朝6時。大会本番の朝が始まった。
約1時間程かけてスタート地点へ向かう為、40台ほどの自家用車で大移動。スタートするウェーブ順に移動する為、乗って来た車とは関係ない者同士が相乗りとなる。リハーサルが出来ない一発勝負なのでクルー達は朝から緊張感が走る。
一方、エイド班は50人分の水と軽食を背負ってコース中間地点の姫次に向けてボッカを開始。
撮影班もスタンバイの為移動。朝からテンション高い!
もう一方、コースクルーは既に前夜に出発していてスタート地点付近に泊まり、夜明けとともに行動を開始。トップ選手通過の前に自分のポジションへ向かう。朝で水が冷たいのにみんな楽しそう。
午前7時30分。
選手がスタート地点に集結するが、気温は10℃以下。薄着なのでかなり寒い。
午前8時。
定刻通り第1ウェーブの選手が元気にスタート!トレイルへのインパクト、ハイカーとの接触や渡渉や鎖場での渋滞を避ける為にウェーブスタート式とした。1ウェーブ10人を10分間隔で5回繰り返した。
最終ウェーブは見る人が見ればわかる面々。本来は20kmのショートレースには絶対出ないであろう選手がいたり異種格闘技戦となった。
コースクルーによる沢サポート。とはいえ基本は必要あれば手を貸し、もし流されたら救助するという放置スタンス。
写真は無いが、沢セクションの後は斜度70度の直登セクションを越え、踏み跡の薄い尾根のバリエーションルートを進む。終わりそうで終わらない、いやらしい登りが続く。
1時間以上かけて稜線に出てもまだ距離5km程。しかし、キツイ登りの後なのにみんな笑顔!
天候に恵まれ、クルー待望の念願の富士山は見えた。しかし、本当に見たかったのはこの笑顔だったんだ、と写真を見て気がついた。笑顔に勝るものは無い!
写真は無いが、蛭ヶ岳を過ぎるとブナ林の緩いアップダウンの極上トレイルが3kmほど続き、その後姫次に到着。姫次ではエイド班によるエイドを展開。水、コーラ、クリフバーなどなど。温かい昆布茶も好評だったとか。
「一方、この楽しそうな雰囲気の裏側では…」
以下は敢えて触れておきたい。8:40分に最終ウェーブの選手のスタートを見送って、本来ならゴールで待っていても良いのだろうが、自分がレースに出ても必ず「まさか」の事態が起こる。50人も出ていれば、「50人分のまさか」が起こるということだ。前半の沢エリアはサポートが厚いのでクルーにまかせて、ショートカットコースを使って上位選手の先回りするようにコース中間地点の姫次に向かった。天気に恵まれて、ジャケットが要らないくらい暖かく、沢で濡れても低体温症の心配はほぼ無いだろうと半ば安心していたのだが…
姫次エイドに到着する手前でクルーから電話が入り、コース14km~15kmの区間で害獣駆除の為、ハンター約20名程が鹿追い包囲網作戦をおこなっているとの情報が入り、即現場にかけつけると、山中のあちこちで猟犬が吠え、発砲音が鳴り響く中を選手達が通る状況となっている事に青冷めた。しかし、チェックポイントのクルーが機転を利かせてくれたおかげで、ハンターたちに選手が通る情報が伝わっており、ハンター達はトレイルと弾が交錯しないように、トレイルに背を向けて銃を構えていた。しかし、1名の選手がコースをロストしたのを発見したので、他のクルーに迷いやすいポイントのコースマーキングを追加してもらった。そして、コースを通りながらハンター1人1人に事情を説明をしてまわり、安全であることを確認できたので連絡をしてくれたクルーと合流して情報交換をした後、そのままゴールへ向かった。その途中も野鳥愛好家がコース付近で写真を撮っていて、これまで雨でも晴れでも何回も試走をしても会うことが無かった新キャラがなぜかこの日に続々と登場。やはり「まさか」は当然ながら意外なところから現れる。
そして、野鳥愛好家の方にも状況を説明しつつゴールに向かっていた時に、今度は1名の選手が血尿が出たとの報告が入った。姫次の医療班の適各な状況報告から選手の意識はしっかりしており、走れる状態だったためクルーの並走サポートを付けてゴールまで来る対応をおこなった。
こうしてアクシデントに対応をしながらゴールに戻ってひと安心していたのだが、最後になって最終ランナーがコースロストしたという情報が飛び込んで来た。しかし、スイーパークルーの的確な判断によって、迷った経路を予測して早い段階でロストした選手を発見でき、再びコース上へ選手を戻すことができた。
このように楽しそうな笑顔の裏舞台では様々なことが起こっていたのだ。
そして選手が続々とゴール!
