Val d’Aran by UTMBを走ってきました。2017年にAndorraのRonda dels Cimsに参加（中間地点の80kmほどのところでDNF）して以来のピレネー山脈のレース。アルプスと比べて岩がちな地質で、Andorra同様に今回のVal d’Aranも非常に険いコースでした。

UTMBとVal d’Aranを比較すると、UTMBが距離170kmで累積が10,000m強なのに対して、Val d’Aranが162kmで10,600m。数字ではそれほど大きな差はないですが、Val d’Aranのほうがテクニカルでトレイルも細く、脚の置き場の選択肢もより繊細、また上り下りの傾斜も非常に急で、走れるセクションがほとんどありません。難易度はUTMBよりも高く、実際に今回24時間を切れたのは優勝者ひとりきりでした。完走率は50%程。体感の難易度からするともう少し低くなっていてもおかしくない印象でしたが、制限時間が十分に長いので動き続けられればこれくらいは行くのかもしれません。

きついながらも終始抜群の景色でした。UTMBの冠がなくても最高に素晴らしいレース。山々の稜線を走ったり、20世紀に採掘がおこなわれていた当時の線路の名残があったり、高いところからピレネー山脈を遠くまで一望できたり、ほとんど崖のような岩面をよじ登るところがあったり、道中も飽きることがありません。

私の事前の目標は、年齢別で入賞出来たらベスト、最低で完走でした。今回のレースは完走すると来年あるいは再来年にUTMBへのエントリー権が付与されます。5年前のブログにも書いていますがUTMBでのエイジグループ入賞は以前からの大きな目標なので、どうしても完走したいと思っていました。

正直なところレースに向けた準備ではそこまで追い込んではおらず、また事前にコースの勉強もそれほどしておらず、出たとこ勝負のところがありました。

スタートから周りの人が飛ばす中、ある程度抑えてスタートしました。徐々にポジションを上げていけばいいかなと思っていましたが、最初の山からとにかく傾斜もきつくテレインも難しく、ポジションを上げようにも上げられません。アメリカの多くのレースと違って、とにかく走れない。なんとかポジションを維持することで精一杯でした。

 

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周りの人の動きを見て思いましたが、このコースではハイクのうまさがものを言います。スピードより険しい山でのテクニック。スピードが必ずしも重要な要素ではない分、年齢がいっていても技術があればカバーできます。ただ、そこが私には足りておらず、対処ができないままレースが進んでいったという感じです。ただそれでも中盤まではエイジグループの入賞圏内に入っていました。

100キロ手前でアクシデント。後のランナーをすこし気にしたタイミングでバランスを崩し、1メートル強くらいの段差から落ち、顔から岩に突っ込んでしまいました。唇の右下を裂傷して、口の中も歯が当たって穴ができていました。その瞬間は貫通して穴があいたかと思いましたが、そこまでには至っていませんでした。もし打ちどころが悪かったらと想像すると怖くて、肉体的なダメージというよりは精神的なダメージが大きかったですね。

そこからはなかば戦意喪失状態で、リスクを負うことを避けてしまいました。完走してUTMBの出走権を確保するというゴールがなかったらDNFしていたかもしれません。エイドごとに30分寝て、できるだけフレッシュな体でセクションをこなしていく走りになりました。それでも残り60kmあったのでなかなかつらく、順位はどんどん落ちていきましたが、距離が減るにつれて完走が見えてきて精神的には楽になりました。

100km過ぎからはエイドごとに寝まくる。

途中からは体力的な消耗がなかったこともあって脚には余裕があり、最後の20kmはスピードを上げることができました。最後の下りでは100マイルほどを走ったとは思えないスピードですっ飛ばして大人げなくばんばん人を抜いていきました。特にウルトラ・ディスタンスでは筋肉などの疲労（末梢性疲労）だけでなく脳が感じる疲労（中枢性疲労）がパフォーマンスに大きく影響するといわれます。100km以上走った後で最後にこれだけ走れるのだから、疲労はやっぱり脳からだなぁと思いながら進んでいました。

順位の推移。アクシデントがあった100kmからみるみる順位が落ちている。

振り返ると、Val d’Aranはトレイル・ランニングというよりは山岳レースというのがしっくりくるという印象です。プランニング（ペース配分）とテクニカルな難コースでいかに体を早く動かすか。単純に早く走れるだけでは難しく、走れるトレイルに慣れたアメリカのランナーはなかなか容易に対応できないだろうなという印象を持ちました。ただ、山好きには面白いレースであることは間違いないです。

ピレネーでのレースは2017年のAndorraに続いて散々な出来。だだ、完走して大きな目標であるUTMBでエイジグループ入賞に繋げられたのは良かったです。UTMBにむけてはもう少ししっかり準備しないとなと思わされました。