今年のWestern Statesの優勝タイムには驚いたが、同時にNike ACGの穴あきウエアに驚いた人も少ないくないはず。自分はNike OBとして少し嬉しく、かつ、やはり巧妙な(褒め言葉)企業だなと感心してしまったのです。
ここ数年、Nikeの業績、株価が低迷しています。原因は様々言われていますが、商品を見ればわかりやすい。シューズに関してはイノベーションを緩めたとは思えないのですが、アパレル製品を見れば一目瞭然でした。どれも前年実績そこそこを取れるデザインとアイテム構成で効率重視、企業として優等生を演じてきた数年だったように思えます。ただ、消費者から見れば、それなら、「H&Mでよくね?ユニクロでよくね?」となるでしょう。2000年代のNikeは、企業としての利益効率は良くなかったかもしれないが、人を魅了するクリエーションがありました。「これ、誰着んねん?」「まー、プロトどまりだね。」「あー、やっちゃたけど、俺は好きだよ」というような、クスッとする品番が必ずどこかの競技カテゴリーに1つぐらいあったのです。ACGはNikeの中で主力カテゴリーではなかったためか、時折そういう品番がありました。NikeのCEOが交代してもうすぐ1年、そろそろそういうものが出てきていい頃だと思っていた時にこの穴あきロンT(?)だったのです。
Nikeは否定するかもしれませんが、この穴あきウエアには原点があります。2000年、シドニーオリンピックに採用されたStand-Off Singlet です。ちょうど四半世紀前ですが、開発は1998年と開発者のインスタに書かれています。今となってはリサイクルポリは普通ですが、当時は再生ポリエステル100%でウエアを商品化すること自体がチャレンジであったことを覚えています。肌面が点接触になっており、軽く、着ている感覚を忘れてしまうぐらい。一方、ストレッチ性に乏しく、脱ぎ着が難しい(いらっとしたのを憶えている)、点接触なのはいいけど、「男のビーチク問題どーすんねん」「日焼けどうなるの?」という意見も多かった。またシドニーオリンピックは9月開催、マラソンは後半であるため、これから冬へ向かう北半球への商品ロンチとしてはあまり注目されなかったのでしょう。しかも、このシドニーオリンピックでは頭までスッポリと覆われるナイキスイフトスーツがトラックデビューをした大会(スピードスケートのスーツとして実績あり)でした。そして地元オーストラリアで先住民の血を引くキャシーフリーマンが400mで金メダルを獲得したのです。そのスイフトスーツが注目され、Stand-off Singletは今ひとつ我々の記憶に薄いのかもしれません。
四半世紀たった今、こいつをひっぱりだして来たことに企業としての巧妙さを感じます。「なんだ新開発じゃないじゃん」「コピーかよ」と思われるかもしれませんが、Nikeは昔あった技術やアイデアを現代の社会にフィットさせ、マーケティングとパッケージにすることがとても上手いのです。少なくても今回は四半世紀前の自社のアイデアでもあるわけですから、責められるものでもないかと思いますよ。OBとして応援しています。