お手伝いスタッフとして現地におります。マーシャルとして38Kを巡回しながら走る予定ですので、お気軽にお声をお掛けください。でも、そんな余裕ないか(笑)
今日、植生保護のために、一部コース変更が発表されました。ふと思い出した話をご紹介します。
ハリー ブラッドショーというゴルファーの名前を聞いたことがありますか?ゴルフのご経験のある方なら名前は覚えていなくても、この話は聞いたことがあるはず。
以下 「ゴルフの虫がまた騒ぐ」(夏坂健著、二見書房刊)から参考引用
「アンプレアブル !!」
ハリー・ブラッドショーは、左手を高く上げて宣言した。( アンプレイアブルを宣言すると、ボールが打てない状態になっている場合でも、打数に一打を付加して、拾い上げ、肩の高さから落としてプレーを再開できる)
「何だって?」
一緒に回っていたクリスティ・オコーナーは勿論、見守っていた大勢のギャラリーも一瞬、呆然とした。そこはごく浅いラフで、ボールを打つのに障害があるとは思えない場所であった。なのにハリーは「アンプレアブル」と再度左手を上げてからボールを拾い上げて後方にドロップ。そこから5アイアンでグリーンをとらえると、2パットでホールアウト。1罰打を加えボギーとなったが、ハリーは涼しい顔で次のホールに向かった。
「いったい、何があったんだ?」
クリスティがハリーの顔を覗き込みながら尋ねた。
「ボールが打てなかった」
ぶっきら棒にハリーが応える。
「石かね?」
「いや、ライ(ボールがある状態)が悪かった」
クリスティはゲーム終了後、新聞記者から真相を聞かされた。記者がラフを仔細に観察すると、ハリーのボールは、ラフの片隅にひっそりと咲く可憐な紫色の花が一握りほど群生したそばにあった。
「なんて奴だい….」
早速記者はハリーをつかまえて、意地の悪い質問を試みた。
「ちょっとキザだとは思いませんか? 詩人的要素が強いゴルファーは勝負に弱いといいますが」
「私は綺麗に咲いている花をなぎ倒す勇気のない人間だ。花よりショットの方が大事だとは思えなかった。ついでだが、アンプレアブルの宣言はゴルファーの選択にまかされているんだよ」
発表された八ヶ岳スリーピークスでのコース変更に関して、なぜこのタイミングで?どういう植物なのか?トレイルからの距離は十分にあるのではないか?…様々な意見があるかもしれない。しかし、今回、実行委員会は万に一つの状況を想定して「アンプレイアブル」を宣言した。ここは選手、スタッフ全員がハリー・ブラッドショーになってみようではありませんか?まあ、ハリーのボールはもっと花の近くにあったとは思いますけれど。
実は、この逸話は、もう1つ後日談があり、それとセットで語られることが多い。
1949年、ハリーは、ロイヤル・セント・ジョージズで開催された全英オープンに出場する。初日68、堂々の首位スタートだ。ところが二日目の5番ホールで、ラフに飛び込んだハリーの打球に信じられない災難が待ち受けていた。なんとボールが、割れて下半分だけになったビール瓶の底に納まってしまったのだ。
大笑いした後でハリーは呟いた。
「さて、どうしたものかな…」
ルールブックに解決策を求めれば、同伴競技者の言葉を聞くまでもなく救済は受けられるだろう。しかし、ハリーにはルールブックに頼る気持ちなどかけらもなかった。おもむろにテイクバックするとクラブを一閃。瓶は粉微塵に砕け散って、ボールはようやく30y先に転がり出ただけだった。結局、このホールで6打を費やし、この日77。しかし、3日目68、最終日70で、南アフリカのボビー・ロックとプレイオフにもつれ込んだが、惜しくもハリーは敗れてしまった。
記者たちはあきれて聞いた。
「花の時はボールを拾ったのに、ビール瓶ではそのまま打った。何故だね、ハリー ?もしあそこで救済を受けてたら、全英オープンで勝てたというのに」
インタビューに答えて、ハリーは控えめな声でこう言った。
「自然を愛して、あるがままにプレイせよと父から教えられたんだ。そしたら、ああなったが、私にはどちらも同じことだった」
これはブラッドショーボトル事件として有名で、あるがままにプレーするというゴルフの大原則を貫いた逸話として有名です。一見、正反対の行為であっても、1つの理念に基づいた行為は矛盾することなく、後日、歴史を動かすことになる。このことがきっかけで、R&A (= 全英ゴルフ協会、実質、世界のゴルフルールはここで決まる)が、公平性を重んじて、「動かせる障害物」(この場合はビール瓶)の場合は無罰で救済を受けることができるように改定を行っています。
今回実施される迂回措置は、誰かになにかを言われ、強制されるわけではなく、自らの判断で行うものです。ハリー・ブラッドショーのように。言うまでもなく、実行委員会の理念 http://trail38.com/concept/ が貫かれていると信じています。来年は別の解決法が見つかるかもしれませんし、迂回が定着するかもしれません。どちらにせよ、理念に基づいた行動は、必ずしや実を結び、将来、歴史が証明するのだと思います。
トレイルランニングと自然を愛する全ての人々の共生を願って。