普段は根性とか精神論的なことは避けているのだけど、レースも終盤に入り、ペーサーとしてナミネムさんの走りに感じていたのは「ほんとに根性あるな」ということだった。
現地でウェスタン・ステイツを迎えるのは今回で4回目。ペーサーとしては2014年と2017年に続いて3回目。今回はナミネムさんをペーシングするのが私の役目。2020年のHURT 100ではナミネムさんが私のペーサーだったが、今度は逆の立場だ。
今年に入ってからナミネムさんのコーチとしてウェスタン・ステイツに向けた準備のプロセスにも関わっていた。順調に仕上がってきていたので、本番では彼のポテンシャルを引き出してあげることさえ出来れば大丈夫と考えていた。
ナミネムさんの目標は21時間30分での完走。タイムテーブルの他、ペーシング時にはガンガン引っぱってほしいという要望を貰っていた。前半はしっかり足を残してもらって、一緒に走れる場所まで来たらそこから私がしっかりペースを作ろう、そう考えていた。
前半はエイドステーションでサポート。ウェスタン・ステイツでは日が出て暑く起伏も大きい前半で飛ばさずに、暗くなり涼しく下り基調になる後半に足を温存するのがセオリー。最初のエイドステーションでは予定の時間より遅れていたけれど、動きは良さそうに見えた。ナミネムさんに限らず全体的にペースが遅そうだったし、前半に慌ててもしょうがないことから、「良いペース、この調子でいいよ」と声をかけた。それ以降の走りは順調そうで、着実に順位を上げていき遅れもじわじわと取り戻していた。
ペーサーとして走るために待っていた62マイル地点のフォレストヒル。エイドステーションに入ってきたナミネムさんが開口一番「お腹の調子が悪い」。すこし難しい状況になっている。このまま胃腸の不調が続いて食べられなくなると、ガス欠で行く行く足が止まってしまう。一緒に走り始めて最初にチェックしたのは足が動いているかどうか。しっかり動いている。すこしギャンブルだけれど、足が動いている限りは目標のタイムにできるだけ近づこう。貰っていたタイムテーブルのセクション毎のタイム通りにペーシングを進めた。
Cal-1、Cal-2とエイド・ステーションごとに区間のタイムをチェック。1〜2分の誤差でほぼ予定した通りのペースで走れている。いいペースで前を行くランナーを抜くことが出来ている。このままのリズムで続けたい。
78マイルのラッキー・チャッキー。冷たい川を胸のあたりまで浸かって渡る。川を渡ったあとにすこし時間をかけてシューズを交換している間に、ナミネムさんの体が冷えてしまったのかもしれない。そこからの上りでナミネムさんが激しく嘔吐。更に胃腸の状態が悪くなってきていて、補給も難しくなってきた。ここからどこまで我慢できるか。
エイドで補給できるものも限られてきて、また胃を落ち着かせるためにエイドを過ぎてから少し歩きを挟まざるを得なくなってきた。それでも歩くのは最小限に止め、すぐに自分から「OK、走れます」といってくれる。そこからは私がまた引きはじめる。すこしペースは落ちてきたけれど、それでも周りのランナーと比べればまだ十分に足色はいい。本当によくついてきてくれている。
ナミネムさんは苦しい中でもいろいろ考え、試していた。ジェルがだめになったら液体でカロリーを摂取したし、冷たいもので胃腸を悪くしたのではないかと温かいものをとったりしていた。実際に温かいお湯やスープで少し持ち直していた。「歳を重ねて、胃腸の問題が出やすくなった気がするなぁ。なんかJRさんもそんなこと言ってたな。」なんて会話も印象に残っている。
胃腸の苦しみはウルトラを走った人の多くが経験して知っていると思う。私もなんども同様のトラブルがあったが、一度なってしまうと解決が難しい。食べろと言われても食べられないことはよく分かる。だから食べられないことに対して、よいアドバイスも見つからなかった。
ナミネムさんは本当に苦しそうだったが、それでも足を止めずに走り抜けてきてくれた。ノーハンズ・ブリッジ。あと残り数マイル。ここで少し歩きながらナミネムさんと会話した。「いやー、本当によくついてきたね。」は、最初にウェスタン・ステイツにエントリーしてから走るまでに10年近くかかったナミネムさんのナミネムさんの思いと根性を見た私の心からの言葉だった。