年末に北岳に行ってきました。 天候に恵まれたおかげで無事に登頂できました。 この池山吊尾根からの冬の北岳、25年前にも行きましたが静かでよいコースです。 ただ尾根に出てからの「八本歯のコル」と言われている箇所はちょっとした岩場でアルパインチックな楽しい場所でした。
※12月27日・・・
1月26日深夜に都内を出発。27日早朝に夜叉神入口に到着。が、凍結による通行止めでゲートが閉まっており、解除されて開くのが8:00。ここで3時間待たされました。 登山道を歩くこともできますが、車で上に行った方が楽なのでしばし休憩の後、峠に到着しました。
駐車後、広河原へ行く林道のゲートのおじさんに挨拶をしてから通過。
「んー? 北岳行くのか??」 「ハイ! 行ってきます。天候が荒れたら即撤退します。」
歩き始めて5分で夜叉神トンネルに到着。真っ暗なので約1km程ヘッドランプを点けながら歩きました。 とにかく北岳はアプローチが長い!!
凍結した林道でスリップしないように慎重に歩いて鷲ノ住山登山口へ到着。
ここからほんの少し登り、そして一気に400m下って奈良田からの林道へ合流します。(夜叉神峠の林道は奈良田からの林道より400m程上部を走っています)
そしてこの鷲ノ住山の稜線が、一部だけ実はちょっと・・・ うっすら積もった雪が氷化してツルツル。土もガチガチ。 樹林帯だけど結構な角度で両側がスッパリ切れ落ちていて、こんな大荷物背負ってスリップしたらまず助かりません。 即アイゼン装着です。
長い下りもガチガチに氷化していたので、12本爪アイゼンを履いたままでしたが結果的に早く安全に下りることができました。 ベテランの方はこんな雪ぐらい・・と言ってアイゼンを履かなかったりしますが、安全に下りるために履いて正解でした。(アイゼンを装着している我々を抜いていったノーアイゼンのおじさんも結局アイゼンを装着してました)
アイゼンを付けたまま吊橋を渡った後、少し登り返して奈良田からの林道へ合流。アイゼンをはずしてから「あるき沢橋」という橋のたもとの登山口までのんびり歩き、いよいよ急登の始まりです。
ここでも登り始めからアイゼン装着。 雪が氷化しまくりです・・・
その後+1000m登って池山御池小屋(避難小屋)に到着ですが、翌朝の時間を稼ぎたいので暗くなるギリギリまで更に登り、テント適地(平な場所)を見つけてようやく幕営(16時)となりました。
テントではまず必要なものを取り出して、かさ張るザックを隅に片付けます。 その後まずは水分補給・・・ お湯を沸かして甘い紅茶を作り、一息ついたらすぐに食事の用意です。
本日は玉ねぎ入りみそラーメン!(撮影のためコッフェルから手を離していますが、炊事中は絶対にそこから手を離しません。
ベニヤ板から作った まな板兼ボンベ敷きとはいえ、ここは雪の上なので時間が経てば不安定になり、万が一ひっくり返ったら大変です。)
その後、残ったスープに冷凍おにぎり(外は氷点下10度)を入れてシメの雑炊でした。
お酒はペットボトル入りのウイスキーをお湯割り用に少しだけ持参しました。
食事が終わったら翌朝用の水を作ります。 きれいな雪を取ってきて水にして一度沸騰・・
それを二つのプラティパス(折りたたみ水筒)へ。
朝の炊事用と行動用とテルモス(魔法瓶・サーモス)分を作ったらかなりの量になりました。
それを温かいうちに寝袋の中へ。簡易湯たんぽです。
寝袋の中には、靴の中敷き、インナー手袋、ヘッドランプ、携帯、カメラなどを入れて就寝します。(凍らせたくない、及び電池の消耗を防ぐため)
ゴアのシュラフカバーも寝袋を凍らせないために私は必ず使用することにしています。
そんな感じで遅めの20時に就寝しました。 翌朝は3時起床です。
※12月28日・・・
3時起床。寝袋に入ったまま上半身だけ起こしてバーナーで甘い紅茶を作り、同時にアルファー米に湯を入れ蒸らします。食事をして温まったらアタック準備に入ります。
持ち物は、ヘルメット、ハーネス、ザイル、ガチャ(カラビナなどの登攀具)、行動食、飲み物などで、天気が荒れそうなら更にバーナーとツエルトを持参しますが、終日安定予報なのと、天候急変時でもすぐに逃げられる(道を知っている)ということで今回は持ちませんでした。
5時にヘッドランプを点けながら出発。すぐに猛烈な急登! 汗をかかないように進んでも汗をかいてしまいます。温度調整でジャケット全開で登ります。 雪はパウダーで一歩進んで半歩下がる状態。膝程度のラッセルが続きます。 やがて標高も上がり稜線に出るころに明るくなってきました。
左写真 間ノ岳(右)と農鳥岳 右写真 ヘッドランプがついたまま・・
やがて樹木の生えていない「ボーコン沢の頭」に出ました。ここは悪天候時に一番迷いやすいところです。その時は赤布(せきふ)という赤い布を竹竿に取り付けたものを目印に差しながら歩くような場所です。勿論今回は持参していません。(悪天候時は登らないため)
とにかく変哲もないなだらかな稜線です
※このあとは「八本歯のコル」に向かって岩と雪のミックスをクライムダウンしていきます。
天気が崩れる前に登頂したいので帰途に写真を撮りました。なので山頂まで写真はありません。
八本歯のコルからは山頂へ向けて登ります。途中でガチガチに凍った急な斜面を何度もトラバースしながら高度を稼ぎ、最後の岩の稜線を登り切ったら山頂がありました。
左写真 北岳山頂 右写真 北岳山荘への分岐標
