もうだいぶ昔の話ではあるけれど、自分の初めてのハセツネは21時間かかった。月夜見で給水をして、ライトをガチャガチャとやっている間に点灯しなくなる。電池を入れ替えてもダメ。今なら予備ライトもそこそこのルーメン数のものを装備しているので、なんとも思わないだろうが、当時は予備は予備なりの小さいものであった。それも新品の電池のはずなのに、気温のせいか御前山ですでにバッテリー残量があやしい。しかもCR123という本ライトとは異なる電池タイプ。バッテリーのタイプと大きさを合わせるという基本もこの失敗から学んだと思う。結局、オオダワでビビイにくるまり、夜が明けるのを待って再スタート。それ以来、ビビイは装備義務がなくても必ず持つ。
ハセツネは速いランナーにとっては中距離レースだ。実際にGPSの実測では65〜68kmのデータが多い。序盤のハイペースの波に乗りながら、自分のポジションを探りつつ、どこまでもつかの勝負。私のような13〜14時間の中位レベルでもその傾向が顕著だ。そうしなければ、あの渋滞にはまると、タイムを目指すレースの趣旨とは違ってきてしまう。装備を極力軽くして、ダメなら潔くドロップという選手も多い。気温の予想が難しく、水切れの話もよく聞く。トレイルランニングとしての競技性が高まる一方で、他のロングレースへの応用、普段の山行のトレーニングや経験の蓄積が伴うレースにはなりにくくなっているのが実情ではないだろうか。「ハセツネ」という特殊なスピード競技の世界のようにも思える。それもまた、その特殊性から、惹きつける魅力があるのも事実だと思う。トップ選手では、奥宮選手の優勝を期待したい。シルバーコレクターは本人もうんざりだろう。いろいろな思いもあるだろうから…
一方で、後方のランナーに焦点をあててみる。今では春のは30Kが事実上の予選となり、中位層が厚くなったからか、中位順位の渋滞が激しく、後方は緩和されたとも聞く。焦って走る必要はない。山歩き、特に登りが速い人ならば20時間前後でゴールが可能なはずだ。できればきちんと調理した食事をとり、幕は張れないけど暖かいウエアやビビイにくるまってベンチでゴロンと寝てビバークの替わりもよいでしょう。もともと、アルピニスト長谷川恒男が行ったサミットプッシュ(昔で言うアタック)での24時間行動に向けた練習を起源とするならば、後方のランナーが正しい。サブ10でゴールしては練習にならないんですよ!!(笑)起こり得るアクシデントにきちんと装備し、速いタイムではなくても、自分の脚で五日市まで戻ることに意味があるはずだ。たぶん、OSJが制限時間を設定すれば、距離、累積、サーフェースからすると15時間ぐらいだろう。そこを24時間という設定を変えないところに、ハセツネの意味があり、懐の深さがあるはずだ。(懐が深くても、出走人数は多すぎだ!というのは言い続けたい。そこが改善されないかぎり私がまた走ることはない、呼ばれもしないけどね)
マスコミもハセツネのスピード競技性だけに焦点を当てず、後方のランナーに着目してほしい。たぶん他のロングレースよりも、泥臭い、人間味あふれるドラマがあるはずだ。距離は短くてもハセツネではアクシデントが起こる。だからこそハセツネなのかもしれない。本当のレースはそこから貴方がどうかするかなのです。自分は明日から違う山域のイベントをお手伝いしており、会場には向かえませんが、20時間台ランナーの健闘をお祈りしています。