第一回、第二回、第三回と続いたウェスタン・ステイツ・エンデュランス・ランの連載も遂に最終回です。
ペーサーとは、指定された区間をランナーと一緒に走る「トレイル同伴者」である。(ペーサー規則)
昨年ペーサーとしてフィニッシュした後に「今度、藤岡さんが当選したらペーサーするから」と言ってくれた西城さんが私のペーサーだ。
度々、誰かのペーサーをしたことはあったが、誰かにペーサーについてもらうのは初めただった。
西城さんには4〜5メートルほど距離をあけて先行してもらうようリクエストしていた。私の前方の視界が妨げられないようにするためだ。ところが、フォレスト・ヒルを出発してしばらくは二人の距離がしっくりこない。準備万端でまだ走り始めたばかりの西城さんはゆっくり走っているつもりでも自然とスピードが出るのだろう。また不整地なのだから走りながら頻繁に後ろを振り向くわけにもいかない。一方の私は既に60マイル走り、終盤へ向けてできるだけ脚を温存したいと思っている。いつのまにか差が広がってしまい、幾度となく「ちょっと速すぎー」と後ろから声をかけてスピードを落としてもらった。
ウェスタン・ステイツはペーサーも豪華だ。総合2位フランソワ・デンヌのペーサーは昨年の優勝者ライアン・サンデス。女子3位のルーシー・バーソロミューのペーサーは、2012年にハセツネを優勝したことで日本でもおなじみのダコタ・ジョーンズだった。
それでも75マイル過ぎのリバー・クロッシング(川渡り)に近づくにつれて、西城さんとの距離感も少しずつしっくりくるようになってきた。付かずとも離れず、自分のペースで走りながら、追いかけるような距離。
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Photo: Let’s Wander Photography
グリーン・ゲートのエイド・ステーションでレースがスタートしてから初めて腰を下ろした。川を渡って足が濡れるとマメができやすくなるので、ここで予定通りシューズとシャツを交換したのだが、ソックスを脱ごうとした瞬間ふくらはぎがつり顔をしかめた。
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Photo: マキコさん
多くはないとはいえペーサーを使うことに対して否定的なランナーも存在する。「ウェスタン・ステイツで速いランナーがペーサーを使うのはがっかりだ。なんでアメリカでペーサーを使って、ヨーロッパでは使わないのか?」と言うのは、数多くの100マイルレースを制している大御所カール・メッツァー。
such a bummer to see faster runners using pacers @wser . Why in the US do we use pacers and in Europe they don't? #muleboy 🙂 #speedgoat
— Karl Meltzer (@Speedgoatkarl) May 22, 2018
残り20マイルを切った。一ヶ月前のトレーニング・ランでは多少のアップダウンはありつつも比較的走りやすく感じたセクションだが、80マイル走った脚には異なった印象を与える。ちょっとした上りでスピードが出ない。
コース・ロストで遅れた分を除けば予定通りに来ていたが、ここに来て順位を落とさないまでも次第にペースが落ちてきた。西城さんが後ろを振り返り、私との距離を調整する回数も増えてきた。
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予定と実際のペース(フォレストヒル以降)
ペーサーを使ったほうが完走率が高い。今年のデータでは24時間未満で完走した人の86%、24時間以上30時間以内で完走した人の91%がペーサーを使用したのに対し、完走できなかった人のペーサー使用率は80%にとどまった。
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ペーサーを利用したランナーの割合
なんとか我慢して順位を落とさずにオーバーンの住宅街へと続く最後の坂を登り、残り一マイルを切った。ここまでサポートしてくれたマキコさんも待っていた。予定していた18時間ではゴールできなかったが、19時間は切れそうだ。「誰が優勝したの?」「ジム。コースレコードで。」「おぉ、遂に!」西城さん、マキコさんとゴールとなるトラックへむけて雑談しながら走る。
18時間52分27秒。男子17位。総合19位。目標通り20位以内でゴールできたことの満足感と、途中のコース・ミスが無ければというちょっとだけの悔しさの混じったゴール。
自分のミスのせいで完璧なレースとは行かなかったものの、ペーサーの西城さん、マキコさんや妻をはじめとしたサポートのお陰で概ねスムーズなレースができました。皆さんありがとうございます。
主催者もボランティアもよく組織されていて、最古の100マイルはやはり素晴らしい大会でした。次にランナーとしていつ戻ってこれるかはわからないけれど、何らかの形でまた必ず戻ってきます。
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日本人完走者を囲んで。
(おわり)