遠くは富士山、八ヶ岳、北アルプス、おんたけ、乗鞍などなど、富士山以外はすべて北岳から見下ろせました。
写真を撮ったらすぐに下山。
滑落しても全然おかしくない斜面なので慎重に下ります。
だんだんと天候が崩れ始めるであろう予想時間が迫ってきます。(段々と雲が湧いてきた) 写真なんか撮っている余裕がないので(急斜面上でのアイゼンワークにおけるフラットフッティングの連続動作中に、イレギュラーな動きを取り入れると一瞬の隙ができかねない為)
安全地帯まではリンリンをサポートしながら(口頭で指導しながら)下りました。 時間的に余裕があったので、そこからは撮影をしながら下山しました。
登りで通ってきた「八本歯のコル」へ向かって下りて行きます。 写真右側から時折強烈な突風が吹きつけてきます。
下りきったところからは今度は登り返します。往路はここをクライムダウンして下りてきたのですが、ちょうど良いホールド(岩を掴める場所)をピッケルのブレードで雪から掘り出しながらでした。スタンス(足場)の悪いところはアイゼンの前爪を岩に置きながら下りたり登ったり・・・
凍っている所は前爪を蹴りこめるので逆に楽だったりします。
左 甲斐駒ケ岳、右奥に八ヶ岳連峰
八本歯を越えて振り返ったら雪雲がものすごい勢いで迫ってきました。 富士山を見たらいつの間にか笠雲が・・・ これからの悪天候が予想されます。このあとすぐに強風が始まり、夕方から雪が降り始めてきました。
ボーコン沢の頭付近の雪の状態。
一見雪は柔らかそうに見えますが、風に磨かれてご覧の通り。普通に立っているだけではアイゼンの爪が少しだけ(数ミリ)しか刺さっていません。
斜面のトラバースではしっかりと爪を打ち込みながら歩かなければスリップしてしまいます。
このあとは樹林帯に突入し、朝登ってきた急登を下ります。
テントに15時くらいに帰着。 熱々の甘い紅茶でほっと一息。
夕食のカレーうどんが最高でした。 このころから始まった降雪が一晩中降り続き、テントが雪の重みで押されて容積が縮小・・。 中から雪を外に押して対処。
結局雪かきせずに済みました。
少し斜めの斜面だったので夜中のうちにリンリンが雪に押されてきて狭かったです。 (大雪時、雪かきをしないと窒息やテントポール破損の恐れがあります)
※12月29日・・・
雪はまだ降り続いています。朝食後にテント撤収して早々に下山を開始。
一気に1000m以上下山します。
下りれば下りるほど気温も上がってきて、アイゼンに雪がダンゴ状にくっついてとても歩きにくいのでたまにピッケルで叩いて落とすのですが、ピッケルシャフトがアイゼンで傷つくので岩や木に靴を軽く当てて雪を落としながら歩いていきます。
初日には雪が無かったあるき沢橋はご覧の通り。
冬の山は一晩で様相が一変します。
普通ならこのままこの林道を4時間歩けば奈良田の集落ですが、我々は吊橋を渡って400m登り返さなければなりません。
下山中、もうすぐ林道という斜面ですれ違った最初のパーティーは5人。
その後すぐ別の6人が登って行きました。
ここで疑問が。
彼らの格好を見ていて不思議なのは、登り=暑いハズなのでジャケットのチャックを上まで締め上げて登るととても大量の汗をかくと思うのですが・・・
少なくとも御池小屋までは危険箇所がありません。 しかし!彼らはハーネスにシュリンゲ・カラビナを付けたまま歩いているので、正直 「??」 と思いました。
この頃には雪も止んでいたので私だったら消耗を防ぐために登りではジャケットを脱いで進むと思います。 その後、奈良田へ続く林道を下っていくと更に一人の男性とすれ違いました。
私「こんにちは! 今日はどこまでですか?」
男性「御池小屋までです」
その50m後ろから一人の女性が来ます。この二人は関西からのパーティーでした。
私「こんにちは! 雪が止んで良かったですね。お疲れ様です!」
女性「・・・・はい・・・・」 (小さい声で凄くつらそうです・・)
リンリンと、「あの二人、離れて歩いているけど大丈夫かな? パーティーだよねぇ? 女性、凄くきつそうだね・・ 大丈夫かな? 数日は天気も崩れるし、登頂出来るのかな?」 などと会話をしたのでハッキリと覚えていました。 そのウエアや顔まで・・・
いよいよ吊橋を渡るために林道から分かれて発電所へ下ります。
下りる途中の岩場に来ました。 登りは問題ありませんでしたが下りは滑落の危険もあります。普通なら一人が空身で先におりて荷物を受け取ればよいのですが、ここでせっかくなので持ってきたザイルで懸垂下降の練習をしました。 これが一番楽しかったかも♪ その後は雪でトレースの消えた鷲ノ住山の斜面をしっかり登り返し、夜叉神の林道をてくてく歩いて夜叉神峠の車へ帰着しました。。。
下山して少し経った31日、
TV NEWS:「1月29日に入山した男女のパーティーが北岳で遭難しました・・」
直感で感じたイヤな予感が的中です。 きっと無理をしてしまったのかもしれません。
その日にすれ違った二人組はあの男女二人だけでした。 あの遅い時間に登って行ったことも含めて、どんな山でも登るからには個人の自己責任だと思っています。
気圧計の針が下がり、悪天が予想されているならテントの中で2日も3日も、更にはそれ以上耐えなければならないのが冬山。
日数が無いから・・ せっかく来たのだから・・ 山頂が目の前だから・・
私も無理をしないように、今一度肝に銘じて山に行きたいと思います。