⑧Champex-Lac – Trient(122.4km – 138.9km)
Champex-Lacのエイドでは、なっちゃんに本当にお世話になった。
おにぎりを頂き、レッドブルやバナナをもらう。さらにゼリーを頂いた。
まさに至れり尽くせり。
「いやー、エイドから出たくないっす。あと山3つ。。いきたくないなー」
とかブツブツ文句言いながら、ウダウダと過ごす。
右足の違和感もこのころは大きくなっていて、前脛骨筋付近にテーピングを施す。
そうこうしているうちに、大石さんやキヨピーさんが到着。
キヨピーさんがペンネが旨いと言うので、食べてみると、なるほど旨い。
結局、Champex-Lacには4~50分も滞在。予定では10分しかいないつもりだったのに、ついつい出たくなくなって長居してしまった。大石さんが出ると言うので、
「ほら、いかないと」
となっちゃんから押し出されるようにエイドを後にする。
Champex-Lacでなっちゃんには本当にお世話になった。この後、のりさんや塾長など他のすぽるちばメンバーも同様にお世話になった様子。
まさにChampexの女神だった。
Champex-Lacを出るとしばらくは林道の下り。
足の違和感はいよいよ激しくなり、少し歩きが入ってきた。
ふと前を見ると、大石さんがこれまた足を痛そうにして歩いている。
「足大丈夫ですか?」と声をかけると
古傷のふくらはぎ付近が痛いと言う。
それでは、足痛い者同士、ピークまでご一緒しましょう。ということで、Bovineのピークまでご一緒することに。
Bovineはなかなかの急登だったが、単調な登りなので、僕はだんだん眠くなってきた。
途中、大石さんから
「そういえば、ナミネム君てなんでナミネムなの?」
とか、え!?ここで?
みたいな質問を受けたが、あまりの眠さに
「えっ、、え、エミネムが当時はやってたから、、」
とかなんのひねりもない、結構はずかしい返答に終始するww
この人眠くないんだ。。と思って質問したら、なんとさっきから幻覚が見えていると言う。
カメラマンがそこら辺にたくさんいると言っている。
そうこうしているうちに、カウベルが聞こえた。あれ、エイドあったかな?と思っていたら
牛がたくさん放牧されていて、なんとトレイルにまで侵入している。
たまに、「モーゥッ!」と明らかに不機嫌そうな声を出すやつがいて、正直怖かった。
やっとピークについて、下り始めると、ミチッという音とともに、ついに右足の前脛骨筋が悲鳴を上げた。
「ああ、、やっちゃった」
もう歩くしかできない。というか歩くことすらはばかられる痛さ。。。
3月にIZU Trail Journeyで怪我した前方型シンスプリントがおもいっきり再発したのだ。
大石さんも痛いみたいで、僕よりももっと動きがスローになってる。
そうこうしているうちに、Champex-Lacで10分寝るといっていた境さんが覚醒体になって追いついてきた。寝たらずいぶん良くなったと言う。先に行く境さんの背中を悲しそうに見つめる我々。
気分はもう泣きそうだった。もう32時間切りの目標は諦めるしかないなと思った。
というか、こんな足では完走すらおぼつかないかもしれない。
本当に悲しくて、現実を受け入れたくなかった。なかなか感情のコントロールができず、
大の大人がトレイルの真ん中で半べそかいていると、下から「IZU Trail Journey」と書かれたTシャツを着て登ってくる人がいる。
やれやれ、もう頭もおかしくなってきたかと思ったら、長島さんだった。
一瞬、え?とおもって、ここは奥多摩か?と思った。モンブランはやっぱり夢だったんだと。
「なんでいるんですか?」
「え、ちょっと出張で、シャモニーまで」
なんか良く分からないけど、シャモニーから逆走して来たらしい。
「そんな顔しないで、もう少しだから。大丈夫、大丈夫だから。」
よっぽど僕が悲しい顔していたみたいで、ビックリした表情をされていた。
「あと、下って、登って、また下って、、、」とコースの説明をしてくれて、Bovineの方に登って行った。なんだか知り合いにあって少し元気がでて、痛いながらもなんとか頑張って下る。そして、Trientに到着。この時点で、目標から1時間16分遅れていた。
⑨Trient – Vallorcine(138.9km – 149.2km)
Trientには大石さんよりも早く到着。少し寝ようと10分ほどテーブルの上に顔を伏せていたが、寝れない。
おそらくカフェインが効き過ぎているのだろう。
大石さんが到着し、すぐ行くと言う。後で行きますと先に行っていただく。
結局、10分後寝るのを諦めて出発した。無駄な20分だったと悔やんだ。
でもこれで逆に吹っ切れた。
記録なんてもうどうでもいいから、絶対に完走する。
足がこの先1年くらい使い物にならなくなっても、這ってでも絶対に完走してやる。
なんだか、やる気がまた湧いてきた。
暗くなってきたのでライトを装着して、トレイルに出てみると意外と眠くなく、割とガシガシ登れる。
足も登りではまだ痛くないようだ。
しばらくすると、トレイルの傍らで人が寝ている。大石さんだった。
夜になってから、猛烈な眠気に襲われたと言う。足もさらに痛そう。
しばらく一緒に行ったが、振り返るとそこには大石さんの姿はなかった。
Catogneのピークにやっと登りきったとき、急に大石さんが心配になってきた。あのまま行き倒れているんじゃなかろうか?
とか不吉なことが頭をよぎった。しばらく待っていたが、現れない。
待っているとすさまじく寒くなってきたので、Catogneのピークを後にする。
下りはやはり激痛。顔をしかめながら下る。
途中、異常に下りが遅いフランス人がいたのでその人のペースでゆっくり下る。そのうち大石さんが追いてくるんじゃないか?と考えてそうしてみたが、結局一人でVallorcineに到着。
目標から2時間18分の遅れ。
記録を意識した僕のUTMBは、この時静かに終戦の鐘が鳴った。
> part6 へ続く