一週間のうち最大一時間を使って、気になったことを気の向くままに書く「トレイルランニング一時間一本勝負」。
先週、UTMBシリーズが新しいアンチ・ドーピング・ポリシーを発表しました。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の下部組織である国際検査機関(ITA)を通じて体系的かつランダムにテストを実施すること、そしてアンチ・ドーピングの推進のために最低でも100,000ユーロの投資を行うとのことです。
UTMB Group strengthens its commitment to clean trail running (⬇️ THREAD)
We believe in the need for a robust anti-doping policy to support the growth of the sport and guarantee the integrity and transparency of the competition.
👉 https://t.co/ZOkMmSdVLF#UTMBWorldSeries pic.twitter.com/RxVBl5GGl6
— UTMB® World Series (@UTMBWorldSeries) May 21, 2024
実は、かつてUTMBのランナーを対象に、密かにドーピングの実態を調査したことがあります。
2017年のUTMBでランナーに黙ってドラッグテストをやってたという話がなかなか面白い。
対象となった412人のランナーの内、16%から禁止薬物が検出されたんだって。https://t.co/hrcx6xcCyw
— 藤岡正純 / Masazumi Fujioka (@masazooomi) April 20, 2024
以下は本記事の内容を私が要約したものです。私がコーチングさせていただいている方々に以前に共有したものです。
この記事によると、2017年のUTMBのレース(UTMB、CCC、OCC、TDS)に参加した412人のランナーに対して、尿のサンプルを採取し、薬物の使用状況を調査しました。
またレースの10日後に匿名かつランダムなアンケートを実施しました。尿の採取には細工されたトイレを使い、ランナーに気づかれない形で採取されたとのこと。(アンケートはランダムに行われたため、尿のサンプルを採取したランナーと、アンケートを受けたランナーは必ずしも同数とは限りません。)
サンプルは世界ドーピング防止機構(WADA)認定の研究所を含む複数の研究所で分析されました。
またアンケートではアセトアミノフェン、NSAID、カンナビノイド(大麻成分)、興奮剤、鎮痛剤、抗喘息剤、アナボリックステロイド、成長ホルモンなどの使用について質問が行われました。
分析の結果、ランナーの50%が何らかの薬物を使用しており、また16%がドーピングに違反する薬物を使用していたことがわかりました。
実際に検出された薬物とその割合は以下の通り。EPOや筋肉増強剤の使用は一件も認められなかったとのこと。
興味深いのは、アンケートの回答とは実際の薬物の使用の相違で、アンケートでは違反薬物を使用したと回答した人はいませんでしたが、実際には先にも述べた通り16%が違反薬物を使用していました。またNSAIDの使用についてはアンケートでは12%が使用したと回答したのに対し、実際に検出されたのは22%に上りました。
ランナーが悪意をもって薬物を使用したのかどうかはアンケートからはわかりませんが、検出された薬物のほとんどが日常的に使われる薬にも含まれるものだったことから、意識せずにドーピング違反となる薬物を使用していたケースは割合としては少なくないだろうと予想できます。
故意ではない形でドーピング違反となる薬物を摂取していることも多いと思われます。例えば風邪の時などに飲む葛根湯。葛根湯に入っている生薬の麻黄に含まれるエフェドリンは競技会での使用が禁止されています。
UTMBでドーピング検査の対象になるのは主にトップ選手だと考えられますが、トレイルランナーへのドーピングについての啓蒙がまだ十分ではないため、今後禁止薬物の使用が見つかるケースが増える可能性は十分にあります。
ドーピングに関して言えば、ウェスタンステイツも以前に別途、アンチ・ドーピング・ポリシーを発表しています。ウェスタン・ステイツはアメリカのアンチ・ドーピング機構(USADA)と提携してテストを行うとのことです。
ちなみに最近、中国の競泳選手から禁止薬物が検出されたものの、東京五輪への出場をWADAが認めたこと、およびその事実を公表しなかったことについて、USADAが批判をしています。WADAとUSADAの間でも必ずしも利害が一致しせず、一枚岩ではないようです。