼ぐ高さは普段のトレランの時の半分程度です。
歩幅もたぶん70%程度になると思われます。下りを大股で下ることは足への負担が強すぎて不可能です(踏ん張りがきかないはずです)。当然スピードも落ちますが、このペースで歩けば最後まで大幅にペースダウンせずに歩き続けることができます。
しかし皆さんいくら勧めてもボッカ練習はやらないですね。速く走ったり長距離を走ることばかりやりたがります。この点に関しては日本のトレイルランナーの考えは特殊のような気がします。知り合いのヨーロッパや香港、中国のトレイルランナーの多くは、体重の40%まではいかなくても20%程度の軽度のボッカ的なトレーニングはよく行っているようです。
もう一つの練習である山を長い時間歩く練習ですが、これも速く走れるコース(たとえば高尾山と陣馬山の往復のようなコース)で早く走るのではなく、走るには少しコースがきついがゆっくりと長時間歩くことができるコースがおすすめです。
コースとしては関東周辺ではハセツネのコースや青梅から長沢背稜経由雲取山へ登りそこから石尾根経由奥多摩駅へ下山するコース、6月中旬以降になり雪が解ければ北アルプスの上高地‐涸沢―北穂高岳‐奥穂高岳‐前穂高岳‐上高地などもおすすめです。
日光周辺にも探せばこの練習に適したコースがたくさんあります。
UTMBは登り始めるとずっと登り、下り始めるとずっと下りといったコース展開なので、基本的には走れない部分が圧倒的に長く、走れるコースより登り下りが長く続くコースがいい練習になると思います。
ともかく5月は自分の実力の現状認識をしかっり行い、その結果を分析して6月‐8月の練習(調整)をしましょう。
次回は6月の練習について書くことにします。
内容は山の歩き方の上達のためのもう少し詳しい内容と、今回書かなかった走力の足りない人向け(そのような人はいないとは思いますが)のロングのトレランのための走力の付け方の練習方法です。