「ぼちぼちいこか」
というやわらかなタイトルのブログがある。山好きの方ならば一度は読んだことがあるでしょう。元穂高岳山荘の小屋番であり、ハチプロダクションという穂高の美しい映像をDVD化している会社の代表でもある宮田八郎氏のブログです。直接お会いしたことはありませんが、自分の‘山の安全に対する意識の在り方に少なからず影響を与えています。トレイルランナーが走るという行為から離れて、登山者として山に向き合う時、どういう心構えでいればよいのか、そんな基本中の基本みたいなものの形成に役立ったと思っています。そしてなによりも、自分が夏のジャンダルムへと向かうきっかけとなったのは、そのDVD「穂高をゆく」の美しい映像に引き込まれたからになりません。この時期、トレランモードは一旦お休みして、縦走、登山モードでアルプスを目指す機会がある方は、このブログを読んでいただくことをお勧めします。
ブログには穂高の四季折々の美しい写真が掲載されています。その中に、ぽつりぽつりと事故と救助の記事が掲載されています。事故に遭われた登山者の行為を醸すのではなく、ただただ助かったことへの安堵感と、不幸にして亡くなった場合の悲しみと無力感が書かれている。こういう方々のご尽力を知れば、夏の奥穂までのルートであっても、ヘルメットは着用しようと思うはずです。一度だけ、めずらしく声を荒げるような文体で書かれたことがありますが、(「それはあかんやろ?」2016/5/3 )他の記事は優しく諭すように登山者の安全と自分の仕事への責任感が綴られています。どういう場所で事故が多いのか、(「夏の遭難発生場所」2016/8/6 )また、穂高へ向かう誰もが使うであろうルート、ザイデングラードでの事故状況(「ザイデングラード」 2016/9/10 )に関する考察は説得力があり、自分も常に心がけるようにしています。トレイルランニングにおいても同じで、八ヶ岳スリーピークスのレースで、選手の捻挫の発生が多いのは、前三ツ頭から下のガレガレの急な下りではなく、その直後の少し傾斜が緩んで走れる場所であることをここに付記しておきます。
私のような著名なプロでもなければ、登山家でもない人間が、みなさんにリスクやリスク回避の技術論ではなく、基本的な心の在り方を感じてもらうには、このようなプロのブログを読んでいただくのが一番説得力があるのだと思いご紹介した次第なのです。そしてもうひつ理由があります。大変残念な事に、宮田八郎氏がこの春、シーカヤックの水難事故でお亡くなりになりました。山のリスクを知り尽くした男に、海の事故が襲いかかるとは、神様はなんと意地悪なのでしょうか….追悼の意とともに、この夏のアルプスでのみなさんの安全をお祈りいたしております。穂高は通過しませんが、すぐそばで、あの大会もあることですしね。
2018 盛夏