これから本格的なトレランシーズン。トレイルを走るには気持ちよい季節で、大きなレースも毎月開催が予定されています。でも、気がつかない間についつい無理して走り込んでしまってはいませんか。疲れを貯めてしまっては故障の元。世界のセバスチャン選手も「メンタルが7割」と言っています。たまには身体を休めて気持ちのトレーニング、読書などはいかがでしょうか。
そんなあなたにMMAブロガーがお薦めの本を紹介致します。
kyow(あらよっと大作戦)
「ニッポン百名山よじ登り」
著/クレイグ・マクラクラン
小学館文庫※絶版
「百名山を100日で登る(移動込み)」に挑戦したニュージーランド人の道中記。
百名山といえば何年もかけて制覇するという目標だけど、作者は78日で百名山全登頂に成功している。
スタイルは、ギアなんか気にせず、悪天候や午後だろうが頂上目指して、ひたすら短パン&Tシャツで「よじ登り」「駆け下りる」。
山を降りれば、汗臭い車に飛び乗り、パートナーと悪態を言い合い、融通の利かない役人(通称:ボブ)をからかい、焼肉食べ放題レストランと風呂を探し、次の山を目指す。
トレランのメリットは、宿泊が必要な山行程でも走れば日帰りできること。歩くよりもっと遠くへ、高いところへいけることだ。
1999年発行の本書。トレランなんて競技が一般的でなかった時代に、やってることはまさにトレラン。百名山を100日≒100マイルを46時間。普通の人にしてみればクレイジーな挑戦だ。
shin(世界の斜走から)
「100km!」
著/片川優子
講談社
「これだけ歩いたのに。一時間も、休憩なしで、しかもかなり速く歩いたつもりだったのに、進んだのはたったの2キロだっていうの?」
親戚が勝手に申し込んだ100kmウォーク大会。軽い気持ちでスタートした高校生みちるは遥かな先の道のりを思って途方に暮れつつ、ただただ歩く。災害で100キロ歩くことになったらもう死にたいとさえ思うだろうと考えながら。
「ありえないってまじで…」
大会に実際に参加して「身体にガタがきたあとの極限状態で学び、考えて起こる思考の転換」に衝撃を受けたという筆者が思わず書き下ろしたという作品です。
何度も参加しているという知らないおじさんに話しかけられ、「真意が読めず、どういう態度をとればいいのかわからなかった。」と戸惑う初心者の気持ちわかりますよね。そんなおじさんにエイドで再開し、「嬉しくて泣きそうになった。昨日のこの時間にはまだ他人だった、数時間いっしょに歩いた人と再び出会えただけだというのに。」という経験も。
頑張ったことなんて一度もなかった普通の高校生が普通じゃない距離を歩きながら成長し、覚悟を決めていく30時間の旅物語。
野々山 正章(THE THINKER)
「GIANT KILLING」
著/綱本将也、ツジトモ
講談社
知っていらっしゃる方も多いかと思われますが、サッカー漫画しかも監督が主役の漫画です。監督が主役とはいえ、選手、チーム運営会社内、サポーターなど、あるチームで起ることの群像劇です。スポーツ漫画なので、選手の成長だったり葛藤だったりはもちろん読み応えあるのですが、選手以外のチームを取り巻く人々の感情なども色濃く描かれているのがこの漫画の特徴だなと思っています。
僕自身、実はサッカーを見に行くのが好きで、京都は西京極陸上競技場まで走って行って、地元のチーム、京都サンガF.C.を応援するのも、山に行く頻度と同じくらい行ってます。ちなみに、2017年からは亀岡市に新スタジアムができるので、京都市内からトレイルを走ってサッカー見に行けますw
トレイルランニングでも、スタート時やエイド、沿道などで応援してもらうと嬉しかったり、名言「一人で走ってるんじゃねーんだぞ!」以来、強く思うのですが、個人スポーツですが、レース時には、選手はもちろん、運営の方の思い、ボラの人、応援しにきた人、色々な人々の思いが渦巻いているなと感じます。レースじゃなくても、山岳のスポーツですから、無事の帰りを祈っている人がいるわけで、やはり「一人で走って」は居ないと感じています。