ゴール後のお楽しみは、ヴィーガンパワーフードで知られているULTRA LUNCHによる丹沢の酵母で作られたパンと身体が温まるスープでおもてなし。身体の中からも丹沢を味わってもらおうという配慮が素晴らしい!
大きな怪我も無く、出走者全員が完走!!
この時の安堵感といったら例えようが無い程の感覚だった。
閉会式&表彰式の様子。
選手とクルーとで記念撮影をして閉会となった。
しかし、大会はまだ終わっていなかった。最も遠い場所から帰って来るクルーを待つ。
これにてMOUNTAIN CIRCUS 2 TANZAWAは終了。
『まとめ』
当初は関東でマウンテンサーカスに適したコースを提案できるだろうか?自分だけではなく関係者全員が不安を持っていたが、コース選定で何度も丹沢の山を訪れる毎に魅力的なロケーションが沢山あることがわかり、そして、
「自分が楽しいと思うコースに、いろんな人を誘って楽しんでもらいたい」
と思えるようになった。ここに到達するまでにはいろいろあったが、最終的にはマウンテンサーカスの掲げるローカリズムに上手く着地できたと思う。
しかし、これが実現できたのは、チーム内に山が好きで、普段から沢やクライミング、バリエーションルートを楽しんでいる仲間達がいたからこそだ。
また、もう一つの大会のコンセプトである「コミュニケーション」も、普段からキャンプをしているメンバーがチームにいたこと。そして、山の食事に慣れたハイカー女子メンバーらとうまく連携して、寒空でも暖かくて楽しいキャンプスタイルの前夜祭を演出することができたからこそだ。
もともとレースを開催するために集まったチームではないのだが、それぞれの得意分野のスキルを集めると一つのイベントを開催して、多くの人を楽しませることができるという事がクルー各自が目に見える形で味わう事が出来たのは大きな収穫だったと思う。
そして印象的だったのは、大会全体を通してクルーのほぼ全員が「作業」にならず、自身も楽しんでいたことだ。その気持ちが大会全体に伝搬したことで、選手も始終笑顔のアットホームな良い雰囲気が作れたのだと思う。
反省点としては山ではハイカーだけではなく、ハンターや野鳥愛好者など様々な人達がいるということをもっと事前に調べなければならなかった。この点は素直に反省し次回に活かしたい。
マウンテンサーカスは今後も各地のどこかで開催されるだろうし、個人的にはこんな楽しい事をもっと多くの人と共有したいと思うのだが、これまでの記事を見てわかる通り、誰もが参加できる内容ではないのと、一般参加枠を増やせば、今まで突っ込めなかった領域のエッヂを丸くすることになり、そうなると既存のトレイルランレースと何ら変わらなくなるジレンマが発生する。少人数だからこそできる個性的な大会というのもあって良いと思う。
しかし、いろいろなトレイルランチームがローカルで大小の草レースを開催するようになれば、もっと全国のランナー同士の横のつながりも活発化するだろうし、各ローカルの個性を活かした魅力的な草レースが生まれて行くと思う。欧米では元々は草レースがメジャーレースに発展していった背景もある。また、既に国内でもいくつかの草レースが何回も開催されている。今回やった事は何ら特別な事ではない。もし来年、新たな草レースが開催されたらタイミングが合えば是非伺いたい。
最後に今回の大会をギュッと凝縮した撮影班が編集したVideoを紹介して終わります。選手とクルー、そしてサポートしてくれたスポンサーの方々、そして丹沢の山々に感謝!
草レースやろうぜ!!MOUNTAIN CIRCUS 2 TANZAWA (完)
(blog内の写真は全てMC2撮影班とコースクルーが撮影したものを使用しています。)