ASO ROUND TRAIL 参戦記 前半
に続く後半。
AS3を出て、1km程ロードをアキちゃんとトレインで走っていた。スマートフォンをトイレに忘れたことに気付いた。痛恨の忘れ物。アキちゃんとのトレインを解消して取りに戻る。往復2km余分に走ってしまった。先は長い、焦ることはないと自分に言い聞かせた。
長いロード区間、牧場のあか牛が感情のない瞳で見つめている。牛には100km超を走る私たちはどんな風に見えているのだろうか?ウルトラジャンキー。超長距離中毒。超長距離を走り、過酷な状況を乗り越えた先にある感動や興奮に麻痺し、さらなる感動や興奮を求めようとより過酷なチャレンジを繰り返す者たち。常人には理解できない。イかれた人たち、私もその一人だ。
前方に、阿蘇五岳の一つ、根子岳が迫ってきた。最高点天狗峰の標高は1,433m。ギザギザの山容が実に荒々しい。自然が作り出した造形につい見とれてしまう。
暗くなる直前の18時57分に66.6km地点のAS4高森町町民体育館に到着。関門時間21時に対して2時間の貯金。ドロップバッグを受け取り、チームメイトと合流する。エマちゃんがマリコ様をペーサーと共にASを出る所だった。
食欲は回復していた。ミネストローネに塩むすびを入れて、カロリーと腹持ちを確保する。ドロップバッグに入れていた補給食を手早くバッグパックに入れ替える。夜間の気温低下と翌日の朝からの雨予報からレインパンツをバッグパックに入れた。
アキちゃんはペーサーのウタちゃんと出発する準備が終わりそうだった。一緒に行ってもいいかと聞いたらもちろんとの言葉。心細くなる夜間走。とても心強かった。
私、アキちゃん、ウタちゃんのRODメンバーの3人のトレインで74.1km地点のWS2の高森峠を目指す。7.5km先だ。すでに真っ暗、3人のヘッドライトだけが明かりだ。先を行くランナーのライトがこの先は登りと教えてくれる。ペーサー先行で引っ張ってもらう。アキちゃんにはあまり走りに力がない。眠気が来てるようだ。暗闇が距離感を狂わすのか7.5kmがとても長く辛く感じる。ようやく、高森峠に到着。時計は22時を過ぎていた。すでに15時間経過。
テントの中にいても、風が吹き込み、運動しないと急激に寒さを感じる。狭いテントの中、パイプ椅子に座り白湯を飲んで暖を取る。アキちゃんは寝ていくという。この先の気温低下、天候変化を読んでレインパンツを履いた。ストーブ横で毛布にくるまってすでに眠りに落ちたアキちゃんを置いてWSを出ることにした。「ゴールで待っている!」ウタちゃんと固い握手を交わした。
ここからは単独走。これからが正念場と気合いを入れ直す。84.8km地点のAS5清水峠を目指す。コースはアップダウンを繰り返しながら登り基調。初めてのコース、夜間で先が見えないから、メンタル面の維持が難しい。前後にランナーがばらけ、全くの一人の時間が増えてきた。マーキングの数は必要最低限。分岐では特にロストしないように慎重になった。今のところは眠気はない。カフェイン入りのジェルがきいている。
AS5清水峠にもう少しという所だった。記憶違いで地蔵峠だったかもしれない。先行するエマちゃん、マリコ様ペアとすれ違った。ピンポイントの再会。エマちゃんがハンガーノックだという。潰れかけのエマちゃんの顔が酷く、元気な時とのギャップがあり過ぎた。経験豊富なエマちゃんのことだからきっと復活するだろう。コース上で思わず出会う仲間からの言葉にモチベーションが上がった。
清水峠を発った。アップダウンのあるコースに疲れ果て、眠気もピークに達した。トレイル横に大の字になって10分程度目を閉じる。何名かのランナーから声を掛けられる。大丈夫です。寝ているだけです。
前後にランナーはいない。深夜の山の中、時より、眼下に街並みの明かりが見える。なんのために走っているのか?自分を変えたい。強くなりたいからだ。次のONTAKE100マイルの完走を目指しているんだろう。そうだ、目標がある。こんなんで完走出来るのか?負けるもんか、畜生!何度も自分を奮い立せる。夜間の山の中は自己と向き合う時間。嫌いではない。
走り、歩き、時に立ち止まり、横になった。それらを繰り返し97.7km地点AS6 地蔵峠に到着した。午前4時過ぎだった。
