山行計画39時間に対して39時間51分、いくつかの予定外の出来事にも柔軟に対応でき、もちろん身体的にはきついのですが、とても楽しみながら過ごした山の時間だったと思います。
印象の残った風景をいくつか。これまでの奥秩父主脈稜縦走での美しい風景写真だけではなく、大会らしい視点からのものを織り交ぜて。
7/18の日の入りは、おおよそ19:00、笠取山先の小さな分水嶺(流域分水嶺)の先に広がる笹原の夕暮れ時の原野風景が見られるかなという期待を持っていましたが、日の入りには間に合わず、夕闇が迫る直前の市民薄暮(ライトなしで行動できる時間)となりました。写真は露出が多く入り、実際にはもう少し暗く見えています。それでも美しい風景でした。ここからライトを装備して夜間行動になります。
山域がひとつ違うと、雨がひどかったようですが、私の時間帯では幸運にも雨はさほど強いものにはなりませんでした。反面、風が強く、木々が常にザワザワとしていました。雁坂峠を過ぎてしばらくすると、針葉樹が立ち枯れているエリアがあります。昼間でも神秘的な風景であり、闇夜に自分のライトで照らすとさらに神秘的です。そして少し前に降った雨と強い風で空気中のチリが落とされたようで、ヘッドライトを落とすと星空がとてもきれいなものでした。i-phoneで星を写すことはできませんので、枯れ木の向こうに満天の星空が広がっていると想像してください。
おそらく塩山あたりの街明かりでしょうか。夜景としては大きいパノラマのようなものではなく、遠くに、ほんのりとやさしく見えるものです。大きなトレイルランニングの大会とは異なり、Aコース、Bコース合わせても100名に満たない人数ですので、前後の選手のライトも見えません。今回の日付は月齢も薄い三日月で闇夜は深く、闇の向こうに広がる大きな山々を想像すると、自分がとても孤独な存在であり、闇の中に一人取り残されたような不安を覚える瞬間がありました。そこへ、街明かりが遠くにでも見えると、それは人の気配でもあり、自分が帰る場所を確認できるものなのです。だから印象に強く残ったのかもしれません。自分は山が好きですが、山に住めるかといえばNOであり、普段の街の営みがあっての山行だと思っています。
以前のブログには、この稜線を夜間行動をするのはもったいないとも書きましたが、大会ならばこのような風景を見られることを思い出しました。第1回のUTMFで見た三国峠の星空、次のUTMFでは竜ヶ岳にでっかい満月、さらにさかのぼれば、ハセツネの後半、日の出山から見える東京の夜景も思い出しました。
甲武信ヶ岳を過ぎ、国師ヶ岳へ向かう原生林の森は美しい場所です。大弛小屋のご主人の話では、登山道整備のときにも、美しい倒木は切らないそうです。今、コケが生して、土に還りそうな倒木は50年ほど前の倒木とのこと。そこへ、どうしたことか、幼木が生長しています。強い生命力で、倒木が土に還るときに根を地面に落として生き延びるのでしょうか。なにか生命の輪廻を見たようで、思わずシャッターを切りました。
大弛小屋のカレー(完食済)と、富士見平小屋の鹿ドックです。富士見平小屋の地ビールがとても美味しいのは知っているのですが、そこは我慢しました。自己責任の範囲ならば山行計画に「ガソリン補給」と書くのもいいでしょう(笑)山小屋営業時間内で迷惑のかからない時間帯であれば、小屋の食事を注文することも可能です。どんな栄養学的に優秀なジェルやサプリメントよりも、人の作った料理がやはり一番美味しいということ。山小屋のご主人とスタッフに感謝です。
派手なMC演出や大観衆がいるわけでもなく、選手がゴールへ近づくたびに、数人のスタッフが数分前にゲートを立てるというとてもアットホームなゴールです。ノンサポートの大会ではありますが、東京、山梨、長野の3都県をまたぐ、国立公園内での大会ですので、その手続きの煩雑さは想像がつきます。スタッフがいるCPは標高の高い峠であったり、選手からの通過連絡やリタイヤ連絡など、少人数のスタッフが的確に動く必要があるはずです。事故なく運営していただいたことに頭の下がる思いでいっぱいです。ゴール後に、主催の方とお話することができたのですが、やはりこれはトレイルランニングレースではなく、縦走大会であるということを再認識しました。走力の高い一部のトップ選手であればトレイルランニング的にビバークなしでゴールまで行くことも可能ですが、ほとんどの選手は、ビバークと補給計画を立てて、修正しながら進んでいくことになります。自らの安全確保のために、そして身体負荷を抑えるためにも、仮眠は絶対に必要であり、山岳系100マイルレースのように、ある程度のサポートがある中で2晩寝ない(寝られない)でプッシュし続けるトレイルランニングレースではないわけです。分水嶺トレイルは、自分で(チームであれば、自分たちの)山行を計画し、そして起こりうる事態に、山の経験値でどう対応していくかという競技だと解釈しています。順位やタイムを競うのではなく、準備段階も含めて、山行を自分で評価していくものだと再認識しました。レギュレーションや形態がTJARと似ていることから、ミニ(ミニx5ぐらい?) TJAR(リンク)とも位置づけられますが、決してそれを目指す選手のための大会ではなく、各々がリスクコントロールできる範囲での計画、装備、それとチームでは助け合いながら進むという、TJARにも、トレイルランニングレースにもない形式を楽しんで欲しいと思っています。