先日、蚊取り線香塾で奥穂高岳登山に行ってきた。
ルートは蚊取り線香氏のアレンジで、初日は上高地から岳沢経由で前穂高岳、奥穂高岳と縦走。穂高岳山荘でテント泊し、二日目は涸沢経由で下山。メンバーは蚊取り線香氏、ぼく、蚊取り線香塾生の佐藤さん御夫妻の4名。蚊取り線香氏以外は登山初心者レベルである。
トレッキング愛好者でにぎわう上高地。
今回はトレイルランではなく登山。テント泊なので参加メンバーは40L以上のザックに荷物一杯。
奥穂高岳はガイドブックでは登山上級者向け。一部危険な場所があり、慎重さが求められる。
北アルプスならではのダイナミックな景観!
前穂高岳山頂。今回のウェアはMMA上下、シューズはALTRA。トレッキングシューズも所有しているが、今回はトレイルランシューズを選択。個人的にはどちらが正解ということはなく、各々メリットデメリットがあるが、自身の経験からベストの選択をすることがよいと思う。
前穂高岳から奥穂高岳への吊尾根は、踏みはずせば命に関わる場所が何カ所かある。雨も降ってきたので、浮き石ではないか、荷重は乗っているか、滑らないかと、一歩一歩確認しながら慎重に進む。
奥穂高岳山頂!
穂高岳山荘に下る。目的地が目の前とはいえ、焦ると危険な場所。
到着。混雑気味のテント場にテントを張る。緊張感も解け、一息ついての夕食も楽しい。ゆっくりとした時間を味わう贅沢さは、トレイルランとは異なる喜び。
陽が沈む。
陽が登る。
翌日は涸沢から下山。
上高地に戻る。バスターミナル二階のレストラン前に並ぶザックは、無事に戻った証。距離:約33km/累積標高:約2200m。楽しい山行だった。
最近、トレイルランナーの事故の話を耳にする。おそらく、そういう事故はこれまでも起きていて、表面化していないだけだったのかもしれない。
最近のトレイルランの流れとして、エクストリームな挑戦が勲章のように思われているように感じる。たしかに挑戦がもたらしてくれる喜びは大きいし、第三者から見てもすごいことではあるけれど、ぼくらが相手にしているひとつは山。
トレイルに近しい方に話を聞くと、山の危険やリスクを知らないトレイルランナーが増えてきていることに危惧を感じていることが多い。縦走経験がなく地図読みが出来ないのにテクニカルなレースにエントリーしたり、無理な行程でのソロピストンにチャレンジしたり。
トレイルランナーは走力があるので通常の方ではいけない距離やルートを進むことが出来る。でもそれは大前提として「何もなければ」の話なのかもしれない。天候の崩れ、自身の怪我、道迷い。いざという時の対策を準備できているだろうか。そして装備を持っているだろうか。ひとつでも欠ければ、例え低山であっても命に関わるかもしれない。
蚊取り線香氏は元アルピニストであり、教えてくれる技術や知識は「安全のため」という視点に基づいている。足の置き方、休憩の仕方、はしごの登り方、ザックの置き方、テントを張る場所 etc. すべてが安全に帰るための必要な知識である。「安全」。その意識がぼくらトレイルランナーには欠けてはいないだろうか。
ぼくはトレイルランに出会って、登山をするようになった。ぼくと同じような方も少なくないだろう。まだまだ技術も知識も初心者並みではあるが、もっともっと山の知識や経験を増やすことは大切だと感じている。前述のように、ぼくらが相手にしているのは山であり、山では何が起こるかわからないのだ。ぼくらトレイルランナーは、真摯に山に向き合う時期に来ているのかもしれない。
そして、もうひとつの相手は自分自身。アドレナリンにだまされることなく、常に自分の経験値やコンディションを理解した上での挑戦が、楽しくトレイルランを続けることにつながると思う。疲れたら休む、戻る、止める。山での大切な判断である。
トレイルランは楽しい。でもそれは健康に取り組み、笑顔で仲間や家族の待つ場所に戻ることが大前提。ぼくはトレイルランが好きだから、自分のペースで長く愛好したいし、みなさまにもそうあって欲しいと思っています。
Mountain Martial Arts
渋井勇一