最後のASを発った。明るくなった頃、最後のボスキャラの俵山の手前でエマちゃん、マリコ様のペアに追いついた。再会を喜ぶ。エマちゃんは復活していた。やっぱり強いや、彼女は。二人共に、2週間前にUTMFを完走している。最高にイカれた彼女たち。すいません、間違えました。最高にイカした彼女たち。
俵山、200mの登りを堪えれば800mの下りのみと聞いていた。この最終区間が大苦戦だった。明け方からの雨でトレイルはぬかるんだ。俵山の手間のロープが掛かる激しい下り坂。その手前に渋滞が出来ていた。1人ずつロープを伝って降りている。下は見えないくらいにかなり下までロープが続いている。1人ずつ降りていたら何分も停滞することになる。前の人と相談し、2人ずついくことにした。あとにマリコ様、エマちゃんが続く。ロープがなければ降りられないのに、無謀にもロープを使わず滑り降りてくる人もいる。大騒ぎしながら難所をクリアした。俵山手前までは3人のトレインだったが、補給休憩を取る2人を残して、先行することにした。
俵山の急登を凌ぐ。ようやく俵山頂上に。あとは800m下るだけだ。もう安心と思っていたら、まだまだ難所は続いた。急坂は全て泥だらけの坂、ロープがない所では滑り落ちまくった。気がつけば、前も後ろも上も下も全身泥だらけになっていた。笑うしかない。
ゴールが近いのか、MCの声が聞こえてくる。雨のため霧が掛かり、下方がなかなか見えない。一体、どこまで下るのか?霧が切れて俵山交流館萌の里が見えたときはホッとした。最後はありったけのスピードでFINISH GATEのテープを切った。
記録25時間18分48秒、総合順位217位/622人中。
一昨年のOSJ KOUMI100マイル、昨年の野辺山ウルトラマラソン100km、OSJ ONTAKE100マイルと100km超のレースは情け無いことに3戦連続のDNFだった。連敗の悪循環を断ち切ることを目標に臨んだ今回のレース。自分に負けず、負け癖を解消出来たことが何よりも嬉しかった。完走し、少しだけ自信を取り戻すことが出来た。
仲間たちは、それぞれ感動のゴールを迎えた。長時間の中、三者三様のドラマがあったのだろう。ドラマがあれはあるほどに、ゴールの達成感や感動は大きなものになる。仲間の笑いあり涙ありの感動のゴールシーンを見ることが出来た。これがあるからやめられないのだろう。
最後に、ASO ROUND TRAILが世界に誇れるレースである理由は3つあると私は思う。
まず、一つ目は世界有数の規模を誇る外輪山をグルリと一周できること。阿蘇は東西約18km、南北が約25kmと広大な外輪山を有する。外輪山の内側に広がる平野部には約5万人の人々が活火山と共に生活している。その事実にまずは驚く。こんな特異性のある所をコースとしたレースは世界中探してもないだろう。
2つ目は、世界農業遺産や阿蘇ジオパークに認定された阿蘇地域の豊かな大自然を舞台としていること。特に火山活動がもたらした特徴的な地形を活かした牧場は長い年月を掛け、野焼きや採草、放牧を繰り返してきた1000年もの歴史がある。そう、阿蘇地域には自然だけでなく、自然と共に過ごしてきた歴史や文化もある。
3つ目はASO ROUND TRAILの大会理念。2016年4月14日に最大震度7の熊本地震が発生した。阿蘇地域には今なお、いたる所に地震の爪痕が残っている。大会理念はその阿蘇地域の大自然、文化、歴史の魅力をトレイルランニングを通じ、国内外に発信し新たな観光資源にすることで地域活性化を図ることだ。大会は地震で落ち込んだ観光客の新たな集客方法にもなる。日本国内に留まらず世界中からトレイルランナーを集める大会となり、大会理念の実現に繋げて欲しいと願う。世界に誇れる素晴らしい大会理念だと思う。
次回以降も大会理念に共感した沢山のトレイルランナーが集い、世界に誇れる素晴らしい大会に成長していくことを願っています。それが少しでも熊本地震の復興支援に繋がることを期待しています。一生忘ることのない位の素晴らしい思い出をありがとうございました。楽しかった、その一言だけです。
そして、最後に言っておきます。この大会、世界に誇れる位に最高です!