ONTAKE100マイル中止の報せと喪失感
2018年7月、3連休に開催予定であった「ONTAKE100マイル」は、西日本豪雨の影響により中止となった。トレイルランニングは自然の中で行うスポーツであり、天候やコース状況に大きく左右される。その意味で、参加者の安全確保が困難と判断された今回の中止は妥当であったと言える。
しかしながら、一年間このレースに照準を合わせて準備してきただけに、心の整理は容易ではなかった。完走を最大の目標としてきた自分にとって、大会中止は突如として目標を喪失することを意味した。
「ONTAKEロス」とも言うべき、ブルーな感情が押し寄せた。苦しい100マイルを走らずに済んだという安堵と、目標を失った虚無感とが交錯する、複雑な心境にあった。
心と身体をリセットする東北の旅へ
空白となった3連休の予定、そして心にぽっかりと空いた穴を埋めるために、私はトレイルランニングから距離を置くことにした。しばし競技を忘れ、ただ自然に触れる旅がしたかった。天気予報を頼りに行き先を決め、向かったのは東北。郷愁と涼を求める旅が始まった。
1日目:裏磐梯の湖沼群とスモールマウスバス
旅の初日は福島県の裏磐梯高原を訪れた。1888年に磐梯山が起こした水蒸気爆発により山体が崩壊し、大量の土砂が川をせき止めた。その結果、生まれた大小300以上の湖沼群は、130年を経た今も美しく多彩な表情を見せている。
その中のひとつ、桧原湖ではバスフィッシングを楽しんだ。ここはスモールマウスバスの名所として知られ、比較的容易に数釣りが可能な「釣り人の楽園」と言われている。釣果を競うのではなく、ただ湖上で風に吹かれながら釣糸を垂れる時間が、心を静かにほぐしてくれた。
2日目:蔵王連峰で出会った冷気と展望
翌日はさらに北上し、宮城・山形の県境に位置する蔵王連峰へ向かった。中央蔵王の最高峰である熊野岳(1841m)と苅田岳(1758m)を目指した。蔵王エコーラインから蔵王ハイライン、そしてレストハウスまで道路が整備されており、頂上付近まで楽にアクセス可能である。日本百名山の中でも、特に登頂が容易な部類に入る。
苅田岳直下のレストハウスの温度計は18度を指していた。ランパンにTシャツという軽装では肌寒く感じるほどで、真夏とは思えない快適さであった。
熊野岳の山頂からは月山、朝日連峰、飯豊連峰、吾妻連峰と、東北を代表する名峰群が見渡せた。その眺望は圧倒的であり、まさに「百名山たる所以」を実感する景観であった。
東北の山への郷愁
私はこれまで毎年のように東北の山々を訪れている。過去には以下のような山行を行ってきた。
-
2012年:安達太良山
-
2013年:会津駒ヶ岳、吾妻連峰
-
2014年:磐梯山
-
2015年:岩手山、八幡平、早池峰山
-
2016年:鳥海山
-
2017年:八甲田山、十和田湖、奥入瀬渓谷
これらの地を訪れるたび、私は自然だけでなく、そこに暮らす人々や街並みにも懐かしさを感じていた。その理由は、おそらく私が栃木県那須塩原という、福島県と地続きの地で生まれ育ったことに起因している。東北の風景、言葉、文化、気質には、私の原風景に通じるものがある。
癒やされ、そして再び歩き出す
今回の東北の旅は、「走る」ことを目的としない、ある種の再生の旅であった。ONTAKE100マイル中止によって受けた喪失感を、その自然と静けさ、そして郷愁が少しずつ癒してくれたように思う。
完全に気持ちの整理がついたわけではない。しかし、この旅を経て、新たな目標へと向かって歩み出そうという意欲が、心のどこかに芽生え始めていた。