劇中の好きなコトバに、主役の監督が、調子の上がらないフォワードの選手に「お前にとってそのボールって何だ? チームのボールか? お前のボールか?」と問うシーンがあります。少年漫画なら、「チームのボール」が正解なのかな?と思うのですが、監督は
「チームのボールとわかった上で自分のボールと思い込める度胸がある」
「味方の想いを背負い切って自分のためにプレーできるかそれがエゴイスティックなフォワードとしての決心だよ」
「そういうフォワードは強いよ」
「一人で走って」はないけれども、山を走る分、より孤独や独りが強調されてしまう時もあるトレイルランニングにおいても、そんなメンタリティーが必要な時もあるのかな?と思う時もあったりします。
GIANT KILLINGでは、スポーツに関わる人のメンタリティーが上手に描かれていて、京都サンガF.C.応援したくなるキモチも強くなるのですが(笑)、それ以上に、市民トレイルランナーとして、僕自身が、がんばりたいキモチや、友人を応援したいキモチ、トレイルランニングを取り巻く状況への思いなんかが渦巻いてきて、外にとびだして走りに行きたくなります。
スロー&ネイチャーな感じとはちょっと違いますが、もう少し熱く走ってみたい時にオススメの一冊です。
百戸 大(裸のサル)
「信念 東浦奈良男 一万日連続登山への挑戦」
著/吉田智彦
山と渓谷社
東浦奈良男さんという男は、定年退職した翌日から毎日登山を始める。
それは一万日連続登山という途方も無く壮大な目標に向かって、雨の日も風の日も嵐の日も、ひき逃げに遭って大怪我をしても、27年間にもわたってその山行は続けられた。
この本は、彼が毎日欠かさず記録し続けた日記を抜粋し、そこに著者の解説と併せて東浦奈良男という修行者の様であり、鬼神の様であり、聖なる者の様に迷いが無く、思春期の少年の様に迷いに満ちた男を浮き彫りにする。
本物の山ヤとは彼の男の様な者を謂うのかも知れない。とにかくストイック!
食事やギアも、全て経験から編み出された独自のものであるのが興味深い。
渋井 勇一(文系ランナーZ)
「昭和不良写真館」
著/百瀬 博教
ワック株式会社
「現代思想臨時増刊号 プロレス」
青土社
先に書いておきますが、両方ともトレランの話もランニングの話も山の話もまったく出てきません。
ご存知の方もいると思いますが、百瀬さんは「PRIDEの怪人」と呼ばれた作家で、ぼくは会社員時代のお世話になったことがあった。お世話になったといっても、PRIDE大会後のパーティーや格闘家の方々との食事に誘っていただいたりしたくらいなのだが、それまで平凡な会社員であった自分にとってはとても刺激的だった。百瀬さんの行動力、ネットワーク、すべて桁外れであり、「世の中はこんなに広く、こんなにすごい人たちがいる!」ということを教えていただいた。
プロレスには目に見える世界だけでは語れない奥深さがある。リング上の技や攻防だけではなく、プロレスラーの心理、ストーリーの流れ、そしてリアルな部分という行間を読んでいく楽しさ。純粋な競技ではない存在だからこそ、その行間が多く、多くの文化人がその魅力にはまってしまうのだ。
トレランに心が惹かれる理由のひとつに、「どんな景色が待っているのだろう」「自分はどうなってしまうのだろう」という未知の喜びに対するわくわく感がある。世の中は広く、まだまだ知らない喜びは多い。そして、山を走るという行為は、競技とは異なる多角的な喜びを多く含んでいる。Mountain Martial Artsというブランド名もハイブリッド(雑種)、つまり他のカテゴリーの喜びもどんどん取り込んでいきたいというクロスカテゴリーな発想につながっている。
そんな自分の考え方を育ててくれた二冊、というか百瀬さん&プロレスという存在です。