2024年8月上旬、飯豊連峰を縦走した最終日に熊と遭遇するという予想外の出来事があった。
自然の中に身を置くということは、常にこうしたリスクと隣り合わせであることを改めて痛感させられた。
権内尾根で感じた異変
朝7時頃、飯豊連峰の北端に位置する朳差岳を登頂し、朝霧に包まれた権内尾根を下り始めていた。
静かな尾根道を一人歩いていると、突如として獣臭が漂ってきた。
「まずい、熊が近くにいるかもしれない」
全身が緊張に包まれる。立ち止まり、慎重に周囲を見回したが、姿は見えない。
バックパックに取り付けていた熊鈴を外し、手に持って鳴らしてみた。
チリ〜ン、チリ〜ン、チリ〜ン…
小さな音が霧の中に吸い込まれていく。頼りないその響きが、むしろ不安をかき立てた。
黒い影、現る
その直後だった。
ガサガサッ! ガサガサッ!
20メートルほど前方、木の上から大きな物音がした。
視線を向けると、黒い塊が木から降りてくるのが見えた。
熊だっ!
自分とほぼ同じ大きさ。距離も近い。
頭は冷静でいようとするが、足がすくんで動かない。逃げたい。しかし動けない。
熊鈴を力いっぱい振り鳴らす。
チリン! チリン! チリン!
「こんな音じゃ足りない」と直感し、次に手を叩いて大きな音を出した。
パン! パン! パン! パン!
熊は谷へ去っていった
すると、熊は木から降りてそのまま谷側へと姿を消した。
こちらを威嚇する様子もなければ、関心を示す様子もなかった。
わずか30秒ほどの出来事であったが、永遠にも感じられた。
バクバク
と鳴る心臓。震える足。
動けなかったのは恐怖だけでなく、安堵もあったからだ。
熊に遭遇したときの対処法
後から冷静に考えれば、熊と出くわした際には以下の行動が推奨されている。
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騒がず、あわてず、静かにその場を離れること
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熊を刺激しないこと
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決して走って逃げないこと(熊は追ってくる習性がある)
幸い今回は熊が自ら立ち去ってくれたため、事なきを得たが、距離がほんの数メートル違えば結果はどうなっていたかわからない。
そして、アブの猛攻
その後、気を取り直して林道を歩いていたところ、今度はアブの大群に襲われた。
川沿いの道でまとわりつかれ、複数箇所を刺されるという散々な目に遭った。
熊に遭遇し、アブに刺される。
これほど過酷な最終日はなかなかないだろう。
飯豊連峰を訪れる登山者への助言
飯豊連峰は雄大で美しい山域であるが、同時に野生動物との遭遇リスクがある山域でもある。
特に朳差岳〜権内尾根周辺は人が少なく、熊の出没も報告されている。
装備として熊鈴や熊スプレーを携行することはもちろん、周囲の音や匂いに敏感になる必要がある。
また、川沿いではアブ対策も必須である。肌の露出を避け、虫除けを活用するとよい。
自然は美しく、しかし容赦ない。
今回の経験が、これから飯豊連峰を訪れる登山者にとって少しでも参考になれば幸いである。