Ultra-trail Australiaには大きな特徴がある。
山レースではなく、谷レースなのだ。
高低図をみれば一目瞭然。スタート&フィニッシュ地点が一番標高が高く、その間の谷を進むことになる。特に後半は登り下りが多く、疲弊した身体と心が削られそうだ。
前回書いたように、ぼくにとっては3年半ぶりの100kトレイルレース挑戦となる。その間の最長距離は昨年参加したOCCの56k。普段から走りこむタイプでもないし、自分自身でよくわかっている。ぼくは100kの走力を備えていない。
だからといって完走をあきらめているわけではない。UTAは制限時間が長いので、鈍足ランナーでも完走のチャンスはある。とはいえ無策ではダメだ。これまでの経験から対策を練る。
●ひたすらセーブして進む
●身体が動かなくなるような状況を避ける努力をする
大きくはこのふたつ。特に後者は大切で、前に進む意識があっても身体が動かなければどうにもならない、ということを過去に何回か経験している。そのため、常にリスクを避けることを意識する必要がある。
ペース、体調、すべてをコントロールする。それ以外にぼくが完走する道はない。
天気に翻弄された昨年とは異なり、今年は晴天。UTAはウェーブスタートになっていて、第一ウェーブが6:20、ぼくは最後の第七ウェーブで7:54スタート。なんとその差1時間30分。
第一ウェーブで大瀬さんと飯野さん、第二ウェーブで千葉さん、第五高広さん、第六中野さん、そしていよいよ自分のスタートの時間。普段はレース前にあまり緊張しないけど、さすがにドキドキ。前日は笑っちゃうくらいナーバスだった。しかし、ここまできたらやるしかない。
ウェアに迷ったが、走り出せばすぐに身体が温まりそう。思い切って半袖短パンにした。
100kの旅、行ってきます!
スタートはほぼ最後尾からゆっくりと。長い旅が始まった。「NEVER GIVE UP!」というアナウンスが耳に残る。ぼくら第7ウェーブのランナーに求められるのはタイムではなく、あきらめないこと。
なにしろ100k、途方もない距離だ。57.3k地点のCP4が大きいエイドとのことなので、そこからスタートくらいの気持ちで、それまでは気持ち的にウォーミングアップ。心拍を上げず、登りと平地はほぼ走らない。下りだけ走る、を心がける。
UTAの特徴のひとつは、なんといってもブルーマウンテンズ国立公園の大自然だ。日本のトレイルレースではまず見ることはできない景色だし、シャモニーとも香港とも異なる。UTAならではの景色はオンリーワンの魅力。
気持ちよく走れそうなトレイルが続くが、あえて走らない。のんびりと景色を楽しみながらテンポよく前進する。天気はよく、少し暑いかな?乾燥しているので汗をあまりかいていないように感じるが、こういう時は気づかずに脱水になっている恐れもある。定期的に水分とミネラルを摂る。
25k地点くらいでプチトラブル発生。普段はお腹を壊すことはあまりないのだけれど、腹痛がやってきた。31.6k地点のCP2でトイレに入り、念のために持ってきた腹巻を装着。早め早めの対応。
ちなみに13:30到着予定で、13:36到着。ほぼ予定通り。
CP3の前で抜きうちギアチェックがあった。なんだっけ?サーマルトップと何か。
16:59、46k地点のCP3に到着。予定では16:40だったので、少し押し気味。とはいえ、ここでの30分やそこらの差は後半を考えればまだまだ誤差内。慌てずにしっかりと休み、次の準備をする。
寒くなってきた時間帯だからか、エイドにはお湯があった。コーヒーを入れて一休み。甘くしてミルクをたくさん入れたコーヒーが本当に美味しかった。
このあたりから暗くなり始めたので、ヘッドランプを装着。サンバイザーをPOLARTECのビーニーに変更。Tシャツの上にウィンドシェルを羽織り、防寒&夜間装備をして、次なるエイドCP4に向けて出発した。
ウェーブスタートのおかげもあり、ここまで渋滞はほぼなかった。それどころかひとりの時間帯が多く、「なんでこんな真っ暗な異国の自然公園の中をひとりで歩いてるんだろう」などと自問自答するくらい。
そういえばレース前日、部屋に大瀬さんが遊びに来た。そこで聞いた話で「オーストラリアには人を襲う人食いカンガルーがいるから気をつけろ」とSALOMONアスリートに注意が回っているらしい。
そんなことを思い出しながら漆黒のトレイルを歩いている時、右の藪からガサガサっと音が!右には柵があるのだが、柵に当たるような音も。。。
さらにぼくとほぼ同じ速さでザザザっと草をわけて進む音がずっと聞こえてくる。大丈夫かこのレース!本当は数人食い殺されているだろ。。。
怖いが見れない。突然ダッシュして逃げたとしても、もし追いかけてきたら失禁モノである。ここは平然を装い、襲ってきたらポールで反撃しようなどと考える。
そして柵が終わるあたりで。。。ウゥゥゥゥという唸り声!こえー!
やばい、とにかくこのエリアから離れなければならない。平然を装いながら10%アップくらいの早足。やがて音はしなくなった。。。
レース後にみんなとその話をしたが、
・人食いカンガルー説
・ぼくのただの幻聴
という説に分かれた、どっちだったのだろうか。。。
真っ暗闇のトレイル(林道)をひたすら進む。前後に人はいない時間帯が多いが、静かで星空が本当に綺麗だ。普通に考えれば、夜の国立公園を星空を見ながら歩くなんて経験はできない。贅沢な時間であり、経験。オーストラリアの星空は人生で見た中で一番美しい。
トレイルを出て、街に入る。エイドはもうすぐだ。すでに真っ暗で寒いのに、住民の方が沿道で応援してくれている。住民の方にとっても地元のイベントなのだと思うけど、もちろんぼくらランナーにとっても応援はうれしい。
ようやく56.6K地点のCP4に到着。19:50到着予定のところ、19:39到着。スタートから約12時間経過していて、ほぼ予定通り。
ここまでのコース前半は昨年の50kでほぼ通っているので(本来は100kの後半がコースだが、昨年は雨天で前半が50kのコースとなった)、ある程度コースもわかっていた。しかし、後半は未知のコース。ぼくとしてはここから本当のスタートだ。
CP4は大きな体育館で、サポートで賑わっている。ドロップバッグを受け取り、壁際に座り込み荷物の整理。制限時間にはまだ余裕があるので、準備をしつつ、しっかりと身体を休め、後半に備える。
と、その時「ヘイ、渋井選手!」と日本語で声をかけられた。
(続く)
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