2018年5月12日・13日、チームメイトと共に第2回ASO ROUND TRAIL(以下ART)に参加した。今回は、私が挑んだフルの部の参戦記を前後編に分けて記す。
結論から述べる。この大会は、日本が世界に誇るべき素晴らしいトレイルランニングレースだ。
世界最大級の火山・阿蘇を巡るトレイルレース
ARTには、世界最大級のカルデラ地形を誇る阿蘇外輪山を一周する「フル(109km/累積標高5,000m)」と、その後半部を走る「ハーフ(43km/累積標高2,800m)」の2部門がある。制限時間はフルが29時間、ハーフが12時間と、いずれもハードな設定だ。
コース後半に難所が集中しており、戦略的なペース配分が求められる。私は迷わずフルにエントリーした。
ARTを知ったのは、雑誌『RUN+TRAIL』に掲載された特集記事だった。阿蘇の雄大な自然を捉えた写真に心を奪われた。そして、Facebookの友人が「これしか出なくていい」と絶賛していたのが強く印象に残っていた。
12月1日のエントリー開始直後、瞬く間に定員に達したが、幸運にも申し込むことができた。
私が所属するトレイルランニングチーム「Run or Die(以下ROD)」からは、私と愛知のアニキ夫妻(アキちゃん)に加え、ペーサーのマリコ様、ウタちゃんの計5名が参加した。久しぶりに仲間と再会できることも楽しみの一つだった。
前日:合宿のような夜
5月11日、装備チェック・受付・コースガイダンスを済ませたのち、宿へと向かう。宿泊先は、東京・大阪・愛知から集まった男女12名の混成チーム。顔なじみのチームメイトもいれば、ACROなど別チームの初対面の方もいた。
スケジュール確認、居酒屋での懇親会、コンビニへの買い出し、温泉、装備準備と慌ただしいながらも楽しい時間を過ごす。まるで学生時代の合宿のような感覚が蘇った。地方開催レースならではの醍醐味である。
興奮のあまり、レース前夜はほとんど眠れなかった。
スタート:阿蘇の大地へ
5月12日早朝5時45分、2台の車に分乗して宿を出発。スタート地点の「大阿蘇環境センター未来館」には6時過ぎに到着した。ドロップバッグを預け、トイレを済ませ、スタートゲート前に立つ。
開会式にはサプライズゲストとして「くまモン」が登場。場は一気に盛り上がった。
午前7時、スタート。600名以上が参加しており、それぞれのペースに合わせてスタート直後からバラけていく。
ペーサー組は車で先回りし、サポート可能なエイドステーション(AS1、AS3、AS4)で応援してくれる予定だ。仲間のサポートは実に心強い。
最初の目的地は、18.7km地点にあるウォーターステーション「折戸地区コミュニティセンター(WS1)」。ここへ向かう途中、外輪山への400mほどの登りを越えると、最初の絶景が広がっていた。
阿蘇の大地と暑さとの戦い
23.9km地点のAS1「はな阿蘇美」には10時42分に到着。関門時間12時に対して1時間18分の貯金ができていた。快調な滑り出しだ。
この日の予報は晴れ、最高気温は25℃超えの夏日。まだ暑さに慣れていない身体には堪えた。
仲間から差し入れられた冷えた炭酸が、火照った身体に染み渡る。「だご汁」も絶品だった。阿蘇の郷土料理で、団子と野菜が入った味噌仕立て。疲れた身体に優しく、しっかり腹持ちもする。
ここからは、ASごとに仲間と再会したり、区間で並走したりと、個人での挑戦と仲間との交流が交互に訪れる展開となる。これが実に楽しい。
次なる難所は、大観峰の激登りだ。苦しい登りを耐えきると、背後には壮大な絶景が広がる。阿蘇五岳の山並みが、まるで横たわる仏様(涅槃像)のように見える。
大観峰でも仲間が待ってくれていた。短い会話でも、仲間の明るい声が前向きな気持ちを引き出してくれる。このレースは決して一人で走っているわけではない。仲間の存在が、推進力となって背中を押してくれる。
熱中症の兆候、そして復活
大観峰を越えると、広大な牧場が広がる。まるで日本ではないかのような風景だ。ここは「世界農業遺産」にも登録されている草原地帯。
しかし、木陰は一切なく、強烈な日差しが容赦なく体力を奪っていく。ロード区間に入ったところで、急激にバテ始めた。軽い頭痛とふらつき。軽度の熱中症の兆候だった。
38.2km地点、AS2「国造神社」に到着。スタートから6時間半が経過。食欲はなく、提供された漬物から梅干しを一つだけ口に入れる。
DNF(Did Not Finish)の3文字が頭をよぎる。だが、そこへ現れたのがアキちゃんだった。思わず「女神降臨」と心の中で叫んだ。彼女の背中を追う形で、しばらく引っ張ってもらうことにした。
気温も下がり始め、少しずつ回復してきた。歩いてばかりでは関門が危うい。アキちゃんと共にペースを上げ、前後しながらリズムよく走る。
ACROの古谷さん、大橋さんにも追いつき、AS3「すずらん公園休憩所」には15時57分に到着。関門時間17時に対して1時間3分の余裕があった。もっとも厳しいとされる関門を突破した瞬間だった。
半分に届かぬ地点、見えたのは絶望か希望か
ここでも仲間のサポートを受け、エイドで蕎麦を口にする。食欲はなかったが、温かい汁をお湯で薄めて流し込んだ。差し入れのフルーツを頬張り、バナナはバッグへ。
15分ほどの滞在で、アキちゃんと共に再スタート。
ここでようやく50.7km地点。109kmの道のりの半分にも届いていない。遥か遠くに見える外輪山の稜線。果てしなく続く道のりに、圧倒される。
果たして、この先にどんな試練が待っているのか。私はそのすべてを乗り越えられるのか。弱気になる心を奮い立たせ、後半戦に向けて再び走り出した。
—後編に続く—