2016年7月16、17日、長野県木曽郡王滝村で行われたOSJおんたけウルトラトレイル100kmに出場してきた。今回の目標はサブ14。つまり14時間以内の完走。それはサブ14の達成者のみに与えられる同レースのエリート部門である100マイルへの挑戦権を得ることを意味する。
2年前、初めて挑んだこのレースでは、延々と続くガレガレの林道で膝を壊してしまった。痛みに耐え抜いての完走だった。100kmウルトラトレイルへの初めての挑戦は悔しさの残る結果だった。その悔しさを糧に昨年のOSJ KOUMI100や今年の野辺山ウルトラマラソン100kmといった超長距離に照準を合わせて、経験を積み重ねてきた。今年、このレースでサブ14を達成して、来年、同レースの100マイルにチャレンジしたいとチーム仲間に公言していた。それは自分に言い訳をしないように覚悟を固めるためでもあった。そんな覚悟でガチで臨んだこのレースだった。
16日午後4時、チームメイトとマイカーで現地入り。会場となる松原スポーツ公園に設置されたスタートゲートを目にする。ようやくここに帰ってきた。2年前のレースを思い出して、熱い思いが込み上げてきた。受付、出店ブースでの買物、装備の準備などで時間を潰す。早々とチームメイトと夕飯を取る。午後8時の100マイルのスタートを見送った後、車中で仮眠を取った。アドレナリンが出ているためか熟睡することはなかった。午後10時半に起床。着替え、トイレ、荷物預けと慌しく行い、開会式と競技説明に臨んだ。1000名を超える群衆の中、スタート位置に比較的近いポジションに滑り込むように並んだ。競技説明では関門距離が変わったことがアナウンスされた。
午前0時、真っ暗闇の中をスタートする。5kmのロードを経て林道に入る。林道なので道幅があるため渋滞はない。この区間の上りでは最大心拍数の80%を前後するペースを維持することを意識した。走りのリズムの合いそうなペーサーを見つけて、適度に距離を取りながら引っ張ってもらう。夜間走のトラップのひとつ林道を横切るラバーに何度か足を引っ掛けて転びそうになる。35km地点の第一関門は4時間30分で通過。序盤で計画に対して22分の貯金。エイドではおにぎり、バナナやパワーバーなどが提供されたがバナナ約半分のみを取った。
第二関門の66km地点に向かう。アップ&ダウンの続くコースの厳しさは変わらない。延々と続くガレた林道。既視感のある幾つものコーナーを回る。これが限りなく繰り返される。見通しが利く所では、延々と続く山麓の林道に蟻のように小さく動いているランナーの姿が見える。あそこまで行くのか、あんな所まで上るのかと挫けそうになる。周りのランナーに合わせるように上りは歩いた。歩きの遅れを取り戻すために下りを飛ばす。これが良くなかった。下りで脚を酷使したことで脚は終わりかけ、心も折れかけていた。おまけに雨が降ってきた。細かい雨ならミストというように軽く捉えることができるが本降りになった。体が冷え始める。辛い、辛いと超ネガティヴモードになり始めていた。泣きたくなる位に疲労困憊していた。こんなんでサブ14出来るのか?折れかけた気持ちを何とか奮い立たせる。何しにお前はここに来たのか?サブ14をやるんだろ!諦めて目標未達で終わらせるのか?自分に負けて悔しくないのか?チームメイトに公言していただろ!応援してくれた人たちにどの面下げて会うのか?ここが頑張り所だろ!諦めるな!何度も自問自答を繰り返した。
第二関門には、8時間58分着。計画に対して15分の貯金。区間タイムは4時間28分。なんとか計画に対して7分遅れでこの区間を凌いだ。ここでスタート時に預けたドロップバッグを受け取ることができる。雨の中、ゆっくりと休むこともできず、急いで補給食や不要となったライトなどをバックパックに入れ替え、携帯していたレインウェアの上着のみを着た。ドロップバッグに入れていたコーラとレッドブルを数口飲んでリフレッシュする。食欲は湧かなかった。カステラなどの固形物はドロップバッグに入れたままにした。代わりに食べやすいウェーダーインゼリーとフルーツゼリーだけを取る。合わせて380kcal超の補給となった。トイレの列待ち中に到着したばかりのトレイル鳥羽のサクさんに出会う。彼もサブ14を目指すラン仲間の1人だ。ラン仲間に会った安堵感からか「脚が終わった。キツイっす!」と思わず、弱音を吐いてしまった。「みんな下りを飛ばし過ぎだよ、それだと足が終わるよね」とサクさんから言われた。全くもってその通り、あなたは正しい。一度ネガティヴな意識に囚われた窮地を脱するには、こうした一言が切っ掛けになる。
残り34km、計画では4時間47分。まだ15分の貯金はあるものの決して安心できるアドバンテージではない。気持ちを切り替える。ここからは上りも走れる限り走り、下りはペースを押さえて走る方法を取ることに決めた。上りを走るといっても足に疲れが溜まり思うように走れないため、あのコーナーのミラーまで走り、その後あの木や岩まで歩こうと決め、まるで短いインターバル走を繰り返しながら上る。これで走りのリズムを取り戻した。下りで足を温存しつつ、オーバーペースとなることなく淡々と次の関門目指して進む。ランナーを何人かパスする。「リズム!リズム!1、2、1、2、右、左、右、左、頑張れ!頑張れ!」と自然と言葉を発していた。少しずつでも前に前にと進むのみ。この区間は最も集中力が高まった。超長距離レースでは必ず復活する時があるが、正にそれがこの区間で起きた。
第三関門の81km地点には、10時間59分着。計画に対して25分まで貯金を増やした。区間タイムは2時間01分。エイドでは特製そうめんをいただいた。甘ったるいジェルを1時間毎に取り続けて、飽きていたので塩っぱい麺汁が美味かった。ここからは上りを2つ経て、後は下りのみとなる。例のインターバル走で進むが先程までの走りに粘りはない。最後の下りには脚はもうほとんど残っていなかった。サブ14の目標達成が見えていたから安心してしまい、完全に集中力も途絶えた。最後のロード区間も走りと歩きを繰り返す。松原スポーツ公園の大きな屋根が見えて来た。もう少しだ。ラスト1kmの表示。軽い上りなのに辛い。それを何とか凌ぎ、遂にフィニッシュを迎えた。リザルトは13時間34分18秒。目標としていた14時間以内の完走をやり遂げた。同レースの100マイルへの挑戦権を得ることができた。ただ、目標を達成した嬉しさよりも苦しさから解放された安堵感の方が大きかった。
自身2回目のこのレース、今回もやはり辛くて、何度も挫けそうになった。何とか持ち堪えられたのは、サブ14を成し遂げたいという思いをかろうじて切らさなかったからだと思う。目標タイムを目指して、プッシュし続けなければならないのは辛いものがあった。完走時に感じた安堵感も、目標タイムのプレッシャーから解放されたからだと思っている。とは言っても、辛さや苦しさをなんとかして乗り越えていくのが楽しいから、この超長距離の競技にのめり込んでいるんですけどね。さらに鍛え直して、来年は念願の同レースの100マイルにチャレンジします。大会関係者や出場者の皆さん、素敵な思い出をありがとうございました。来年も宜しくお願いいたします。