最近読んだ中から、ちょっと興味深かった一冊「The Way Of The Runner」を紹介します。
昨年の男子・女子の上位100のタイムを見るまでもなく、ケニアとエチオピアが現代マラソンを席巻しているのは明らかだが、この二カ国に続いてトップ100にランナーを送り出しているのが日本。日本マラソン界の落日が叫ばれているが、世界的に見れば東アフリカ勢に抗う数少ない勢力といえる。
なぜケニアのランナーは速いのかを知るため、実際に現地に赴き、その経験と発見を「The Running with the Kenyans」に著したイギリス人一般ランナーが、今度は日本のランニングの秘密を明らかにすべく家族と京都に2013〜14年の間、半年ほど移り住んだときの内容をまとめたのが「The Way Of The Runner」。
とりわけ日本独特の長距離カテゴリー「駅伝」に焦点が当てられる。市民チームに入り、立命館大学の駅伝チームと行動を共にし、最終的には苦労しながらトップカテゴリーである日清の実業団チームと共に練習するところまでたどり着く。また市民エリートランナーの川内優輝からコメントを得、さらには、より歴史的・精神的な背景を探るべく比叡山まで赴き、千日回峰行の満業者である大行満阿闍梨と話をする機会を得る。
著者は、日本の、とりわけ大学までのレベルの高さに驚愕する。箱根駅伝を見た著者は単純に、
“I leave Hakone feeling as though I’ve just witnessed one of the greatest races on earth.”
(最も素晴らしいレースを見た。)
と感動する。と同時に著者はなぜそこから伸び悩み、ケニアやエチオピアの後塵を拝するのかと考える。
“The Japanese believe that only through endless training can one achieve the unity of mind and body necessary to excel” … “The traditional view in this rich but cramped and resource-poor land is that nothing comes easily, and that only through doryoku (effort) and the ability to persevere in the face of adversity can one achieve success.”
(日本人はひたすらトレーニングし続けないと、心と体の調和を実現し何かを超越できないと信じている。…豊かだが、狭く、資源が豊富ではないこの国では、伝統的に、簡単に手に入るものはなにもなく、『努力』つまり逆境に打ち克つことによってのみ何かを成し遂げられると考える。)
彼は立命館のランナーと走る中で、みんなどこかを怪我している印象を受ける。一方で、あるアメリカの調査で、アメリカ、イギリス、カナダ、ドイツ、メキシコ、日本の中で、日本人の平均睡眠時間(6時間22分)が最も短いという結果と、8時間以上を睡眠をとるアスリートは、睡眠が少ないグループと比較して68%怪我が少ないという研究結果を引用する。
著者は、日清の日本人ランナーがチームメイトのアフリカ人ランナーと一緒に練習しようとしないことに驚く。またアフリカ人ランナーがチップが敷かれた柔らかい路面でのトレーングを好むのに対して日本人はいつもアスファルトの路面で練習することについて、大迫も所属するオレゴンプロジェクトを率いるアルベルト・サラザールの以下のルールを引用する。
“Salazar’s 10 Golden Running Rule #4 ‘Stay on the trails’ pavement damages joints, tendons, ligaments and muscles. the more you can run grass, woodchips or dirt, the better off you are. my athletes run 90 per cent of their workouts on soft surfaces.”
(舗装路は関節や腱、靭帯、筋肉を痛める。芝やウッドチップ、土の上で走るべし。自分のチームのアスリートの練習は90%は柔らかい路面だ。)
彼が行動を共にした立命館や日清は日本の中でも比較的、科学的なアプローチを取っているが、それでも個人の努力とチームの和が重んじられ、コーチが絶対という日本の駅伝チームに、科学の欠如を見て取る。著者が日本で発見した、柔道や剣道のように日本独特の「ランニング道」(=“The way of Running”)。川内が批判し、立命館や東洋大、日清が抜け出そうとするそのシステムは、多くの日本人に無意識に守られている。
一方、日本で見たこと、経験したことを反面教師にして、日本を離れた著者はイギリスで自己ベストを更新することに成功するのだった。