2013年3月18日、岩本町OnEdrop cafe.で開催された「『Are you BORN TO RUN?』#5 Copper Canyonにいってきた!」というイベントに参加した。
このイベントは、今年3月3日にメキシコのコッパーキャニオンという秘境で行われた“コッパーキャニオン・ウルトラマラソン”(今年から“ウルトラマラソン・カバーヨ・ブランコ”と名称変更/約50マイルのトレイルレース)に参加した日本人ランナー8名の報告会で、おそらくまだそれほど多くの日本人が参加してはいないであろうこのレース体験のフィードバックを聞ける貴重な機会である。
開催告知と共にあっという間に参加枠が埋まってしまったこのイベント。会場のOnEdrop cafe.に着くと、ぼくは若干の違和感を感じた。なんとなくいつものトレランイベントとは異なる雰囲気で、顔馴染みのトレイルランナーも少ない。この印象は、実はこの報告会の本質を理解すればすぐに分かることだった。
「UTMB、トルデジアンに参加する」という話は周りで耳にするが、「ウルトラマラソン・カバーヨ・ブランコに参加する」という話はあまり耳にしない。それどころか、恥ずかしながらぼくは今回始めてこのレースを知った。
刺さる人には猛烈に刺さり、そうではない人には知名度が低いこのレース。そのキーワードは「BORN TO RUN」である。全米でベストセラーとなり、世界中でも多くのランナーに影響を与えた「BORN TO RUN」。その物語の中でクライマックスの舞台となるのが、この秘境でのレースであるらしい。
「あるらしい」というのは、ぼくが「BORN TO RUN」を読んでいないからである。だからさっぱりこのレースのことを知らなかったのだ。冒頭で進行役の桑原慶さんが集まった参加者のみなさんに「「BORN TO RUN」を読んだことのある人?」と質問すると、会場の8割の人たちが手を挙げた。なるほど、この報告会は「レースの報告会」というよりは「BORN TO RUNのリアルな世界を知る会」なのだ。
今回の主役は上記の通りウルトラマラソン・カバーヨ・ブランコに参加した8名。桑原慶さん(Run boys! Run Girls!)、アンディさん、みどりさん、松田さん(onyourmark)、小松さん(OnEdrop cafe.)、山田さん(走る.jp)、半ちゃん、松島さん(以上、座っていた順です)と、かなり個性的な面々で、クロストーク式で行われた報告会は終始和やかな雰囲気の中で進められた。
参加されたご本人たちの素晴らしいレポートがonyourmarkとtrailrunner.jpに掲載されているので、MMAではいつものように個人的な印象をベースとしたレポートとさせていただきます。「BORN TO RUN」を読んでいないぼくのレポートは、読んでいる方からは「当たり前の話」「とんちんかんな話」などの印象もあるかもしれませんが、ご容赦ください。MMAレポートと銘打ってはいるものの、感想文みたいなものなのです。。。
onyourmark(松田さん)
sports traveling メキシコ コッパーキャニオン #01 無名のグリンゴが描いた夢のレース
sports traveling メキシコ コッパー・キャニオン #02 ララムリと出会う
sports travelling メキシコ コッパーキャニオン #03 灼熱の50マイルレースに挑む
trailrunner.jp(山田さん)
#1 ララムリの里、ウリケの町
#2 ピノーレの秘密とララムリの食事
ちなみに今回の参加メンバーの松島さんは(ご存知の方も多いと思いますが)「BORN TO RUN」の担当編集者で、「誰かにファンタジーとリアルのギャップを知られるのであれば、自分も参加したいと思った」と参加理由を語られていた。
報告会ではわかりやすく時系列順に
・レースの舞台となる街、ウリケに行くには
・ウリケはどういう街なのか
・レースウィークの体験
・現地での食事(特にピノーレについて)
・ウルトラマラソン・カバーヨ・ブランコはどういうレースなのか
・「BORN TO RUN」の登場人物であるタラウラマ族とは
・レースのコースや様子
など、時にはHOW TO的に、時には「BORN TO RUN」の中で描かれている内容と実際とのギャップ、そして裏話などを交えて進められた。「BORN TO RUN」を読んでいないぼくが面白く聞いていたくらいなので、読んでいたらたまらない内容だったことだろう。もちろんみなさんがトーク上手だとことは言うまでもない。
裏話としては、
・石川弘樹選手+今回の8名が参加した日本人ランナーと思われていたが、幻の10人目がいた!
・タラウラマの中でもウリケに近い場所に住む人たちはジーンズにスニーカー姿もいる
・レースでは折返し場所ごとにリストバンドをつけるのだが、それをトウモロコシに変えられる。そのため、完走目的ではないタラウラマも少なくない
・ロスモチスというメキシコの街から乗るチワワ太平洋鉄道が「世界の車窓」なみに素晴らしい
など、本当に経験しないとわからないエピソードが興味深かった。
聞いていて特に印象に残ったひとつがワラーチの話だった。ワラーチ自体、というよりも、大の大人(といったら失礼ですね)がワラーチについてとても楽しそうに語りあっているのが面白かったのだ。街で観光客用にワラーチを売っているメキシコ人を毎日訪ねた話(素材である古タイヤがなく在庫切れで、結局買えたのは山田さんだけだったらしい)、シューズを数足持って行ったのに、結局ワラーチでレースに出た小松さんの話、ワラーチを履いてスタートしたのに、途中で履き替えたアンディさんの話、レース中ワラーチの紐が何度も切れて苦労された山田さんの話。ワラーチだけでこんなにエピソードがある。
そしてもうひとつ印象的だったのが、「BORN TO RUN」の登場人物であるタラウラマの最強ランナーアルヌルフォやベアフッドテッド、ママ・ティタ、ルイス・エスコバーに会った話を興奮気味に話す姿。
そこには「このレースはここが辛かった」「ここで勝負をかけた」といった、トレランレースの報告会で聞けるような話は中心ではなく、あくまでも話の軸は「BORN TO RUN」だ。極端な表現かもしれないが、8人はレースに参加するためにではなく、「BORN TO RUN」の世界を追体験するためにメキシコの秘境まで足を運び、そして物語の中に入り込んだ。それは「BORN TO RUN」という物語が紡ぐ旅なのだと思った。そして、その旅がなによりも楽しく充実した時間だったことを8人の表情が物語っていた。
途中の休憩時、となりに座っていた女性に「トレランをやっているのですか」と尋ねると、トレランも未経験だし、走ってもいないとのことだった。ある意味でとてもマニアックなこの会に参加したのは、「面白そうだから」という理由だった。
それは今までのぼくにはなかった感覚だが、そうしたトレランへのアプローチもまた素晴らしいものだ。ぼくの好きなカテゴリーにはまだまだ奥深い楽しみ方がある。まずは「BORN TO RUN」を読んでみよう。新しい喜びが待っていそうである。
主催されたみなさま、貴重な話を聞かせていただきありがとうございました。また松田さんには素敵な写真をご提供いただきありがとうございました。
(文/渋井 勇一 現地での写真/松田 正臣)