アメリカの100マイルレース「San Diego 100 mile endurance run」に日本人として初めて参加したSHINさん。過酷な暑さや怪我といったトラブルに見舞われながら、ひたすら前に進みます。果たしてゴール出来るのか!
前編はコチラ。
80km地点のSunriseエイドではMiekoさんが迎えてくれました。又聞きで私の参加を知ったという現地在住のウルトラランナー。Koheiさんとも久しぶりに一緒に。
この時点で32時間完走ギリギリペースは相変わらず。100kmからと言われる100マイルレースにおいて80kmでこの疲労度を考えると完走を絶望視せざるを得ないが、物事はやめると決めるのにもパワーが必要でそのパワーもない。何も考えずに着替えだけ済まして暗くなったコースに戻る。かなり地味なDNFが頭をよぎる。
日の入り直後とあって心地よい気温になった。靴も履き替えてリフレッシュ出来たのかスピードが若干上がる。まだ残り半分あるのにランナーズハイになったようで足の痛みも和らいでいる。 次のエイドまでで完走ギリギリペースに対して一気に45分の貯金を作るハイペース。
このハイペースで体が温まってしまったので大きなミスをする。「必ずピックアップ」と決めていた長袖を持たずにエイドを出発してしまう。日中の暑さの余韻もあり、まさか凍えるなどという状況を想像出来なかったのだ。寒くなればなるほどいいとさえ思っていた。
115kmのSweetwater エイドに向かってスタートした瞬間から走るスピードも気温も急激に落ちてきた。Tシャツ1枚で走っているが気温は明らかに一桁前半。かなり強い風を真正面から受けて心臓が止まりそうなぐらい寒い。眠気にも襲われて命の危険を感じる。時々ふと暖かさを感じる瞬間があるのが不思議だ。冥土の迎えかと思った。
GPSの距離計測はすでに当てにならないほどずれているので時間だけを頼りにしていた。そろそろSweerwaterについてもおかしくなさそうだなと思ったところ大きな歓声が聞こえてきた。ライトが動いている。どうやら私のヘッドライトの光に気づいて私に向かって歓声が上がっているようだ。ヘッドライトをとって振るとさらに大きな歓声が聞こえた。人に会えるというのがこんなにも嬉しいことなのか。
半袖で到着した私を「クレイジーだ」といいながら椅子にすわらせてくれる。救護スペースにはストーブの前で毛布にくるまって震えているランナーがたくさんいた。スタッフは「長袖は持っていないのか?」「ペーサーはいないのか?」と口々に心配してくれた。日本人の方がいらっしゃって声をかけてくれた。
とにかく体を温めないとと思い、スープを飲んでストーブに近づいた。身体が固まって動けない。が、結局ストーブで温めても無駄。動いて心拍を上げるのが一番だと判断して出発した。「San Diegoの夜が意外と寒くてDNF」はさすがに笑いをとれない地味さだという思いが私を前に進ませる。
Sweetwaterを出発後も寒さは変わらなかった。コースプロフィールでは急な上りだったので山の中に入ることを期待していたのだが、草原の中を進んでいる。Sweetwaterに戻って夜明けを待つことを考えるが疲労時に「戻る」という選択肢は敬遠してしまうのはよくある話。振り返るとここが一番危険だったといえる寒さとの地味な戦い。Tシャツ一枚で止まったら死ぬんではないかという恐怖心が足を動かした。何も考えず前に進む。とにかく日中の暑さが懐かしい。
2度目のSunriseエイド128km地点に到着するころには空が明るくなってきた。遠くに見えるエイドでMiekoさんが手を振っている。
「助かった」
何も考えずスピードを上げてきたので体全体が疲労で動きにくく、痛めた右足も痺れていた。
Miekoさんは靴下を脱がしてくれたところ痛めていた右足小指は紫に変色していた。すぐにメディカルを呼んでくれた。素人目にも分かったが骨折という診断。まず「これでやめる理由が見つかった」と考えた。あと32kmだが、すでに日の出目前。スタートからの32kmのあの灼熱地獄を思い出すと到底耐えられるとは思えない。良い機会だ。
なんだか気が楽になって記念写真を撮ってもらった。
メディカルが色々持って戻ってきた。小指側に体重がかからないように固定しようと言い出している。抵抗したり議論したりする余裕はない。なされるがまま治療を受ける。まあ骨折して完走も盛り上がっていいか。楽しむ勇気が大事って孔子だか孟子も言ってたっけ。
