6月24日〜25日に開催されたウェスタン・ステイツ・エンデュランス・ランのお話。前回のつづきです。
スコー・バレーにはレース二日前の朝に到着した。
着いたその足でスタート地点からコースの最高地点となるエミグラント・パスまでの6キロほどの上りを走り始めたら、ちょっと息苦しい。スタート地点で標高約2000メートル、頂上では約2600メートルある。別段、高地への順応をしないまま走ったのだから、そう感じるのは当然といえば当然だ。
息が切れるので走っては歩き、走っては歩きを繰り返していたら、「お前HURT走ってただろ」と話しかけられた。走るのを止め、彼に合わせて歩きはじめる。フィリピン出身のコルナドはアメリカに来てもう30年だそうだ。今年はグランドスラムの5レースすべてを完走するつもりらしい。「この前、Old Dominionに日本人いたよ。名前なんて言ったかな…そうそう、ジローだ。」「ウェスタン・ステイツの目標は?俺は24時間切るのが目標かな。」「バークレー走りなよ。走ったことがあるんだ。走るときはエントリーの手伝いしてやるから。」トレイル談義に花を咲かせてたら、結局ほとんど走ることなく上まで登ってきてしまった。
個人的には、レースまで一週間を切ってからの練習は多分に気休め的な要素が強いと思っている。今年のHURT 100ではレースの一週間前に捻挫して以降、レース前に走ったのはトータルで5キロほどだったが、それでも悪くない結果を残せた。確か10年近く前に走ったマラソンでも直前に太ももに痛みが出て、大事を取って一週間全く走らず臨んだが、結局その当時の自己ベストで走れた。
頂上まで走るプランは崩れたが、レース直前は走りすぎるくらいなら、よっぽど走らなすぎくらいのほうが良い。
多くのエリートはもちろんのこと、幅広い年齢層のあらゆるレベルのランナーが目指す世界最古・アメリカ最高峰の100マイル・レース。そんなウェスタンステイツのウェスタンステイツたる所以は、会場にいるだけでも随所に感じることができる。レース前日の受付ではHURT 100のレースディレクターのスタンがボランティアしていたし、選手の写真を撮っていたのは「BORN TO RUN」でおなじみのルイス・エスコバルだった。
その他にもトレイル・ランニング・コミュニティの中心となる人々やレジェンドにたくさんお目にかかれる。登場人物の厚みが違うのだ。
レースの朝はよく寝れた。いつもそれほど眠るのには苦労しない。むしろ、大抵レース前に寝られないのは妻の方だ。これから長いサポートが始まるのだから休めればよいのだけれど、緊張するらしい。
朝5時が近づくと、スタート地点にはランナーが集まり始める。その周りをたくさんのクルーや観客が囲んでいる。私が陣取ったのは男子エリートの後ろ、女子エリートの横あたり。スタート後のプランは「20位〜30位くらいでスタートして淡々としたペースを崩さず走る」なのだから、あまり前に並んで周りの人の勢いに惑わされてもしょうがない。
スタート後、二、三人は最初から飛ばしているようだが、そのあとは多少ばらけながらも団子状態だ。ざっと数えた所、私の前にいるのは大体20人強。予定通りのポジショニングだ。多少アドレナリンが出ているのか、今日は登っていてもそれほど息苦しさを感じない。
iRunFarが冗談半分で「ほんとにウェスタン・ステイツでトップ10に入りたかったら、最後までイアンのすぐ後をぴったりついていけばいいのに、なんでみんなそうしないのか不思議だ」と書いていたが、ちょうど私の目の前にはそのイアン・シャーマンやジェフ・ブロウニング、ジェシ・ヘインズといったトップ10の常連がいる。ちょっと彼らのペースに合わせて登ってみることにした。彼らが歩くスピードはそこそこ速い。というか、自分の足が短くて少し頑張らないと彼らの歩きについていけない。上に登るに連れて少しづつ差が広がっていくが、まだ無理をしてついていく段階でもない。
エミグラント・パスの頂上に近づいてきた。夜明けで明るくなり始める中、コース沿いに応援する人が並んでいる。そのなかに、左足が義足の人影を見た。すぐに誰だかわかった。デイブ・マッキー。2011年の年間最優秀ランナーに輝いたこともある彼は、私がトレイルランをはじめた頃にはすでに40歳を超えていたものの、まだまだ力強い走りを見せていた。私のロールモデルの一人で、いつか一緒のレースを走ってみたいと思っていたが、不幸にも2015年にトレーニング中の落石で片足を失った。それでも彼は復活してきた。最近では相当なタイムで走れるまでになっている。感傷に浸れそうな出会い。だけどレースは始まったばかり、感慨にふけっている余裕はなかった。
さあ、再び二日前に登ったエミグラント・パスまでやってきた。ここから先ロビンソン・フラットまでは私にとって未知のトレイルだ。
(つづく)
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[…] 第一回、第二回に引き続きウェスタン・ステイツ・エンデュランス・ランの連載、第三回です。 […]
[…] 第一回、第二回、第三回と続いたウェスタン・ステイツ・エンデュランス・ランの連載も遂に最終回です。 […]