白山の空はくもりのち雨、左足首だけが腫れていた。スタート前から炎症が起きていて、走り始めから痛みが出てきた。普段は大会3日目ともなると荷物が軽くなり、身体の調子も上がってくるのだが、これではペースを上げることもままならない。
とはいえ、まだ大会は半ばも迎えていない。この日が終わってようやく走行距離が100kmに達する。足首に負担をかけないようにしつつ、上位で粘ることにした。とりあえず不調を悟られないようにポーカーフェイスを気取る。うまくできている気はしないが。気分が大事なはず。
20代の選手2人と抜きつ抜かれつ。初日、2日目は序盤でスルスルと先頭に立ち、そのまま単独行になっていたので新鮮だった。
競っていたランナーのひとりは福西佑紀さん。国内外で活躍するオリエンテーリングの強豪Team阿闍梨のメンバーだ。深山の沢水よりもクールで、淡々と走っていく印象だった。彼も脚を痛めているらしく、徐々に遅れがちになる。
もうひとりは国内のアドベンチャーレースで活躍する鹿野颯太さん。前年の白山ジオにも出場して入賞している。今年は1週間ではなく、3日間の部門でエントリー。荷物が軽そうだ。レースのかたわら、医師として勤務しており、その職能を生かして初日に熱中症で倒れた選手の治療に当たっていた。
中盤からずっと鹿野さんと並走していく。20代ながらも落ち着いた雰囲気の鹿野さん。道中でヘビを発見しても動じない。となりで声を出して驚く30代との対比よ。それどころか、鮮やかな模様が気になったようで、トレッキングポールを器用に使ってヘビを捕まえだした。観察したのちに記念撮影まで。意外とお茶目である。並走できたおかげで和やかに進んでいけた。
こうして打ち解け合えることも、ステージレースのよさである。走って、その日のうちにサヨナラではなく、次の日も顔を合わせる。数日にわたって寝食をともにして、同じ空間で過ごすということで生まれる関係性がある。
だからといって、大した話をしてきたわけでもない。なのに親近感を覚えるから不思議だ。
走りながら3週間後のアドベンチャーレースに誘われ、うっかり出場を検討してしまう。不思議である。マウンテンバイクに乗ったことも、カヤックのパドルを漕いだこともないのに。誘う方も、誘われる方も本当に不思議だ。
うっかりを狙い、僕も住んでいる町で開催する大会「修験道トレイル in 上毛町」を勧めてみる。ついでにここでも→ http://universal-field.com/event/kouge-trail/
鹿野さんは3日部門の優勝がかかっていたので、終盤は僕がペーサーとなり、ちょっとペースを上げてスパートをかける。
「ひとりじゃ途中でダレてました」と鹿野さんがポツリ。まったくだ。ひとのためだと割に足の痛みもなく走れるのも不思議だ。調子がよくないときほど、一緒に走り、ペースをつくれるというのはありがたかった。
あまり山場もないまま、ふたりでフィニッシュ。鹿野さんは、思慮深さの塊を削り出して成形したかのように遠慮がちなので、譲ってもなかなか先にゴールしてくれなかった。優勝というハレの舞台なのだからと、半ば強引にトップを譲り、鹿野さんに先にタイム計測を終えてもらう。表情は晴れやか、優勝を祝う。僕はゴールできただけで十分、ハレも足首だけで十分だ。