ここでHOKAに履き替えてみるとかなり楽に走れる感がある。「歩いて完走」など出来ないのがこのレースの大変な所なのだと今更ながら理解した。
去年初めての100マイルとしてこのレースを走ったというエイドスタッフが話しかけてきた。
「何も考えずに足元をしっかりみて走り続けろ。意味を考えるのはゴールしてからでいい。転ばないように走ることにだけ集中しろ!」
Miekoさんにも「ゴールで会おう」と送り出された。経験豊富なウルトラランナーはわかっているのだろう。自分一人ではドロップしてしまいそうになる気持ちを。
次のセクションでは一気に気温が上がった。ひたすら岩山を上り続ける。再びアンザボレゴ砂漠が見えるがもはや感動はない。先ほどのエイドスタッフの言葉の意味がわかった。踏み外すと命はないであろう崖の淵を走り続けた。
一気に気温が高くなり日陰のない岩山を進む。前のエイドでipodをピックアップしていたが、光GENJIの「太陽がいっぱい」が流れてきたタイミングで電源を切った。
残り20km地点のエイドにはかなりのハイペースで到着。30時間を切るペースになった。ここでSweetwaterのエイドスタッフと再会する。
「夜にあった時ボロボロだったけど、今も変わってない。普通は悪化してるぜ。お前は耐える力があるってことだ。頑張れ!」
アドレナリンが出たのかペースをキープして残り12km地点のエイドに到着する。気温は上がりボロボロだった。コースプロフィールを見ると次のセクションはかなり大きな上りが続く。もう歩いてもいいのではないか。そんな気がした時だった。
「おい、次が最後の頑張りどころだ。ペーサー紹介するから走り続けろ!」
というわけで登場したカンナムスタイルなペーサーと一緒に最後のセクションにアタックし始める。
「コース知ってるか?」
「知らない」
「あれ登るんだよ」
まじ?気絶しそうになるぐらいデカイ山だよ。
「うそうそ!こっちのちっちゃい方!びっくりした?」
涙が出た。
まさか無理だろうと思っていた完走が見えてきた。そんな感慨にふける暇を与えないスピードをペーサーが要求してくる。
「俺の友達のグッドランナーはみんなドロップした。お前は走ってる。お前は強い。走り続けろ。」
見た目に反した浪花節で励ましてくれました。
ゴール直前のエイドでは座った瞬間に氷水を頭からぶっかけてきた。コース上にはあまりランナーも残っていないらしくエイドスタッフも総出で励ましてくれた。
最後の6kmは下り基調。広大なキャンプ場に入ると人の姿も見えてくる。「Good job!」通りがかりのキャンパーが声をかけてくれる。 突如ペーサーが歩き始める。
「クールダウンしよう」
歩きながら通りがかる人たちに 「こいつは日本から来て100マイル走り切ったんだ」 と紹介してくれている。
歓声が上がるので応える。
「ゴールできるぞ。どうだ?興奮してるか?」
気の利いた返答は出来ないので頷くのみ。
「今は辛いだろうけどゴールして何日かしたら何かを得たって気づくんだ。だからまた100マイルレースに出ようって思うよ。」
気の利いた返答は出来ないので頷くのみ。
「この先がゴールだ。走っていけ。」
こういうのってペーサーと一緒にゴールかと思っていましたが、ペーサーはコースを外れて手を振っている。声をかける余裕もなく前に進んで角を曲がるとゴールと大歓声が迎えてくれた。
RDのScottが抱きかかえてくれる。
「どうだ?好きになれそうか?」
初めての100マイル挑戦者の気持ちを分かっているような質問で出迎えてくれた。
「う〜ん…一応、Yes.」
私の気持ちを見透かしたようにゴール地点の経験豊かな観客たちは爆笑していた。
ファッショナブルなペーサー。アメリカのシャツランは進んでます。
豪華なフィニッシャーズバッグ。パーカーはその日の夜には早速着用。
序盤のケガで思うように走れない時間が長く、正直イライラしましたが、それでもやめなかったことでランナーとして得たものは大きかったような気がします。
また、異国の地でこんなにも1人で走ってるんじゃないという想いになったのは初めてでした。現地で出会った人たちの顔がはっきりと思い出されます。日本やヨーロッパのビッグレースとは違った楽しさがあります。
密かに次のレースをピックアップしてます。英語もしっかり勉強始めました! では。次回は本気出してこれぐらい元気にゴールします!!