バス停の横から登山道へ入り、まもなく天城山隧道に到着。全長445.5mの石造りトンネルで、現存するものでは国内最長を誇る国の重要文化財だ。
さらに登って、標高838mの天城峠へ。左は伊豆半島最高峰・万三郎岳(1405m)へ向かう天城縦走路、右が今回の目的地である伊豆山稜線歩道。
僕たちの世代にとって「天城峠」と言えば、やっぱり石川さゆりの『天城越え』だ。1986年リリース、僕が大学生だった頃の名曲。あのメロディーが何度も頭をよぎる。
天城峠、古峠、二本杉峠、滑沢峠と、4つの峠を巻くように越えていく。アップダウンが少なく、走りやすい歩道が続く。気温も湿度も快適で、心地よい風が吹く。思わず「気持ちいい!最高だ!」と声が出た。
絶好調…かと思った矢先、調子に乗って走っていた僕は、突然つまずいて転倒。手のひらを擦りむいて、また血を見た。最近、トレイルランニング中に転ぶことが増えた気がする。
三蓋山、つげ峠、猫越峠、そして伊豆山稜線歩道の最高峰・猫越岳(1034.7m)を経て、トレイルは続く。稜線上は風が強く、植生にもその影響が見られる。枝が曲がりくねり、独特の姿をしている。あちこちに咲く白い鈴のような花は、後で調べて「アセビ(馬酔木)」という名前を知った。
後藤山を越えて、仁科峠へ。そこは一面に広がる笹の原。視界が開け、港町と駿河湾が眼下に見えた。遠くには、うっすらと白い頭を覗かせる富士山も見えた。峠の周辺は牧場になっており、風に乗って家畜の匂いが漂ってくる。小さく見える牛の群れも、どこか旅情を誘う。
ここからは、富士山に向かって続く稜線の景色が見どころだ。
風早峠、宇久須峠、魂の山、土肥峠、南無妙峠、古奈峠と、峠が次々に現れる。県道や西伊豆スカイラインが稜線に沿って走っており、車やバイクの音が聞こえてくる。静けさは失われるが、それでもなお、この稜線からの景色は圧巻だ。
途中から右足のくるぶしに痛みを感じ始めた。もしかすると、さっき転んだせいかもしれない。完走できないかもしれないという不安がよぎる。とりあえず黙って誤魔化しつつ、戸田峠までは行こうと決めた。足の痛みはパートナーには黙っていた。どうなることか、先の見えない不安を抱えながら進む。
棚場山、船原峠、伽藍山、古稀山、達磨山、小達磨山と、最後はなぜか山が4つ続く。普通なら山と峠が交互に来るはずなのに…。長い階段を下って戸田峠に到着。
ここまでに、9つの山頂を踏み、14の峠を越えた。
戸田峠で、ようやくパートナーに足が痛かったことを打ち明けた。不思議なことに、その時には痛みが消えていた。あの痛みは一体何だったのだろう?
30.5km地点にあるだるま山高原レストハウスの自販機で水分を補給。持っていた2.5Lの水のうち、約1Lを消費していた。残り1.5Lはただの重しだった。ソフトフラスクに補充した後、1Lを廃棄。ここから先は修善寺駅まで下るだけ。ヘッドライトの出番もなさそうだ。軽快に下っていく。
修善寺自然公園のもみじ林で、伊豆山稜線歩道は終了。途中、枝垂れ桜がとても綺麗だった。
ゴールの修善寺駅まではロード区間。午後6時過ぎに無事到着し、今回の旅が幕を下ろした。
首都圏の緊急事態宣言は解除されたものの、コロナ禍はまだ終息していない。そんな中でトレイルランニングに出かけたことを、ブログに書くべきか悩んだ。けれど、こうして再び自然の中で走れるようになった喜びを忘れたくなかった。
また以前のように、安心してトレイルランニングを楽しめる日々が戻ることを願っている。
最後に、伊豆山稜線歩道を訪れる際の注意点を3つだけ挙げておく。
- エスケープルートが少ない。
- アクセスはバス頼りで、本数が少ない。
- 天城峠からだるま山高原レストハウスまで、水場とトイレが一切ない。
事前の準備と下調べは、どうか入念に。