「欲しいけど世の中にはないので、自分たちで作る」
MMAを始めたきっかけのひとつで、最初に「これは欲しい」と思っていたのが、杢グレーのアクティビティウェアだった。
杢(もく)とはスウェットなどに使われる霜降りのように見える生地のこと。特にグレー系は多くのアイテムに使われているポピュラーな素材なので、持っている方も多いと思う。いわゆる「先染め」と呼ばれる製法で、糸を先に染めて、その糸で生地を織ることにより、独特で味わい深い表情を持つ生地が生まれる。
しかし、アクティビティシーンで杢グレーを目にする機会はほとんどない。
デイリーウェアには綿が多く使われるが、アクティビティ用のウェアは速乾機能などを持たせるため、ポリエステルをはじめとした化繊が使われる。アクティビティシーンで杢グレーを見ないのは、ポリエステルでは先染めをほとんど行わないからだ(一部のグローバルブランドでは綿混紡などで作っていることもある)。
2014年にCOOLMAX®にデニムをプリントしたランニングパンツを作った。「デニムがプリント出来るなら、杢グレーのスウェット生地もプリント出来るのでは?」と思い、試してみたところ、想像以上の素材感!
離れて見れば厚みのありそうな素材感だが、実際に着用すれば軽量で薄いCOOLMAX®。さらに速乾機能も備えている。見た目と着用感のギャップも面白い。
80年代のスウェット生地をスキャンしてデータを作り、COOLMAX®の生地に全面昇華転写プリントしている。おそらく世界で数少ない、ポリエステル100%の杢グレーである。COOLMAX®では間違いなく世界で唯一。ただし、プリント。
プリントする意味は?と問われれば、機能性が高まるわけではない。手間もかかる。でも、世の中が無意味や無駄と思うところに遊び心がある。だから世界で唯一。そうした作り手の遊び心が、使っていただくみなさまに伝わればと思っている。
Tシャツは一見オーソドックスな作りだが、袖に小物の入るポケットを装備し、脇にはフラットな縫い目でマチを作っている。Tシャツではあまり見られないディティールであるが、スウェットシャツをモチーフにしている。
ボトムスはメンズ、ウィメンズと形を分けている。メンズはガゼット部分に伸縮性と速乾性の高いメッシュで切り返し、サイドにスリットを入れることにより足の可動域を広めている。ポケットはフロントに2つ、背部に3つ装備し、日常使いにも対応する。
ウィメンズは丈短めで、サイドに浅めのスリット。背部に2つのポケットを備えたカバーを付け、白いパイピングがアクセントとなっている。背部センターには隠しポケット、フロントにも2つのポケットを装備し、デザインを損なわないように使い勝手を高めている。
近年、成熟したファッションシーンは「スポーツミックス」をうたい、また日常的にスポーツを楽しむ人々が増えたことから「デイリーとアクティビティをシームレスにつなぐ」という言葉もよく聞かれる。ならば、MMAのスウェットプリントこそ究極のシームレスだ。
アクティビティウェアを普段着として使う人、そしてデイリーウェアをアクティビティで使う人は少ないだろう。でも、MMAのスウェットプリントは普段着に使えるし、そのままの格好でアクティビティを楽しむことだって出来る。旅先では荷物を減らせるし、洗っても乾燥が早い。無駄から生まれる合理性、そして、すべてのシーンで違和感を感じさせないオーセンティックなデザイン。
デイリーとアクティビティをシームレスにつなぐ。実はMMAのテーマでもあり、その理想に限りなく近いアイテムが生まれた。
MMA Director 渋井勇一