昨年まで書けなかったテーマがいくつかある。外資系スポーツアパレルの仕事をしていたので、会社との利益相反や、部分的に切り取られて炎上するリスクも考慮して、自社、あるいは他社の製品や活動に関しての記述はひかえてきた。今は自由な立場なのでいくつか書いてみようと思う。
「ぱー◯X△!!?*&?ド」
「は?」
「ぱーふる△!!?*&?ド」
「え?」
いや、もういいです(笑)PFCs =パー・フルオル・コンパウンド(カーボン)= フッ素化合物の総称
(最初から日本語で言えよ!)
焦げ付かないフライパンの加工名称の中で聞いたことがある響きでしょう。そのPFCがなんかよろしくないらしいけど詳しくは知らない。なぜなら日本ではまだ規制されていませんし、欧米でビジネスをしている民間企業が、その削減に取り組んではいるものの、上記に書いたように、学術的な用語定義が化合物の「総称」であるため、どのPFCが人体に影響があるのか、どれが無いのか?PFCフリーと表現した場合、その定義が曖昧(残留物としてなのか、製造過程も含めてなのかという点でも)であること、そして未だ繊維業界として完全に解決できていないために、企業がPRとして打ち出しにくいということに起因しているかもしれません。
ざっくり言うと…
自然界でなかなか分解せず、食物連鎖を通じて地球上をぐるぐるまわって、北極のくまさんからも、そして我々人間の血液からも検出されてしまう物質、PFCsの1つ、PFOA =C8 が長年にわたって、DWRと呼ばれる耐久撥水加工(表面が水玉になるやつね)と、PTFEという透湿防水素材に使用されるメンブレーン(あの内側の薄い透湿皮膜ね)の製造過程で加工補助剤として使用されてきたということ。トレイルランナーならば、メンブレーンが外部から水の侵入を防いでも、表生地の撥水が効かないと表生地が濡れてしまい、体温が奪われ、そしてメンブレーンの透湿をブロックしてしまい、内側が結露し、さらに体温が奪われるという悪循環に陥るのは知っていることでしょう。
C8 ?? なんかわからないけど、それは結構やばいんじゃないのか?ということで、素材メーカー、アウトドアブランド、そしてH&Mやユニクロといったグローバル展開をするファストファッションブランドが、DWR加工において2016年頃からC8を、結合の鎖が短い、つまりもう少し分解しやすい、C6に切り替えた。それまで、C6のDWRは撥水力の耐久性が落ちるとされてきたが、この2016年時点で、気づいた人はいるだろうか?あまりいないのでは?気づいていたとしても許容できる範囲だったのだと思う。
わかりやすい具体例として、
を読んでみてください。
ここまでは、めでたしめでたしですね。ではもう少し話を進めよう。
「プリ◯X△!!?*&?$ル」
「は?」
「プリ◯X△!!?*&?$ル」
「プリプリ?」
いや、もういいです(笑)Precautional Principle = プリコーショナル・プリンシパル=予防原則
(最初から日本語で言えよ!)
というものがある。科学的な検証の確立を待たず、将来に良くないことがあると予見されるものは使用を避けるというもの。この予防原則に従うと、実はC6もやばいんじゃないか?ということになる。実際にC6が人間の肺から、C4は脳から検出されたレポートがある。科学者たちにとって、この予防原則は少しやっかいだ。なにせ立証を信条とする科学者にとっては非科学的なのだから。一方、世界最大の国際環境NGO、Greenpeace (グリーンピース)はこの予防原則に従って目標を定めている。このことが、環境対策、あるいはそれによって左右する株価を意識するような欧米企業に大きな影響を与えていることは間違いない。
さきほどの2016年から、少し時間を進めると、この2018年の秋というのが1つのターニングポイントだ。なぜなら透湿防水素材の最大手、GORE TEX社が2018年秋冬向けの製品からC6をも使用しないPFCフリーのDWR加工を市場に投入するからだ。
ーーーーーー 以下、ジャパンゴアテックス社の公式サイトより抜粋ーーーー
2016年、ゴアは新しい耐久撥水(DWR)加工を提供する計画を発表しました。DWR の新工程から環境への影響に懸念のあるPFCを除去します。新しい撥水剤は、一般的なアウトドア活動や現在使われている短鎖 PFC 系撥水剤が持つ性能や耐久性能をそこまで必要としない活動(日中のハイキングやリフト利用のスキー)のエンドユーザー向けにデザインされます。新しい加工を施した初の製品は、2018年秋冬シーズンからの店頭に並ぶ予定です。
