トレイルランニングを楽しむ際、怪我や病気は避けたいものですが、特に海外レースでは予期せぬリスクがつきものです。治療費や搬送費用が非常に高額になることがあるため、適切な保険への加入は不可欠です。今回は、私が Tor des Géants で十二指腸穿孔による腹膜炎を発症した際の経験をお話しします。
緊急手術と入院
これまで100以上のレースに参加してきましたが、大きな怪我や病気を経験することはほとんどありませんでした。しかし、今年の Tor des Géants で十二指腸穿孔を引き起こし、緊急搬送後すぐに手術を受け、約2週間入院しました。
怪我や病気に備える重要性
トレイルランニングでは、怪我や病気を避けたいと思っていても、実際には誰にでも起こり得るものです。特に海外では、治療や搬送にかかる費用が高額になることがあるため、適切な保険に加入しておくことが重要です。
今回利用した保険
今回、私が利用した保険は以下の2つです。
- ITRAの保険
国際トレイルランニング協会(ITRA)が提供する保険で、レース中の怪我や病気に対応しています。補償額は、海外では€150,000、国内では€15,000です。レスキュー費用や帰国便の変更にかかる費用もカバーされ、非常に助かりました。 - クレジットカード会社の旅行中断保険 (Trip Cancellation and Interruption Insurance)
これは、旅行を中断せざるを得ない状況が発生した際に、未使用の航空券や宿泊費の返金を受けられる保険です。今回、レース後に予定していたバケーションが入院のためにキャンセルとなり、返金されなかった航空券やホテル費用の一部が補償される見込みです。
治療費の比較
海外では、円安も相まって日本と比較して医療費や搬送費が高額です。私が今回経験した十二指腸穿孔の治療費については、以下の通り国によって異なります。
- 日本: 約700,000~2,500,000円
- ヨーロッパ: 約8,000~20,000ユーロ(約1,200,000~3,200,000円)
- アメリカ: 約50,000~100,000ドル(約7,500,000~15,000,000円)
特にアメリカでは医療費が非常に高額となるため、保険選びの際にはこの点を考慮することが大切です。今回のケースでは、ITRAの保険で十分にカバーされそうです。
帰国に関わる費用
入院が長引いたため、当初予定していた帰国便には乗れませんでしたが、保険会社が私と妻の帰国を万全に手配してくれました。アオスタからトリノまでのタクシー代、トリノからシアトルまでの航空券、そして自宅までのタクシー代もすべてカバーされました。手術後の私はビジネスクラスでの移動が手配され、とても助かりました。
対応で苦労した点
手術直後は動けなかったため、最初は妻が保険会社と電話やメールでやり取りしてくれました。私の体調が回復してからは、私自身も保険会社との対応に加わりました。ITRAの保険はフランスの会社が提供しているため、やり取りは主に英語やフランス語で行われました。
病院も保険会社も非常にサポーティブでしたが、以下の点で少し苦労しました。
- 病院から保険会社へのレポート送付
保険会社は病院からのレポートが無ければ手続きを進められません。しかし、病院は患者の治療を優先するため、レポートの送付が遅れました。それでも、最終的には病院から保険会社にレポートが送られ、手続きは進みました。 - 退院時期の調整
退院可能な状態になった後、保険会社が手配した帰国便のスケジュールまで少し時間があったため、私は早めに退院し、帰国前にホテルで過ごしたいと考えて病院や保険会社と交渉しました。保険会社は病院側の判断を尊重するという返答をえたものの、病院は私の体調を優先し、退院後に体調が悪化するリスクを避けるため、帰国前日まで退院を認めませんでした。病院側としては安全を第一に考えた結果なので、納得しています。
日本から海外のレースに参加する場合
ITRAの保険は英語やフランス語での対応となるため、日本語でのサポートを求める方には少し使い勝手が悪いかもしれません。日本からの海外レース参加者には、日本語対応の海外旅行傷害保険を検討するのも良いかもしれません。ただし、その保険がトレイルランニング特有のリスクに対応しているか、具体的には救助費用がカバーされているかなどを事前に確認することが大切です。
その他の保険について
今回は利用しませんでしたが、私がアメリカで加入している個人の健康保険も海外対応です。ただし、Deductible(控除額)が高く、今回のケースでは利用しませんでした。また、クレジットカードの旅行傷害保険も持っていますが、ITRAの保険で十分カバーされたため、利用する必要はなさそうです。
最後に
海外レースに参加する際は、不測の事態に備えて個人で保険に加入することが重要です。医療費や搬送費が高額になる可能性を考慮し、適切な保険を選んでおけば、不安なくレースに集中できるでしょう。