「長く助走をとった方がより遠くに飛べる」 と言ったのはカールルイスだったでしょうか。
ただいま ジュネーブ空港 午後7時30分
UTMBの制限時間が迫り大盛り上がりのシャモニーからそそくさと退散して参りました。
TDS(119km 累積標高7250m)への2回目のチャレンジは84kmで終戦でした。
24日土曜日にジュネーブ入り。友人宅でおもてなし頂き、万全の状態で26日月曜日にシャモニー入りしました。
TDSに参戦する他の仲間とも無事合流し、何もかも順調でした。
火曜日は荷物チェックのあとクールマイユールに移動。去年と同じ宿に入り歓迎されました。
明るい時間に到着したので初めてクールマイユールの街を散策しましたが小さな綺麗な街。この街がスタート地点となっているトルデジアンのBUFFを購入してレース投入を決め、21:00就寝。完璧。
スタート当日は5時に目覚める。完璧。
宿の冷蔵庫に保管してもらっていた鰻とトマトカレーと納豆キムチで朝食。体は軽い。完璧。
7時スタートまでホテルで寝っころがる。スタート地点まで1分かからないので6:50まで滞在。最後にジェル1つ、福砂やのカステラ、トップスピードを口にして出陣。
スタート地点にはUTMBの桑原プロ、ランブラーさん、エディさんが来てくれていた。他のメンバーとも合流してあと3分。
落ち着いてスタートのカウントダウン。やや後方からのスタートだが順調。ホテルの人と前日に買い物して話しをしたおばちゃんが応援に出て来てくれて感激する。
ちょっと混雑したロードパートではアカシ&女王と近く常に視界に入っていた。おそらく同じぐらいの走力のさつきさんが見当たらないな。
スタート直後に水を入れていたフラスコの口が壊れて水が全滅する。が1つ目のエイドまで1時間なので無事。修理も完了。
2つ目のエイドまでは予定通り24時間ペース。後方スタートのロスをあっさり相殺出来、設定タイムが問題ないことを確認。サツキさんにも会えた。この上りを楽にこなせて自信がつく。
◉15km〜36km
700m上り400m下り
16kmで400m下るという激走りパート。キロ5分切って走る。先行していたアカシに追いつく。アカシが足首を90度ぐらい連続で捻るのを目撃する。
24時間ペースに30分の貯金を作る。絶対にいける。
この辺りからフラスコのジェルが吸い出しにくく補給が足りない感じ。エイドでの食事が増えてしまう。エイドでアカシに抜かれて、その後に追いつくという展開が最後まで続く。
◉36km〜51km
1300m下りのみ
走りやすいシングルトラックで飛ばす。ペースは問題ないが暑さが気になる。次のパートは直射日光を浴び続ける上りだ。
◉51km〜66km
1980m上り600m下り
ドラクエでいうバラモス。去年はここで1/3がリタイア。
異常に暑くなって来たので食事たっぷり、水たっぷり。アカシ&さつきさんも追いついてきた。アカシはここでもサクッと出発。
3時間ひたすら上る。暑さで若干ペースが落ちるが上へ逃げるつもりでノンストップ。途中でふらついてるアカシを抜く。ちょっと心配になる狼狽ぶりだが頑張れ!1000m上れば隠れ水エイドだ!
想定時間でピーク2567mに到着。ここからの下りは行った人にしかわからない恐怖。ロープがあるけど機能していない。ここを明るいうちに通過というのが好タイムには必須。
それでもビビって想定より遅れた。上の人のストックが頭に刺さってめちゃくちゃ痛い。この位置関係からも下りの急勾配ぶりがわかる。
ザックがレンタルのためストックを収納出来る改造が出来なかったのが悔やまれるが66kmのエイドには24時間ペースを維持して到着。スタートから装着していたライト使わなかった。これならミニライト2つでスタートすれば良かった。
エイドで悪い癖が出てゆっくりしてしまう。アカシとサツキさんも追いついてきた。会えると本当に嬉しい。
全着替え&お粥でスタート。24時間ペースに若干の借金が出来るが元気いっぱい。確実に挽回出来る。
◉66km〜85km
400m上り700m下り700m上り400m下り
去年時間切れとなった区間。そしてヤギと一緒に走った区間。山羊はいなかった。何だか今回はあっさりゴールして特に盛り上がるネタもないなと感じる。もう私はシリアスランナーなんだ。
かなり走りにくい。私より周りが辛そうで抜けずに少しイライラ。
そして暑い!20時過ぎてるのに。ドロップバッグに入れておいた夜用のミッドレイヤーとアウターを着て出発したので汗だく。途中で脱いでTシャツになるが、ザックに入りきらない。体に巻きつけて走る。
とにかく走りづらい。どこが道だかわからない。そしてプチ渋滞。去年のリタイアポイントであるこのパートの中間地点La Gitteで少し遅れて焦る。
ここでも隠し水エイドがあり補給して次の700mの上りを一気にこなす。この辺りで渋滞も少なくなりペースアップ。エイドまで若干の上り返しがあるが8kmで400m下るだけ。去年辿り着けなかった86km Col du Jolyまであと少し。
それにしてもトレランのコースとは思えない下りパートが多いのがTDS。景色を楽しむ余裕なんてなく次の足の置き場所を探すことに集中するのみ。
左下から大きな声が聞こえてきた。
時計を見ると84km。もう少しだ。顔を声が聞こえる方向に向けた。エイドが見えた!