ーーーーーーーーー 抜粋ここまで ーーーーーーーー
(短鎖PFC = 現行のC6のこと)
すでにいくつかのブランドがC6を含むPFCを使用しないDWR加工(フッ素化ではなくシリコン系)に切り替えることを宣言している。アウトドアブランドよりもファッションブランドの方が積極的に公表しているようだ。そこまでの撥水性能の耐久性を必要としないという前提があるからでしょう。
「でも、DWR加工はいいけれど、メンブレーン(透湿防水の薄い皮膜加工)はどうなの?」という疑問は残るでしょう。
GORE TEX社、およびジャパンゴアテックス社のオフィシャルサイトではPTFEメンブレーンの安全性と優れた耐久性を説明している。耐久性が優れているということは、商品の買い替えサイクルも長くなり、環境負荷も減るという考え方です。そしてPTFE自体に残留するC8は皆無であるから、廃棄の際もC8の元になることはないと説明しています。確かにそうです。耐久性から得られる環境負荷軽減の考え方はパタゴニア社とも一致しています。しかしながら、グリーンピースが問題視している製造過程でC8が使用されることに違いはないわけで、GORE TEX®️でもPFOA(C8)を製造過程で使用しないPTFEを開発しています。2018年の1月に更新されたGORE TEX社のサイトにある2018年報告(英文)では2017年の後半に、いくつかの技術的問題点を残しながらもプロトタイプができたとある。つまり、どこのブランドであっても今すぐに解決できる問題ではなく、時間を要するものなのです。
(PTFEではない、つまりPFCを使用しないポリウレタンメンブレーンには、東レのダーミザクス®️、エントラント®️などがあります。)
その時間とは…
ーーーーーー 以下、ジャパンゴアテックス社の公式サイトより抜粋ーーーー
2020年までに一般消費者向けに出荷される最終製品(ジャケット、靴、グローブ、アクセサリー)の約85%相当分のラミネートから、環境への影響に懸念のある PFC を除去します。
2021年から2023年の間に、エンドユーザーの求める性能要件を満たす製品の販売を続けつつ、残りの一般消費者向け最終製のラミネートからも PFC を除去します。
ーーーーーーーーーーーーーー抜粋ここまでーーーーーーーーーーーーー
2018年秋冬から投入されるPFCフリーのDWR加工は、環境意識の高い北欧系のスキーブランドに採用されています。トレイルランナーが着眼するような大きなブランドではまだ採用に至っていないようです。それらのブランドでは、数量が大きく、加工のキャパシティーや安定性に慎重にならざるを得ないからだろうと私は推測しています。逆に、MMAぐらいの規模のブランドですと、加工の最小ロットに届かないという現実もあります。
長く時間のかかる研究開発は、決して派手なパフォーマンスを持って登場し、瞬時に人々にメリット、そしてその企業に利潤をもたらすものばかりではありません。こういった目立たない、地道な研究開発もしっかりと見守っていきたいと思うのです。
私たちのできること。
今はまだ、特に日本においては、全く興味を持たれない話題です。メーカー側も売上げに直接つながるわけではなく、ともすれば、性能が落ちるかもしれないわけですから、できれば今はそっとしておいてほしいというのが本音でしょう。PFCフリーとして着目されているDWR加工はシリコン系なのですが、初期の撥水性はフッ素系(C6)と変わらずとも、防汚、防油性能で劣るとされ、そのことが結果として撥水力の耐久性に差がでると言われています。
レインウエアのメンテナンス用洗剤、撥水剤の代表的なものであるNIKWAXはPFCフリーです。このPFCフリー化がアウトドア産業界が避けて通れない宿命であるならば、ユーザーはその撥水性能の耐久性の限界を認め、メンテナンスでそれを補うことの重要性を知り、実践していくこと。小売店や有力選手はその啓蒙役として期待されるはずです。
もし仮に、2016年以前のゴアテックスや他の撥水、透湿防水素材のウエアを持っているランナー、クライマーでも、素材が肌に直接触れたところで、有害なものではありません。(そうでなければ、フライパンなんてもっとやばいでしょ)製造過程で使用されることと、廃棄の際に大気中に放出されることが問題なのですから、手入れをして撥水力を維持し、できるだけ長く着用することが、私たちにできることでもあるのです。2020年〜2023年にPFC フリーが当たり前になった時代にこのブログをもう一度読み、なにを感じるか、ちょっとした楽しみなのです。