登山道整備作業 ( Trail works )、 多くの北米100mileレースではエントリー資格にしっかりと明記されている。なぜなのか?レースボランティアではだめのか?
その答えは実際にやってみることでよくわかりました。これまで気づかなかったことや、頭では理解していたが、それを実体験として感じられたことが多くあります。
最初はランナー目線で危険な箇所のチェックや笹薮の刈り込みをしていくわけですが、標高によって木々の植生が変化していくのに気づきます。それにつれて土壌の質も変化していくのもよくわかります。植生だけでなく、積雪に覆われている時間の長短でも土壌の安定度が変化していることが直感的にわかる。そこへ下ってくる登山者(ランナー含む)の踏み込む位置を見ていると、登山道の土壌侵食のメカニズムがとてもよくわかるのです。時としてトレイルランニングが批判されてしまう点に土壌侵食が加速するという点がありますが、これはランナー、登山者に差異はなく、単純に人数と普段の登山道整備にも大きく関係していることでもあると自分は考えています。登山道が拡がってしまったり、複線化してしまうことはもちろん避けなければならないことですが、その逆に笹が雪の重みや、その後の成長で内側へ張り出して、本来の登山道の幅が見えなくなっている箇所も多くありました。こういった箇所では、トレイルの中央に踏み込む位置が集中し、そこから崩れ、その後の降雨で侵食が進むように見受けられます。いわゆる掘れた状態です。笹山のトレイルが多い箱根外輪山などに多いですね。笹薮を刈り、本来の登山道の幅を回復することで、無理な踏み込みや、1つの箇所への集中は防げます。一方、すでに侵食が進んでしまっているトレイルに対しては、木の梯子で崩れることを防ぐといった対処療法のみならず、専門家と管理者の指導のもと、迂回経路を整備して、侵食が進んでしまったトレイルを休ませ、植生回復を図る措置がとられる場合もあります。高尾〜陣場間の主稜線や、雲取山山頂付近で見たことがある方も多いでしょう。
今回、自分がお手伝いした八ヶ岳スリーピークスのコース整備は、毎年複数回行われており、レースが続く限り必要なものです。もちろん、今年のレースのためにという目的があるわけですが、これから数年、もしかしたら数十年単位で考えていく必要がある整備活動もプランされており、主催者が地元や管理者とよく話し合われていることがわかります。一部のレースで見受けられる、賛成・反対の単純構図から生まれるものではなく、トレイルを共有し、活用していくということは、メリットの享受とともに、実際に発生が避けられないインパクトを理解し、策を講じていくことが必要なのだと思います。以前は定員が400名だったOne Pack Line 38Kの定員が、250名になったことも、残念ではあるけれども、現状では受け入れるべき内容であると思っています。今年もあと複数回の活動があるようですので、興味のある方は 八ヶ岳スリーピークスのオフィシャルサイト(リンク)をご参照ください。
今回の整備活動終了後に、とてもよい講演を拝聴させていただきました。青年小屋のご主人であり、エベレストサミッター、国際山岳ガイド、北杜警察署山岳救助隊長である竹内敬一さんのお話しは、八ヶ岳連峰が形成される歴史や、現在の植生、そしてご自身の体験であるエベレスト登頂や救助活動の事例をユーモアを交えた語り口で、時間が過ぎるのがあっという間でした。この続きは日本一標高の高い居酒屋「遠い飲み屋」(知らない人はググってください)で、ということですな。