世界中のトレイルランナーが注目する世界最高峰のトレイルランニングレース「Ultra-Trail du Mont-Blanc(UTMB)」がいよいよ今月末に開催される。
もはや一レースという存在を越えたトレイルランニングの一大祭り。毎年、世界トップレベルのランナーのみならず、多くの市民ランナーがドラマの登場人物となるべくフランスシャモニーに集う。近年は人気のために参加資格+抽選になっているが、狭き門をくぐり抜けた日本人トレイルランナーが今年も海を渡り、また、いつかは参加したいと思っているランナーも少なくないだろう。
MMAではこれまでUTMBの概要やシャモニーの街の様子を紹介してきたが、特集の最後として昨年参加した市民ランナーの手記を二回に分けて掲載しようと思う。
The North Face®が制作した2012UTMBのレポート映像「Get Ready For S3 EP10」は、必死の表情で疾走しゴールする日本人市民ランナーのシーンで終わる。「Amezing!」寺町健。MMAブロガーでもあり、国内の数々のトレイルランニングレースを完走し、昨年UTMBに初挑戦した。
ご存知の方も多いと思うが、2012年は悪天候のため、100マイルレースUTMBはコースが変更となり100kレースとなった。中止やコース変更など、毎年天候に左右されることも多いUTMBだが、おそらくそれもまたUTMBなのだ。参加者の経験を追体験することで、少しでもみなさまの参考になればと思う。
Amazing Summer 2012
UTMB2012を終えて(前編)
text by Takeshi Teramachi
UTMB2012から1週間が経ち、帰国した。今回の長い夏休みの日記、UTMBについて書き残しておきたいと思う。
UTMBまでの1週間をスイスのグリンデルワルド周辺で過ごすことにした。ここはユングフラウ、アイガー、メンヒを望むことが出来る場所だ。結果的に天気にも恵まれ最高のトレッキング三昧となった。
かなりリラックスした状態でシャモニーに戻り、心折れ部の仲間と合流した。このホテルはスタート会場からも近く、ベランダからの眺めも良く、さらにバスタブがついているという僕にとっては天国のようなホテルだった。昼間はみんなと一緒にモンブラン山群のトレッキング、夜になればUTMBに出るたくさんの友達と集まって夕食という楽しい日々を過ごして、大会を迎えた。
大会の前々日に受付を済ませ、ゼッケンをもらい、荷物チェックを受け、参加証明のリストバンドを腕につけてもらった。ここでかなり気が引き締まった。と同時に、日々天気予報をチェックし、その状況に合わせて装備などを検討していた。かなり寒く、雨や雪も降るとの予報が出ており、防寒対策をどこまでするか、重くならず寒さをしのげるギリギリを見極めていた。
僕が出場するUTMB168キロの前に、TDSという110キロほどのレースがある。このレースはUTMBより距離は短いが標高差があり、かつ制限時間が厳しいタイムレースだ。このレースのゴールを見に行き、選手の服装を確認した。すると、ほぼ全ての人が雨具の上下を着てゴールしており、かつシューズ、ズボンやザックも泥だらけ。かなり寒く何度も転倒しているようだった。
TDSに出場した友達の話しを聞いてみると、雪がひどく2000メートル以上は凍えそうなぐらい寒いとのことだった。トレイルもドロドロで何度も転んだと。想像を遥かに超える辛いレースだったと聞き、装備や服装などを再検討することにした。
大会側からも当初は最低3枚のレイヤリングという指示だったが、当初のウェアに1枚追加するようにアナウンスがきた。僕はユニクロのヒートテック長袖とダウンベストを追加し、ズボンに関しては何とかなるはずだとの予測から、追加はしないことにした。
いったん前日までにレース時に着る服装、デポのポイントに置くドロップバッグ、装備を入れたザックの準備を完了した。UTMBのスタートは31日の18時30分。CCCという100キロぐらいのレースが朝スタートする。心折れ部からもこのレースに4人が出場するため、お見送り。その後は、天気予報や大会アナウンスがアップデートされないかをチェックしながら、ゆっくりしたり、TDSのゴールを見に行ったりして過ごした。
すると、スタートの数時間前に100マイル(168キロ)ではなく100キロになり、フランス国内のみに変更すると言う情報が入って来た。大会主催者の公式発表ではなかったが、信頼度はかなり高い情報だった。それから、追加の情報を探しにいったり、UTMBに出る仲間と相談した。
公式に100キロになることがアナウンスされ、のちほどコースマップなどが発表されるとの事だったが、もうスタートまで時間がない。発表されてから準備していては間に合わない。
そこで、100キロになり、コースが変わることから、以下のことを予測した。
・デポ(ドロップバッグ)がなくなる(途中で着替えとか装備を置いておけなくなる)
・エイドが少なくなる
・制限時間や詳細なコースが不明なまま走ることになる
そのため、乾電池の予備を追加し、着替え用の靴下も追加した。エイドが少なくなるため、食料を増やし水も持つ量を増やした。分からないまま走るので、食料や水の不安を抱きながら走るのは嫌だったため、重くなるのを覚悟して追加で持つことに決めた。こうして、代替UTMBレースの準備を終えた。
そのころに、高低図と制限時間が発表された。どのようなアップダウンがあるのかが示され、ポイントごとの制限時間も記されていた。そして、スタート時間は19時に変更された。ただ、エイドのポイントなどは不明なままだった。スマホを見ながら、高低図と制限時間を急いでメモした。普通通りに走れれば制限時間の関門に引っかかることはないと考えていたが、何かがあった場合にはこれを頼りに関門をギリギリでも突破するために重要なツールなのだ。
スタート1時間ほど前にエディさんとミックスさんとホテルを出て、スタート地点へと向かった。すでに多くの人でにぎわっており、熱気が伝わって来た。アナウンスや音楽も流れ気分は高揚してくる。代替レースとは言え、これがあのUTMBか!と実感する。三好さんがすぐ後ろにいらっしゃって、写真を撮ったり、TDSを好成績で完走したソーケンさんやジョリーさんが来て応援してくれた。とても盛り上がっていたが、緊張感などは全くなく、楽しくて楽しくて、ココにいられることに心が踊っているという感じだった。
あっという間にスタート時間は近づく、鏑木さんを始めトップランナーがアナウンスされ、大きなモニターに映され最前列に並んだ。かっこいい!するとCCCの優勝選手がUTMBのスタートに合わせたかのように戻って来た。無茶苦茶速い。最高の演出だなと思うが、おそらくそんなことはなく、偶然にもいいタイミングで戻って来たのだ。彼の優勝を祝った後、19時少し過ぎにカウントダウンが始まった。UTMBのテーマ曲が流れはじめ、ボルテージは最高潮。発狂しながら、カウントダウンを大きな声でして、ついにUTMBスタート!
始まった。UTMBが始まった。
to be continued