と思った瞬間に体が浮いた。「ヤバイ!」ポールを前に突き出すも空振り。体が叩きつけられた。で、転がり始めて止まらない。意識ははっきりしているのだけれどとにかく体が転がって止まらない。
凄まじく長い時間に感じて体が止まった。
生きている。頭も打ってないから意識明瞭。だけど体が動かない。うつ伏せのまま。右半身に鈍く痺れるような痛みがあり動かない。胸を打ったのか苦しい。
何とか体を起こすが立ち上がれない。右半身の痛みが酷い。肩を触ると外れて前に出ている。肘も向きが変わっている。
とにかく痛くてうずくまっていた。九十九折をショートカットするように落ちたようでランナーが来た。
「Are you OK?」と聞かれるが「ok」としか言えない。
しばらくして「SHINさん?」という声が聞こえた。アカシだ。
私はコースの真ん中にいたようで端に動かしてくれた。安否を気遣ってくれたが会話はよく覚えていない。アカシは目標タイム通りのいいペースだったので彼を止めてはいけないと思ったのは覚えている。自分はエイドが見えるような位置にいるはずなので先に行ってもらった。
ロキソニンでこの痛みは消えるのでは?
ポールを添え木にするか
歩いても完走出来る位置なので水と食糧をどれ位増やすか
こんなことを考えた
上方に落ちていたストックを拾って歩き始めたが1歩30cmぐらい。悔しくてイライラして日本語で「何でだよ!!!」と怒鳴ったら後ろのランナーに「落ち着け。もうすぐエイドだ」となだめられた。
体感で100~200m進んだらなだらかで平らな林道に出た。すると前方から猛スピードで走ってくる数名の人影が見えた。すぐにアカシがエイドで通報してくれたのだと分かった。
トランシーバーで位置を説明して車を呼んでいる。車にのせられたら終わり。
「ちょっと待って」
「座れ」
「骨は折れてない。脱臼だ。」
「いいから座れ!」
「脱臼だよ…治せるよ…」
36才男性が大泣きしながら訴える。
「無理だ」
「去年もリタイアしてんだよ!」
怪我した瞬間よりもリタイアが目の前に迫ったからかパニック気味。と同時にもうすぐ追いついて来るであろうさつきさんにこんな姿見られたらカッコ悪いなと思う余裕も。
結局首を左右に動かせと言われて動かせず、TKO負けのようにレスキュー隊員に抱きしめられて試合終了。到着した車にのせられてエイドに運ばれる。1年間辿り着くことを目指していたCol du Jolyのエイドは人もまだらだった。救護スペースで腕を包帯で吊り、痛み止めの点滴を打ってもらっているとさつきさん到着。リタイアを報告する。
救急車との待ち合わせポイントまで三菱の車で運ばれる。四駆の救急車に乗り換えて麓に着くと普通の救急車が待っていた。担架の上のベッドは箱型で空気を入れると中が膨らんで私の体を固定する仕組みでびっくり。
6万円ぐらいのアークテリクスのシェル破れた…
治療費どれくらい?
事務局は俺に保険かけてるの?
こんなくだらないことがずっと気になっていた
病院に着くと救急隊員が「TDSの参加者だ」と申し送りしている。TDSなんて単語が普通に通じていることにびっくり。
「今から麻酔で眠るからね。リラックス。」
麻酔吸引機を口にあてられて凄く気持ち良くなって気を失った。
暗い処置室で目覚めたのは午前5時過ぎ。体は動かないままじーっと天井と赤く光るデジタル時計を見ていた。アカシとさつきさんはコンタミン越えてるなと思った。
6時過ぎに掃除のお姉さんが来たのでザックから携帯を出してもらった。左手で操作するとみんなが心配してくれていたので現状報告。
エディさんには本当に助けられた。荷物の移動など困っていたことを先回りして対応してくれた。東京のそーけんも、エルブさんや鶴橋さんなどフランス語の分かるランナー仲間に呼びかけて情報を集めてくれていたようで感謝。
看護師さんに聞く前に、仲間の情報で自分はSt-Gervais近くのSallancheというシャモニーから近い街の病院にいることが分かった。いろんな検査をして歩けたので帰れることになり夏ちゃんがシャモニーから車で迎えに来てくれた。結局、肩と肘は脱臼。3箇所ヒビだった。首はムチ打ち気味。
シャモニーにはUTMB組が到着していた。みんな心配してくれていたようでレース前に変なミソつけたなとしょんぼり。また、まさかのリタイアしていたPTL組と合流してしょんぼりしあった。
翌日のDogsorCaravanの取材も体調不良で満足のいくパフォーマンスを出せず、再来週の信越五岳のペーサーも無理ということで関係各所にご迷惑。
大きくまとめると
「足元を見ずに先に気を取られた心の弱さ」
が敗因でしょうか。
今は、足の怪我じゃなくて良かったと前向き。走れた内容についても自信になった部分が大きい。TDSのフィニッシャーベスト獲得にこんなにも苦労するのもまぁネタとして面白いかなと。
では。いよいよ本気出します!
3 comments
命に別状がなくてなにより。
[…] つぎはCol du Joly.前回、このエイドを目にしながら滑落していったところだ。 […]
2014年のTDSでcol du jolyの2キロほど手前で左の坂を転げ落ちました。3m位転がり落ちて、幸い無傷でレースに復帰しました。同じような人がいるのだとうれしくなりました。(ごめんなさい)転がっている時は、ここで終わりかと思いましたよ。私はぎりぎりランナーで遅いので助かりました。