僕の周りだけ電車がすいていた。
他の座席を見ると埋まっているのに、だ。
僕の前はおろか、両隣には誰もいない。
つい1時間前に帰国したばかりで神経質になっているのかもしれない。
気にしないでおこう。そう軽く考えていた。このときはまだ事態の重さに気づいていなかったのだ。
それから数駅を通過。相変わらず横に座る人はいない。
近くまでは来るものの、素通りされてしまう。
さすがにおかしい。
鼻に手を当てる人がいた。その仕草を見てついに理解した。
僕は臭いのだ。悲しき現実である。
周囲に人がいないのは僕の異臭のせいなのだった。
この時の僕は砂漠を1週間走るステージレースに出場した帰り。
レース中は、風呂はおろかシャワーもない。
すると、着続けたウェアやバックパックには臭いが凝縮されていく。
繊維の隙間という隙間に臭い成分が入り込み、砂漠の熱さと砂とで化学反応を起こして、臭い成分が定着したに違いない。
そう考えてしまうくらいに、臭いのだ。走っている間は慣れてしまって気づかないが、かなりの臭気を発していた。
1度や2度の洗濯では、洗ってもとれない。レース後に捨てていこうにも荷物を全て入れてきたバックパックなので帰りも背負わないといけない。 こうして誕生したのが、(汗の)臭い立つ男、すなわち汗キツ系である。
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福岡県の片隅でこっそりランナーやライターとして活動しています若岡と申します。ステージレースと自宅周辺の山がフィールドです。どうぞよろしくお願いします。