今回のキーワードは「募集定員」。
レースにおける定員数は大会によってさまざまですよね。日本には2,000人以上のランナーが一度に走るレースもありますが、そもそもどういった基準で決められているのか?
一般的には大会やレースの規模によって予算やエントリーフィーが決められることが多いものと予想されますが、私が関わったレースではそういったもの、いわゆる「これだけ集めなければ・・」といった前提条件は無く、まずは楽しめるレースを無事に開催して、エントリーして頂いたランナーに満足して頂くことが最優先事項と考えていました。
とはいえ、レースのプランニングの中では、以下のことを実行委員会の皆様にお伝えしていました。このことは当然のように皆様に受け入れて頂き、今でも感謝しています。
「登山者や登山道への影響を最小限にしたい・・」
「レース中に渋滞するようなことは避けたい・・」
七時雨山は新日本百名山に指定されていますが、一般的にはまだまだ知られていない山と言えるかもしれません。登山客もそれほど多く訪れていないこともあり、ランニングしていてもハイカーや登山客とすれ違うことは稀。当然、登山道の整備も頻繁には行われておらず、レースによる影響が一番怖かったというのが正直な気持ちでした。崩れやすい山道もあれば、危険区域も多く見られ、数百名のランナーがレース当日に一度に走る影響は計り知れないものでした。ましてや天候の悪化による影響なども考慮しなければなりません。なにせ「一日に七度時雨れる・・」という名前の由縁、ここは天候が目まぐるしく変化するエリアなのです。
いわゆる環境への影響についてはもちろん、更に気になっていたのが、登山やハイキングとの共存という部分でした。当初はトレイルランナーとすれ違う登山客や家族ずれのハイカーの表情に明らかに「おどろき」と「違和感」が感じられました。まだまだトレイルランニングというスポーツ、カルチャーがすぐに理解される段階にないことを強く感じる場面があり、大会当日は山開きの翌週ということもあり、年間を通してもっとも登山客が訪れる時期でもあることも気になっていました。(※実際に大会当日はレース告知しているにも関わらず多くの登山客が訪れる結果となりました。)
大会を主催する側、まさに地元のみなさん、レース当日にエイドステーションや牧場内でコース誘導にあたるスタッフ、ゴールで選手を出迎える地元ボランティアのおじちゃん、おばちゃんのことも実は気になっていました。はたして何百名というランナーを安心して安全に迎えることができるのだろうか?山の中を入っているトレイルランナーを生まれて初めて見る方々がほとんどなのである。
私の中では選手にとっての「走りやすさ」や自然環境への「インパクト(悪影響)」という条件は二の次になってしまった。レースプランとしては本当は間違っているのかもしれません。しかしこの七時雨山を愛し日々生活をしている人々が安心してランナーを迎えられる「許容範囲」や「バランス」ということを第一条件に考えることにしたのです。500名のランナーに対して50人で迎えるのか?200名のランナーに対して100名で迎えるのか?大きな違いが出てくることを考えていました。
2013年3月1日よりランネットにおいて募集をスタート。
定員数は「200名」とすることとなった。
とは言えレースプランニングをする上で「渋滞回避」と「登山道への影響」は最後まで課題となりました。そもそもどのあたりで渋滞が起きるのか?経験則で測るしかない。試走会や自分の経験値で考えるしかないことを前提で前半のコースレイアウトを検討しました。
では「登山道への影響」はどうか?
こればっかりは200名が走ってみないと分からない。
というわけで、レース翌日に実行委員会でコースメンテナンスと登山道のチェックを行ったのでぜひこの機会に紹介したい。他のレースでこういったレース後の状況を写真やコメントしている例はあまり見たことがないが、七時雨山では今後もトレイル状況を紹介していきたいと思っています。これは地元に方に向けてが最優先、もちろんランナーの方にもぜひ見て頂きたいしご意見も頂きたいと考えています。
写真①②は、つづら折りの細い下りのコース。(田代山からの下山コース部)
写真では登っているが、ここは細かい左右への連続カーブが30ほど続く。スタートから5km前で比較的、ランナーが連続して走行するところ。細いコースの為、地盤の弱い部分は谷方面へ崩れていく。崩れた部分は地面から無数の根が浮き出てきて、足元は引っかかりやすく非常に危険な状態となってしまう。
写真③はダイレクトに影響が出ている樹木。
下りのカーブに立っている木に選手は手を掛けて回転軸にして曲がっていく。バランスを取れるし、足への負担が軽減する。白樺の樹皮がはがれているのが分かる。ここ以外にも数か所同じような状況が見受けられました。
写真④は前の選手を追い抜くためにショートカットした足跡がコース上に数か所。
他のレースではショートカットしないようにテープやロープで通過できないようにしているレースもあるでしょう。田代山の下りはとてもコースが狭いために追い抜くタイミングや声掛けなどが非常に難しかったのだろうと予想できます。ショートカットする部分は植生に大きなダメージが起きてしまいます。
写真⑤はゴール手前の川の横断、丸太橋。
丸太2本だったら1割くらい転落していたかもしれない(笑)。
3本で正解、手を掛けるロープまで設置して頂いた。丸太自体も200名走り抜けたとは思えないほどきれいな状態だった。
※コース途中では道路横断の為の階段が3か所あるが、大会前に地元ボランティアの方々により新しく設置して頂いた。こういった整備に支えられてレースが行われていることもランナーの皆様には知ってもらいたい。
レース後のトレイル状況を踏まえれば、ある程度適正な「定員数」というものが見えてくるでしょう。しかしそれだけではなく、そこにいろいろな要素が関わり、環境面はもちろん運営面でも持続可能なものにしていかなければならないと考えています。
大会やレースの主役はトレイルランナーなのかもしれません。
ただし走りやすさや快適さを追求した定員数、運営規模や広告費を維持するためのエントリーフィーなどはこの自然を相手にしたスポーツでは最優先事項ではないですよね?
もはや自然環境への配慮は当たり前であり、
もっとも大切なことは我々ランナー自身の意識改革なのでないかと思います。
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