2021年12月12日、僕の今年最後のレース「IZU TRAIL Journey」を走ってきた。
西伊豆の松崎から中伊豆の修禅寺までをコースとするトレイルランニングレース。核となるのは伊豆山稜線歩道。距離69.1km、累積標高差3,243m、14時間の制限時間。3箇所のエイドと6箇所の関門がある。
僕にとっては2013年の第1回同大会の出場以来、8年振りとなったこのレース。距離に比べて累積標高差が高くなく走れるコース。前回の経験から得た教訓は前半をハイペースで入ってしまい中盤以降に潰れるパターンに注意すること。現在の走力から12時間台での完走が目標。
6時 START 松崎新港
まだ夜明け前、2分間隔の3ウェーブ方式で、白く光るスタートゲートを1,390名のランナーと共に通り抜けた。まずはひたすらにロードを登る。
C1 法蔵院 9.1km in 7時31分
大会HPのコースプロファイルには各関門時間と最後尾選手が通過する推定時間が記されている。どうやら最後尾の方にいるようだ。ペースを抑え過ぎたのか?予想していたよりも周りのランナーはハイペースだった。
ペースアップしなければならないが、腹が痛み出した。腹が冷えてしまったようだ。ウェストウォーマーに貼った使い捨てカイロを何処かで落としてしまった。先月のレースに続いての胃腸トラブル。21.4km地点の諸坪峠に設置された仮設トイレに駆け込んだ。下痢止めを服用。幸運にもすぐに効いて腹痛はなくなった。
A1 こがね橋 26.0km in 10時2分
関門には約1時間の余裕があった。レース後にリザルトを分析したら、男性950位まで順位を落としていた。エイドでは水分補充。コーラを一気飲み。バナナ、お菓子と固形物を口に運ぶ。お腹PPも収まっている。
C4 二本杉峠 29.1km
標高822mの二本杉峠から先は伊豆山稜線歩道を辿る。稜線に上がれば時折、絶景を望むことができる。
3月にコースの一部を試走した経験がある。行き先の状況がわかっている心理的アドバンテージは大きい。ここからが勝負所とペースアップ。
実は11月末で30年以上勤めた会社を辞めた。コロナ禍のなかで心身の不調をきたしてしまい仕事から離れた。
お前はやり切ったのか?諦めたのか?
走りながら自問していた。レースと前職での仕事を重ねていた。
今回は走り切る。絶対に諦めない。自分の持てる力を全て出し切る。それが今の自分にとって大切なことに思えた。
集中して走れている。調子は上向き。追い抜くランナーも多くなった。
A2 仁科峠 40.2km in 13時3分
制限時間の貯金は1時間30分まで拡大。エイドでの休憩は最小限に留めた。
A3 土肥駐車場 51.2km in 15時31分
貯金は1時間30分のまま。最終エイドでボラをしていた知人に遭遇。疲労を感じていたが、応援の言葉に元気が湧いてくる。ゴールに向かうための活力の充電は完了。まもなく日が暮れる。ヘッドライトを装着してエイドを後にした。
ラスボスの達磨山の風速は10mと聞いていた。帽子が飛ばされるような強い風。轟々と風が鳴った。
最後尾群のランナーだけの特権は駿河湾に沈む夕日と赤く染まる富士山の姿が見れることだ。夕焼けをいつまでも眺めていたい衝動に駆られるが、今はレース中。後ろ髪を引かれる思いで、先を急いだ。
闇が迫る。ヘッドライトを点灯する。暗いトレイルが走り難く、ペースダウンしながらも追い上げは続ける。暗闇に見えるランナーを追い掛け、追い越し。追い掛け、追い越し。このレースが今年最後。最後まで走り切りたい。
身体に蓄えたエネルギー量が乏しくなり、手が痺れ出した。車で言えばガソリン切れの警告灯が点灯し始めた。
温泉街に入った。ゴールは間近。照明で明るくなったゴール地点が目に入った瞬間、熱いものが込み上げてきた。夢中になって追いかけていたのはランナーではなくて自分の姿だったと気付いたからだ。
FINISH 修禅寺総合会館 18時18分
記録12時間18分36秒、男性完走者1068名中754位
優勝者の上田瑠偉選手の倍以上、8年前の自己記録よりも遅いタイムだった。でもいいんだ。誰かと競うものではない。目標の12時間台での完走はクリア。現時点で持てる力を出し切れたと思えることの方が自分には大切なことだから。
コロナ禍で幾つものレースが中止となった。モチベーションが下り、行き場のないやり切れない気持ち。ようやく、やりたかったことができる喜びを感じた。11月のFTR100K、今回のITJ70Kの二つのレースでモヤモヤした気持ちは、トレイルランニングが心から好きだという純粋なものに昇華したように思えた。仕事は辞めたけど、このトレイルランニングは走れなくなるまで続けることだろう。
今年最後のレースが「IZU TRAIL Journey」で本当に良かった。コース、運営も、自然、天候、人も全てが最高。この様なウィズコロナの環境下で大会が開催されたこと自体が有り難いことだ。いくら感謝してもし切れない。