トレイルランナーの間ではFacebookやTwitterで話題になっていたので知っている方も多いと思うけど、今日開催されたハセツネ30kで、トップでフィニッシュした男女のランナーが必携装備不携帯で失格になったそうだ。
ぼくの初めてのトレイルランニングは、ハセツネ30kと併催されていた2010年のハセツネ17kだった。その後に秋の本戦も出て、両方とも今でも貴重な経験だったと思っている。
でも、今は30kも本戦も出る気はない。ハセツネ30kの「上位1000名が秋の本戦に優先エントリー」という規定がトレイルランニングの競技化に拍車がかかり、山のモラル&マナーよりも順位が優先されるようになってしまうように思えたからだ。
実際に出場したラン友に聞くと、渋滞でトレイルではないところを進むランナーも少なからずいるという(そもそも2000人以上が出るため発生する渋滞も萎えるし、最後に出た時のハセツネのゴミは本当にひどかった)。
※きちんとモラル&マナーを守って楽しまれているランナーの方も多く、それを否定しているわけではありません。ぼく個人として考えるトレイルランニングのスタンスとは異なるので自分は出ないという話。
そもそもルールはトレイルを守ることや、なによりも参加者本人を守るため、つまり山のモラル&マナーに準じていると考えられる。今回の必携装備不携帯は当事者の意図はわからないけれど、より上位でフィニッシュするためにルール=山のモラル&マナーを軽んじた選手がいたことが明らかになった。
装備品に関しては、山だったら「オウンリスク」という考え方もある。でも、多くの人が参加するレースであればルールを守るのは当然のことで、オウンリスクはレース以外、個人で山を楽しむ際に使うべき言葉だと思う。ルールはルール。それを守れなければレースに出る資格すらない。
また、オウンリスクには「山では何が必要なのか」を自分で理解している必要がある。しかし、多くのランナーにとって、それが完全に理解できているとは言い難いのではないだろうか。特に近年はロードからトレイルを始めるランナーも多いし、ぼくもまだ装備には毎回悩み、それが楽しさのひとつであったり、成長につながる部分だと思っている。つまり、比較的安全な状況で山を楽しむことが出来るレースは、「山では何が必要なのか」を学んだり身につける経験の場所でもある。
以前、専門ショップやブランド関係者で「山のモラル&マナーを広げるにはどうしたらよいのか」という会合があった。そこで「専門ショップに足を運ぶランナーや、自分たちのコミュニティの周りのランナーはみんな山のモラル&マナーを知っている。そうではない方々にどう伝えるか」という意見になった。
もちろん、ショップやコミュニティに近しくなくても、ネットや本でいくらでも情報は手に入るし、言われなくても実践しているトレイルランナーは多いと思う反面、いつまで経っても山でのモラル&マナー問題はなくならない。これはおそらく永遠の課題なのだ。
だからこそ、トレイルランニング関係者、特に注目レースをトップでフィニッシュ出来るような選手には、その実力と発信力を活かして山のモラル&マナーを伝えて欲しいと思っている。自分の成績のみ優先してカテゴリー全体に意識が届いていない現状が今回のような失格につながり、まだまだカテゴリーとしては成熟していないのだなと感じた(発想がアマチュアというか)。
また、周りの関係者は注意やアドバイスをしなかったのだろうかという疑念もある。今回の件は、今のトレイルランニング業界が競技としての魅力しか伝えられていないことが問題の本質で、起こるべくして起こったのではないだろうか。おそらく必携装備不携帯は二人だけではなかっただろう。
話はずれるけど、もし必携装備以上に山で安全と思われる装備を持ってトップでフィニッシュしたら、多くのランナーから賞賛されるだろう。サポートするブランドとしても、そんなランナーが理想だと思う。蚊取り線香氏は山に入る際は必ずロープを持っているし、40ポンドを持ってのフルマラソンギネス記録を持つ望月省吾選手なんて本当に格好いい。競技の本質を理解した上での挑戦こそ、多くのランナーに賛同される。
トレイルランニングは競技として、山のアクティビティとして多面的な楽しさを持つ。でも、それは山のモラル&マナーを守るという前提があってこそ。大会関係者、トップランナー、ショップ、ブランド、コミュニティ、みんながそれぞれ発信することで、多くのトレイルランナーに伝わるようにしていかなければ、この永遠の課題は解決されそうにない。
再度掲載。四国のNPO SSERさんが作られた山のルール%マナー。
10RULE&MANNERS
昨年、長谷川恒夫さんの関連書籍を読んだ。日本を代表する天才クライマーであり、数々の挑戦を続けてきた山の偉人。その名前を冠するレースが、このような結果で残念に思う方も多いだろう。